3 一週目 剣術 ミサ
ミサは、パッケージでも、オープニングでも、プレイヤーキャラはヒロイン、リーナであると思っていた。
しかし、長い長いエンディングのようなオープニングムービーが終わったゲーム画面に表示されたプレイヤーキャラは、令嬢シャルルであった。
「何なんだこのゲーム!」
「でも、ミサ、説明書見てよ」
ユキは、パッケージの中に入っていた厚めの説明書を広げ、キャラクター紹介ページをミサに見せた。そこには、シャルルとリーナ、そしてアルジェントの立ち絵とキャラクター紹介が記載されていた。
【シャルル・ブラーム(主人公)
ブラーム侯爵の一人娘。10歳の時にアルジェントと婚約を結んだ。高飛車で嫉妬深い性格。
学問:△ 剣術:× 魔術:△】
【リーナ・クラリス
王都に住む平民の娘。努力家で心優しい。学園一の魔力量から特待生としてアリエス学園に入学する。
学問:△ 剣術:△ 魔術:◎】
【アルジェント・ヴェルナー(攻略対象)
銀色の貴公子。ヴェルナー伯爵家の長男。11歳の時にシャルルと婚約した。頭脳明晰運動神経抜群容姿端麗。
学問:◎ 剣術:◎ 魔術:◎】
同じように数名の攻略キャラやサブキャラが数ページにわたって紹介されていた。
キャラクター紹介の次は、ゲームのシステムについて説明されていた。ミサは説明文を読み上げる。
「なになに…?
【令嬢シャルルを育成し、他の登場人物たちの好感度を上げて卒業を迎えましょう。シャルルの育成に失敗すると、彼女は嫉妬心に駆られて死を招いてしまいます。】
……って、育成に失敗すると死ぬって、オープニングのこと?!」
「バッドエンドをオープニングで流すなんて、なかなか斬新なゲームだね」
ユキは、ゲームに興味を抱いた。
「そうだね…。
【平日に学問、剣術、魔術のいずれかのコマンドを選んでスキルアップし、休日は休暇を取ったりデートをします。アリエス学園では、剣術と魔術は、実戦形式で覚えます(ミニゲーム:模擬戦闘)】
…おっ!アクションゲー要素もあるんだ!いいね!」
変てこな乙女ゲームに再びやる気がそがれていたミサだが、アクションゲーム要素があることにテンションが高まる。
「ただの乙女ゲームじゃないね。面白そう」
「とにかく、王子もとい銀髪貴公子は無視して令嬢を育てて強くするぞー!」
「乙女ゲームなんだから、好感度は大事だよ!」
ミサは、乙女ゲームとしてではなく、アクション育成ゲームとして遊ぶことにした。
適当にボタンを押しながら説明書を読んでいたため、あっという間に入学式を終え、平日のコマンド選択画面になっていた。
画面上部には、シャルルの現在の学問、剣術、魔術のスキル値、体力値が表示されている。
「意外と低いな、シャルル」
「キャラ紹介には、学問:△ 剣術:× 魔術:△って書いてあるから、中の下なんじゃない?」
「育成ゲームだし、これぐらいからスタートなのがいいよね。よし、さっそく剣術だ!」
ミサは、剣術コマンドを選択した。
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アリエス学園 トレーニングルーム
『ここが、トレーニングルームですわね。』
シャルルは、木刀を手にしてトレーニングルームの扉を開いた。
『セイヤッ!セイヤッ!……ハアッ!』
緋色の短髪の青年が木刀で訓練用の人形に打ち込んでいた。剣を振り下ろす度、ぬれている髪の毛から汗がはじけとぶ。
『セイヤッ!……お?誰だ?新入生か?』
様子を見ていたシャルルに気づき、青年は手を止めてシャルルに近づく。シャルルより数十センチ背が高く、剣術によって鍛え上げられた肉体は相手に威圧を感じさせる。
『そうですわ』
『そうか!初日から剣術の稽古だなんて良い心がけだ!俺の名前は、ロッソ・ファラード、2年だ』
笑顔で自己紹介をするロッソ。その笑顔は、相手に威圧を与えるほどの体格とは対照的な少年のような笑顔であった。
『シャルル・ブラーム、1年生ですわ。』
シャルルは、丁寧にお辞儀をした。
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【ロッソ・ファラード(攻略対象)
緋色の貴公子。2年生。剣術の才能に秀でているが、学問と魔術は苦手。すでに騎士団からの推薦を受け、卒業後に入団が決定している。
学問:× 剣術:◎ 魔術:×】
「パラメーターは、典型的脳筋キャラって感じか。」
「さわやかでいいね」
