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幽霊でエルフの姉は魂約者  作者: 岩川ヒロヒロ
第一章 幽霊でエルフの姉は魂約者
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第006話 【調理(中編)】 狼男の厨房、チリソース編

 ロウの目の前に巨大カニの足とハサミがデンと山盛りに積み上げられている。

 それを見ながら料理の完成図を頭で思い浮かべ、作業の手順を逆算して調理のやり方を考える。


「炒め物と……焼き物、蒸し物……と粥の四品だな。

 モノが少し大きいが、作り方はいつも通りでいいと思う」

「解りました。

 でも、流石に多すぎて食べきれないと思いますが……残った分はどうします?」


 オットーは以前、甲殻類はそのまま置いておくと黒く変色するし、傷みやすいので保存食には適さないとロウが言っていた事を思い出し訊ねた。


「後で料理しやすいように爪の身は全部丸めて団子にし、足はそのまま焼いて保存する。

 完全に火を通しておけば甲殻類でも結構保つしな。

 ま、これだけ多いと暫く飯はカニばっかりになっちまうが……」

「美味しいですがカニばかりだと飽きてきますし、栄養のバランスも偏りそうですね」


「カニなんて食べ飽きたわーなんて夢のあるセリフ、人生で一度は言ってみたかったわねぇ」


 二人が相談している横でエルザが良く解からない事を大声で叫んでいたが。


「旨いもんばっかり食っても元気に長生きってのが、飯作る奴の腕とコツだ」

「はい、勉強になります」


 二人には完全にスルーされていた。





「調理は段取りとスピードだ」

「はい」

「は~い」


「オレがカニの下処理をするから、お前は野菜の下処理を頼む。

 やりながらでいいから説明を聞いてくれ」

「分かりました、お願いします」


 オットーは人参、筍、椎茸を5ミリ位の大きさにカットし始める。


「さて、まずはハサミ……爪の身を団子にするか」


 その横でロウが巨大カニの爪を焜炉コンロに乗せて殻ごと軽く炙り始める。

 表面に火が通ったら冷水につけ、包丁の背で叩いて殻を割って爪の身を外して最後に水で綺麗に洗って細かな殻の欠片を取り除いていく。


「湯でボイルすれば手っ取り早いんだが、デカ過ぎて鍋に入らないからな」

「ねえ、ロウさん。なんで表面しか焼かないの? この工程で全部火を通しちゃえばいいんじゃないの?」


「これは身を取り出す為の作業だ。

 甲殻類は熱を加えると身が縮んで殻から外しやすくなるからな。

 それに、殻自体も脆くなるんだ」


 ロウは巨大カニの爪の身を包丁で一口大の大きさに切り分け、すり鉢に入れて軽くすり潰し、塩と胡椒と卵の白身を加えて、少しとろみが出るまでよく混ぜる。


「甲殻類は混ぜても粘りなんか出ないからな、卵の白身と片栗粉をつなぎで入れて形を整えやすくするぜ」

「はい、ロウ師匠。……こっちの野菜も準備出来ました」


 オットーはサッと火を通して冷水で冷ましていた人参、筍、椎茸に片栗粉を軽くまぶしてすり鉢の中に入れていく。

 それをロウが野菜を潰さないよう丁寧に、すり身と均等に混ざる様に合わせる。


「甲殻類は火の通りが早いから、混ぜる野菜には軽く火を入れておいた方が茹でるにしろ揚げるにしろ後で調理しやすいぞ」

「へ~、色々考えてるんだ」


 すり鉢の中を覗き込んでいたエルザとオットーは、ロウの段取りの良さに感心する。



「次にコイツを団子にする。手本はこんな感じか」


 ロウは手慣れた様子で、すり鉢の中の巨大カニの練り物を左手の指でコネながら食べやすい大きさの団子に丸め、右手で中火で温めていた油の中に素早く入れてゆく。


「見た目と違って器用よねぇ……」


 隣で見学していたエルザはロウの動きに見とれてしまい、つい本音を漏らす。


「ま、これは慣れかな。ちなみにコツは油を少し手に塗っておく事だ」


 オットーもロウの手つきを真似て団子を作ろうとするが、なかなか同じ大きさに団子がそろわない。


