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9 二週目 魔術 シャルル 後編

 それから研究室に戻ったシャルルたちは、中央のテーブルの椅子に対面するように座る。


「…さて、お前が助手として仕事をこなし、俺はお前に魔法を教えてしまった以上、俺は正式にお前の魔術担当教師になった。お前がファイアアローを習得できたら、次の魔法を教えてやる。もちろん、さっきのようにゴーレムを倒せたら、の話だがな」


「わかりましたわ」


「魔法の練習は、実験室を使え。必要ならゴーレムを使ってもいい」


「ゴーレムは高価なものではありませんの?先ほども何体か壊してしまいましたが、魔法の練習で使ってもいいんですの?」


 ゴーレムは、大型の魔法道具であり、主に不審者撃退などの警備用に用いられる。大きさは子供の身長と変わらないものから二階建ての建物と同じ高さのものまで存在する。体は泥や土、石でできているのが一般的だが、中には珍しい貴金属で構成されているものも僅かに存在するとか。

 材料費等でゴーレムを一体買うのに田舎に家が一軒建つ。


「構わねぇよ。あれらのゴーレムは、俺が作ったやつだからな。魔石いらずの土石製ゴーレムだから、いつでも作れる」


「魔石いらずですの!?」


 ゴーレムは動力源に魔力が込められた魔石が使われる。ゴーレムの大きさに比例して魔石も大きなものが必要となる。魔石は一般市場には流通していない貴重な石であり、購入するにも王宮からの許可が必要な代物である。

 リュークの研究室にいるゴーレムを動かすには、人間の頭とほぼ同じ大きさの魔石が必要であり、価格にすると王都に家が三軒建つほど非常に高価なものとなる。


 稀に魔石を使用していないゴーレムも存在するが、ゴーレムを一体動かすには魔術師が数人で魔力を込める必要があり、実用的ではない。つまり、実験室にあるような大きなゴーレムを魔石なしで複数体動かすのは理論上不可能である。


「俺の今の研究は、ゴーレムが題材だ。いろいろと試した結果、魔石なしゴーレムができた。大きなゴーレムを魔石なしで動かすにはいろいろと仕組みがあるが、それは秘密だ」


 ニヤリと笑うリューク。

 魔石なしの大きなゴーレムはリュークが生み出したが、その仕組みは公開されていないようだった。

 シャルルは、ふとカトリーヌが出席している魔術学会のことを思い出した。


「魔術学会では発表されませんの?魔石なしで一度に複数のゴーレムを動かすなんて画期的だと思うのですが」


 その言葉を聞いたリュークは、眉間にしわを寄せた。


「あんなところで発表するぐらいなら墓場まで持っていく。…おしゃべりはおしまいだ。今日はもう帰れ」


 そう言ってリュークは、書類の壁の向こうへ消えて行った。


「…御暇しますわ」


 シャルルも椅子から立ち上がり、荷物をまとめて入り口へ向かった。


『シャルル、カエル?』


「えぇ、ごきげんよう」


『ゴキゲンヨウ』


 入り口の警備用ゴーレムに挨拶し、シャルルは研究室を出た。そして、魔術棟の扉を開き、外へ出た。


「…出られましたわ。やはり、リューク先生のもとへ行くのが女神様のお導きということでなのでしょうか」


 シャルルは帰路についた。



--------------------------



 翌日、シャルルは昨日渡されたノートに従い、実験室でファイアアローの練習をしていた。

 

