記憶のたどり道
私こと御神楽雪菜と幼馴染の久遠アリサは共に過去に死んだはずの幼馴染の生き写しのような青年のもとに車で向かう。
彼の居所を携帯の電波回線から逆探知で突きとめたところは伝えられた居所の駅からずいぶんと離れた場所にあった。
道中の駐車場に車を止めてその場所へ向かう。
そこは私もよく知る場所。複雑な思いが心を乱し妙な期待感をもたせてしまいその期待した感情を振るい捨てるように首を振る。
「ありえない」
「まさか、学校に来てるとは驚いたですね」
目の前に建つ建造物は『私立桜見高等学校』。私とアリサ姉が高校の時に通っていた母校だった。
なぜ、彼がこのような場所に立ち寄ったのか。それは彼にここにいたという記憶があったからではないかという察しは考えられるけれど第一そんな可能性があったとしてならば彼が零時なのであろうか。
でも、零時の葬式はしっかりと上げ死体だってこの目で確認してる私にはどうしても彼が零時であるとは思えないのもある。
一体どうなっているの。
「彼が本当に零時君だという確証が高まりましたね、それにここに逆探知した携帯が落ちてます」
アリサ姉は電柱のそばに落とされた携帯電話を拾って中身を確認してるようだった。通話履歴のチェックなのだろう。
「で、でも、零時は数年前に私の前で死んだっ……アリサ姉はそれでも彼が……」
いつにもなく私は取り乱した。
そのことで部活帰りの後輩たちの視線が突き刺さるように心に痛い。
「とりあえずこの場にはいないみたいですし行きましょうか」
アリサ姉が気遣ってこの場から即座に退散するように手を引いてくれた。
私はその手を握りかえして離れようとした時に声を掛けられた。
「おう! 久遠と御神楽じゃないか。元気だったか」
「葉山先生、おひさしぶりです」
校門で生徒の下校を促していた教師が私たちの存在に気づいて声をかけた。
その教師は私とアリサねえのことをよく知ってる教師でもあった。数学をこの教師からはよく教わっていた。
「いやぁー、今日は来客が多いな」
「来客が多いとはどういうことですか?」
アリサ姉は私の代わりに葉山先生の応対をした。
彼は元教え子に会えてうれしそう。
「いや、な。数時間前にも奇妙な恰好をした不審な男が来たんだよ。だけど、な。そいつの顔どこかで見覚えがあるんだよ」
「それって……」
私はその言葉を聞いてピンと来た。
絶対に彼。彼以外にあり得ない。
アリサ姉は聞く。
「彼がどこにいたかわかりますか? あーえーっとだな。久遠や御神楽には複雑な心境になると思うがあいつの家だよ、例の久遠たちが在校中に亡くなった神内の……」
『神内』。それは幼馴染の零時の苗字である。『神内零時』。彼がもし、彼の家に向かったとするとどんどんと彼が零時である証明になってくる。
ギュッと心を締め付けられるように苦しい。
「おい、御神楽。顔が青白いが大丈夫か?」
「あー、先生。ユキちゃんと私急いでるんでこれで。会えてよかったです」
「あ、おい! 具合悪いなら少し保健室をあけてやるから休んで――」
元教師に別れを告げてそそくさと私とアリサ姉は学校から出て行った。
向かう先は零時の家。
でも、あそこにはもう彼の妹しか住んでいない。
なぜなら――
******
ドアチャイムを私は鳴らした。
すぐに飛び出したのは茶髪のワンテールに結わえた小顔のアイドルのようにかわいらしい美少女。
「お兄ちゃん! ……え? アリサお姉ちゃんと雪菜お姉ちゃん?」
「久しぶりですね萌花ちゃん」
「久しぶり萌花」
目を瞬き、彼女はぼろぼろと涙を流した。
数年ぶりの再開だった。彼は亡くなって以来だろうか。
彼女は涙ながらにきっと鋭い視線を私に浴びせた。
「か、帰って! お兄ちゃんを殺した人になんか会いたくありません!」
こうなることは私もアリサ姉も予想していた。
彼女の様子を窺いながら言葉を紡ぐ。
「は、話をさせて。萌花ちゃんの気持ちはわかる。私に会いたくないって気持ち」
「だったら帰ってください! お兄ちゃんもお母さんもお父さんもみんなみんな全部あなたのせいでいなくなった!」
「…………」
「ちょっと、萌花ちゃんそれは違います! ユキちゃんは何も悪く――」
「アリサお姉ちゃんもだよ! どうして、どうして零時お兄ちゃんをささえてやれなかったの! 知ってたんでしょ! いじめのこと!」
アリサ姉も論破されて口をつぐむ。
二人してこれ以上無駄だと悟った。
だけど――
「…………二人とも何しに来たんですか? さっきお兄ちゃんに似た人がウチの前にいたことと何か関係あるんですか?」
「萌花ちゃん彼を見たんですか!」
私たちは、話に食いついた。
「萌花、教えて。私たちは彼を追いかけてる。彼の居場所を教えて」
「その前に私の質問にも答えてください。さっきウチの前にいた人はお兄ちゃんなんですか!」
「そ、それは……」
私とアリサ姉はその質問の回答に言い淀んだ。私たちだって確信が持てていないことにどう返事をすればいいのか分からない。
「その質問はいまは答えが出せないです。私とユキちゃんも未だに彼がレイジかどうか判断できていない」
「どういう意味ですか?」
「彼は記憶がないうえに妙な連中に付きまとわれてるからです」
私はアリサ姉に忠告する。いくら零時の妹でもその情報を彼女に伝えていいのかと言う。
アリサ姉は人差し指を立てて私の唇に押し当てる。黙認してくださいというジェスチャーだった。
「お、お兄ちゃんかどうかわからない? それにへんな連中って……まるで最近テレビでやってるような話にそっくりな……」
彼女がやっぱり真実に迫りつつあった。
これ以上この場にいるのはかなり危険な行動になってしまう。
私はアリサ姉の袖を引いて先に行こうと催促する。
「ちょっと待ってください」
「でも、このままじゃあ彼女――」
なにをいいだすかわからない。
もし、ついてくなんて口にしたらどうするのだろう。
私たちだって零時をおう連中の顔を見てしまってるから命を狙われる可能性だってある。
そんな危険な状況下に彼女を同伴は出来ない。
「さっきの人なら目の前で私を何かで吹き飛ばして消えました。どこに行ったか知りません。でも、もしお兄ちゃんなら私はどこに行くか見当はつきます。同伴させるなら案内しますよ」
やはり、そう言いだした。
どうするのだろうか?
「いいですよ。なら、案内してください」
「ちょっと、アリサ姉!」
耳元に口を寄せアリサ姉は私に伝えた。彼女の兄の記憶は大事だと。もし、彼が零時なら家族の言葉は私たちより効き目があるんじゃないかと。
「で、でも最初に彼女に出会って反応ないならかわらない」
「最初はそうであっても二度目はわからない」
「……」
私は彼女の言い分をのんだ。
「萌花ちゃん、準備をしてきてください。私たちは車がありますので車で移動しましょう」




