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6 一週目 休日 シャルル

「シャルル、学園生活はどうだね?」


「充実した生活を送っていますわ、お父様。今週は、ロッソ・ファラード様と剣術の稽古をしましたの」


 休日の朝、朝食を食べながらシャルルは、父親のグラン・ブラーム侯爵と母親のイリアと学園生活について会話をする。


「ほほう、ロッソ・ファラードというと、ファラード伯爵の息子か。騎士団入団が決定しているという…」


「その通りですわ。ロッソ様の指導のおかげでかなり上達しましたの」


「それは何よりだ!」


 ハハハと笑うグラン。

 グラン・ブラーム侯爵は、王宮に勤める政官である。ぽってりと膨らんだ腹とつぶらな瞳はタヌキを連想するが、ずるがしこい狸親父ではなく、家庭を大切にする男である。しかし、娘をかわいがるあまり、甘やかすことが多い。


「シャルルさん、怪我はしていませんか?」


「大丈夫ですわ、お母様。ですが、剣を振るったので、腕や足が痛いですわ。」


「怪我がなくて何よりです。腕や足が痛いのはおそらく筋肉痛でしょう。今日明日はゆっくり休みなさい」


「そういたしますわ」


 シャルルに怪我がないことがわかり、安心するイリア。

 イリアは、夫グランの10歳年下で、亜麻色の長い髪をきちりと束ね挙げている。つぶらな瞳のグランとは対照的にイリアは切れ長の大きな目を持ち、シャルルの目元はイリアによく似ている。そしてイリアは、夫を陰ながら支え、娘の良き手本となる良妻賢母な女性である。


「シャルル。明日、私とイリアは王宮でのパーティーに出席しなければならない。留守番でいいかな?」


「はい。今の私は満足にダンスも踊れないですから」


 グランは、明日の予定をシャルルに伝える。シャルルは、留守番を快諾する。


「そうだな。では、マリア、シャルルのことを頼むぞ」


「かしこまりました」


 部屋の隅で待機していたシャルルの専属侍女マリアが頭を下げた。


 

 その日、シャルルは体を休めるため、自室で過ごした。



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「おはようございます、お嬢様」


「おはよう、マリア」


 昨日は一日ゆっくり過ごしたおかげで、疲れが取れました。


「今日はお父様とお母様はお出かけでしたわね」


「はい。王宮でのパーティーは夜ですが、朝早くからお二人で郊外へ出かけられました」


「デートですわね」


 お父様とお母様はたびたび二人だけでお出かけします。お二人の仲は大変よろしく、私が小さい頃でも月に二度はお二人だけで出かけていました。小さい頃はその日がとても寂しくて嫌いな日だったと覚えています。


 ですが、今はマリアがいるので寂しくありません。お父様とお母様がデートする日は、マリアと街へ出かけることが習慣となりました。


「マリア、街へ行きたいわ」


「かしこまりました」


 お出かけ用の服に着替えて街へ出かけました。



--------------------------



ヴァルゴ王国 王都


「お嬢様、今日はどちらに行かれますか?」


 特に行くお店を決めていませんでしたわね。いつもなら、服飾や小物を扱うお店に行きますが、今日はそのような気分ではありませんでした。


「そうですわね、今日は…」


 当てもなく歩いていましたら、広場へたどり着きました。そこには見覚えのあるお方がいらっしゃいました。


「あら、あちらにいらっしゃるのはロッソ様ですわ」


「お嬢様の剣術の師匠の方ですね」


「そうですわね」


 正確には師匠ではなく先輩ですが、指導していただいてるので師匠で合っているのかもしれません。

 私は、ロッソ様のそばに行き、挨拶をしました。


「ごきげんよう、ロッソ様」


「こんにちは、シャルル嬢。こんなところで会うなんて珍しいな」


「今日は、街を散策していましたの。ところで、大荷物のようですが、従者の方は連れていませんの?」


 ロッソ様の足元には、数箱の木箱がありました。とても一人で持ち歩く量ではありません。ですが、ロッソ様の近くには従者らしき人はいませんでした。


「ああ、従者は連れていない。買い物はいつも一人だ」


「え!?」


「これだけの荷物を運ぶのも、鍛錬の一つになるからな!ハハハ!」


 と笑うロッソ様。ロッソ様にとっては、木箱を運ぶことも鍛錬の一つなのでしょう。


「ロッソ様は、常に鍛錬を重ねているのですね」


「如何にも!…せっかくだ、これを受け取ってくれ」


 ロッソ様は、木箱から数個のリンゴを取り出し、私に手渡しました。


「おいしそうなリンゴですわ。ありがとうございます、ロッソ様」


「どういたしまして。では、俺は帰る。また、学園でな」


「はい」


 そういってロッソ様は、木箱を抱えて広場を出ていきました。あれだけの大荷物でしたのに足取りはたしかなものでした。


 いただいたリンゴは、とてもいい匂いがします。


「ねぇ、マリア。このリンゴで何か作ってくださいな」


「はい、お嬢様。とても良質なリンゴですね。これならきっと美味しいアップルパイを作ることができますよ」


「まあ、素敵!…では、私たちも帰りましょう。早くアップルパイが食べたいですわ」


 私は頂いたリンゴをマリアに預けて、帰路につきました。



 ロッソ様に頂いたリンゴで作ったアップルパイは、とても美味しゅうございました。






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