「これ、結構分量を同じにするの難しいですね」

「それも慣れだが……出来なければスプーンを二本使えばこんな事も出来る。」


 スプーンを両手で二本持ち、右手のスプーンで巨大カニの練り物をすくう。

 それを今度は左手のスプーンにこすり付ける様にして移していく。

 交互に五、六回繰り返して油に入れると今までと違い、卵をより尖らした様な楕円形の団子が出来ていた。


「同じ大きさの綺麗な面白い形の団子が出来るんだが、手で握るより余計な時間がかかるのがな……。

 こういうやり方もある、程度に覚えておけばいいぜ」


 会話しながらロウとオットーは団子を作ってゆく。


 その様子をエルザが興味津々に観察しながら、楽しそうに周りをウロウロしている。

 調理に夢中な二人は別段気にしている様子は無い。

 しかし、オットーの手元をのぞき込もうとエルザが弟の頭に胸を乗せた所を、ロウが良い物を見たとばかりに『むっ』と反応する。


 しばらく経って、団子作りが終わる頃にはオットーもそれなりに形が整った団子を作る事ができるようになっていた。

 先に入れて十分火の通ったものから順番に網を使い取り鍋から出す。





「さてと、次は団子にかけるチリソースだ。

 これはまあ、普通のご家庭でも作れるぐらいのレシピかな」

「はい、よろしくお願いします」

「は~い」


「一応先に言っておくが、複数の料理を作るときは同時に完成するように平行に作るのがセオリーだからな。

 今回は手順の説明の為に一品一品完成までキッチリと作っていくぜ」

「大人の事情ってやつね」


「鉄鍋は焦げ付かないように始めによく焼いておく。

 油を入れて鉄鍋によく馴染ませてから、余分な油は元に戻す。

 この辺りは基本だから今更説明する事でもないが……」

「それも大人の事情ってやつね」


「次に温めた鉄鍋に調理に使う分の油を入れ、豆板醤(空豆の発酵調味料)と細かく刻んだニンニクと生姜を入れてから炒めて香りを立たせる」

「まあ、豆板醤ぐらいなら普通の家庭にもギリギリあるわね」


「ケチャップ、酒醸チュウニャン(もち米の甘酒)、酒、砂糖、鶏ガラスープ、塩少々を加えて味を見ながら味のバランスを調節する。

 今日は特別に小さく刻んだ巨大カニの身を入れてソースにカニの風味を染みこませる」

「酒醸!? 何なのそれ!?」


「仕上げにカニ団子を入れて少し煮込んでから、細かく刻んだ長ネギを入れる。

 そして予め片栗粉を同量の水でといたものでとろみをつける。

 十分にとろみが付いたら溶き卵を入れて5秒ほどそのままで軽く火を通してから混ぜ、さらに油も少量加える。

 最後に強火で鍋を回しながら焦げる寸前まで温め、鍋肌からラー油を適量入れて火から外して仕上げにお酢を少量入れて、ひと混ぜすれば――――」


 ロウが説明しながらも高速で調味料を加えてゆくと、鍋の中の具材は見た事のある料理へと姿を変える。


「『カニ団子のチリソース』の完成だ」

「はい、勉強になります」

「わぁ~ 本当に美味しそう」


 出来上がった料理を皿に盛りながらロウは楽しそうに解説を続けた。


「コツはお玉で混ぜすぎると団子が潰れちまうから、なるべく鍋を小刻みに揺らして食材に負担を掛けない事。

 そして水溶き片栗を『だま』にならないようにする事と、出来るだけ調理時間をかけない事だ。

 特に最後の油は予め温めとくと都合がいいぞ」


「これならギリギリ、普通のご家庭でも作れますね」

「うむ、これならギリギリ、普通のご家庭でも作れる」

「普通のご家庭には豆板醤も酒醸も無いからどう考えても無理じゃないの?」


「ギリギリ作れる!!」

「はい、きっとギリギリ大丈夫ですよね!!!」


 これは一般的な家庭でも作れるような役に立つレシピだからと、ことさら強調するオットーとロウ。


 これもまた大人の事情というヤツなのだった。




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