「まず、火の玉を出す」


 ノートには、ファイアアローを発動させるための段階が絵とともに記されていた。シャルルは、絵の通りに左右の手を前にだし、火の玉を出現させた。

 このまま火の玉を放てば、初級魔法ファイアボールである。


「次に、火の玉を矢の形に変える」


 魔力を調節し、火の玉の形を矢に変化させる。


「そして、放つ…ファイアアロー!」


 火の矢が真っ直ぐ前方に進み、ファイアボールの二倍の距離まで飛んだ。


「で、できましたわ!」


 シャルルは、ファイアアローを習得した。


「いや、まだだな」


「え?」


 声が聞こえた方向に振り向くと、そこには腕を組んだリュークがいた。


「リューク先生?」


「よく見てろ。ファイアアロー!」


 リュークは、片手を前にだし、ファイアアローを放つ。ファイアアローは、真っ直ぐ飛んだあと、直角に曲がり、壁に刺さった。


「真っ直ぐ飛ぶだけじゃ、ファイアボールと変わらない。動きを制御できて初めて習得できたといえる。もう一回やってみろ」


「わかりましたわ」


 シャルルはもう一度ファイアアローを放つ。しかし、真っ直ぐ前に飛ぶだけだった。


「もう一度!」


「はい!」


 シャルルは繰り返しファイアアローを放ったが、進行方向を変えることはできなかった。

 そして、魔力が切れてしまい、その日の練習は終わった。


 数日にわたって練習を重ねたが、ファイアアローの進行方向に変化はなかった。




「今日は、ゴーレムに向けて打ってみろ」


 平日最後の日、リュークは一体のゴーレムを用意していた。


「やってみますわ」


 シャルルは、ファイアアローを放つ構えを取った。


「ゴーレム、動け」


『リョウカイ』


 リュークの命令でゴーレムが左右に動き出した。しかし、その動きはゴーレムとは思えない速さであった。


「速すぎますわ!」


「すごいだろ?スピードに特化したゴーレムだ」


 ニヤリと笑うリューク。彼は、自身の研究成果を見せるときに思わず口角を上げてしまうようだ。


「ゴーレムの動きをよく見て考えろ!」


「速すぎてわかりませんわよ!」


 シャルルは、リュークのアドバイス通りにゴーレムの動きを観察するが、ゴーレムの素早さに目が追いつかない。


「素早て当たりませんわよ!」


 何発かファイアアローを放ったが、ゴーレムにすべて避けられてしまった。


「右に左にと!右に左…あら?」


 シャルルは、ゴーレムの動きに規則性があることに気づく。

 ゴーレムは、一定の距離を左右に動くだけであり、上下前後には動いていなかった。ゴーレムの左右に攻撃を放てば、当たるのである。


「左右から当てればいいのですわ!」


 シャルルは壁の側に移動し、再び構える。ゴーレムの動きを注意深く観察し、ファイアアローの軌道を具体的にイメージする。


「ファイアアロー!」


 火の玉が矢に変化し、ゴーレムに向かって真っすぐ飛ぶ。そして、垂直に曲がり、ゴーレムに刺さった。ゴーレムは、動きを止めた。


「やりましたわ!!」


 胸の前で手を組んで喜ぶシャルル。


「リューク先生のおかげですわ」

 

 シャルルは振り向き、リュークに礼を言う。


「気にすんな。これもゴーレムの実験の一つだ」

 

 リュークは、シャルルの横を通り、ゴーレムの前でしゃがみ、修理を始めた。


「実験!?そんなこと聞いてませんわよ!」


「このゴーレムは昨日作ったばかりで、機動実験したかったんだ。結果は良好だな」


 リュークは手際よくゴーレムの修理を進めている。


「それは良かったですわね…」


 シャルルは、リュークが魔法の練習のためにゴーレムを用意したと思っていた。しかし、リュークはゴーレムの実験をするためにシャルルを利用していただけだった。知らずに利用されたシャルルは、肩を落とした。


「速さは良好。だが左右にしか動かないのは課題だな…前後に動くには…いや、上下の動きもほしい…」


「聞こえていませんわね」


 リュークは、考察に集中しており、シャルルの声は聞こえていなかった。


「今日はもう帰りますわ。ごきげんよう」


 シャルルは、実験室を出た。



 帰宅したシャルルは自室で今週の出来事を振り返っていた。


「カトリーヌ先生の下に行けなかったのは残念でしたが、女神様のお導きでリューク先生と知り合えましたわね」


 カトリーヌの下に行けず、魔術棟からも出られなくなったときは、冷や汗を流したことも思い出す。


「それに、リューク先生はひどい先生でしたわ!」


 出会って早々に複数体のゴーレムとの戦闘をさせたリュークに憤りを感じていた。


「…ですが、なんだかんだ言って面倒見は良い先生でしたわね」


 初級魔法ファイアボールしか使えなかったシャルルだったが、リュークのおかげで上位互換のファイアアローを習得することができた。

 そして、実験のついでとはいえ、ファイアアローを使いこなす段階まで練習に付き合ってくれたことにシャルルは感謝していた。


「さて、明日は休日ですわ!何しましょう?」


 シャルルは、明日の予定を考え始めた。






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