説明書に目を通すミサ。剣術コマンドの説明にも目を通す。
ちなみにユキは、爽やか系筋肉キャラも好みであるようだ。
画面には、選択肢が表示される。
[ 1.ロッソと剣術の稽古をする
2.一人で稽古をする
3.立ち去る ]
【攻略対象キャラクターと一緒に学問、剣術、魔術の訓練を行うことにより、好感度が上昇します。一人で練習するより若干スキル値の上昇が高まります】
コマンドの説明文は、好感度の上げ方についても触れていた。
「まあ、普通に考えて一緒に稽古だよね」
「そうだね。攻略ルートが決まっていない最初のうちは、とりあえず誰かと一緒にやった方が効率いいと思うよ」
ミサの選択に同意するユキ。1番の選択肢を選択した。
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『よし!じゃあ、俺と一緒に稽古をしよう!アリエス学園においての稽古方法は知っているかな?』
『存じていますわ。模擬戦闘による稽古だそうですわね。しかし、私は剣術が苦手でして弱いですわよ?』
『心配しなくても大丈夫さ!俺も手加減するし、遠慮なく打ち込んできてくれ!ともに強くなろう!』
そういってロッソは剣を構えた。シャルルも同じように剣を構える。
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画面には、操作方法が表示される。いわゆる、チュートリアル戦闘である。
左上にはシャルルのHP、右上には敵、ロッソのHPが表示されている。コントローラーの右側の4つのボタンには、それぞれ攻撃、回避、防御、技が割り振られている。左側の方向キーやスティックでキャラクターを操作する。
「よし!勝つぞ!」
ミサは気合を入れて、チュートリアルに従いながら操作する。
ロッソの攻撃を回避しつつ、攻撃を行うヒットアンドウェイ戦法でロッソを倒そうとする。しかし、剣術スキルの低いシャルルの攻撃は、わずか1しか与えることができなかった。そして、回避しきれずにロッソの攻撃が当たり一撃でシャルルのHPは0になってしまった。
「負けた!シャルル弱い!!ロッソ強すぎ!」
「シャルルは剣術苦手みたいだし、ロッソは騎士団入団するほどの腕前だから当然の結果だよ」
「うぬぬ、手加減するとか嘘か!いや、チュートリアルだから仕方ないのか!」
悔しがるミサ。ヒットアンドウェイ戦法でもHPはわずか1割しか減らすことができなかったため、もともと負け戦のチュートリアルだったと考える。
「でも、チュートリアルで負けても経験値とかはくれるみたいだね」
戦闘結果画面に移り、わずかばかりの経験値を取得した。シャルルの剣術スキルが10上がった。
「負けても経験値くれるなんてやさしい!」
ミサは小さくガッツポーズした。
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『負けましたわ、ファラード様』
『いや、俺こそつい熱くなってしまって申し訳ない。大丈夫か?』
膝をついて息切れするシャルルに手を差し出すロッソ。シャルルは、手を取って立ち上がった。
『ファラードじゃなくてロッソでいい。 さて、君と試合していくつか気になることがあったのだが』
ロッソは、シャルルの剣術の問題点をいくつか指摘した。
『とりあえず指摘したところを直してみてくれ、そうしたらもっと良い剣になるだろう』
『ありがとうございます、ロッソ様。』
『いいってことよ!かわいい後輩のためだ!ハハハ!』
豪快に笑うロッソ。
『また明日もお願いしてもよろしいでしょうか?』
『ぜひ来てくれ!』
シャルルは礼をして、トレーニングルームを出た。
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ピロリンと好感度が上昇したSEが鳴る。
「なるほど、負けても指導してくれるから経験値が上がったんだ」
ロッソとシャルルのやり取りで負けても経験値が入ったことに納得するミサ。
「こんな感じで毎回戦闘するのかな?」
「RPGでも雑魚戦があるからそんな感じでやるんじゃない?」
ミサの疑問に憶測で答えるユキ。
「戦闘自体は面白かったからまあいっか。」
画面は、シャルルの部屋に戻っていた。
その日に変動したスキル値と体力や各キャラクターの好感度がグラフで表示される。
「剣術が10上がって、体力が10減ったか…。今の最大体力は100だから、2週間平日剣術したら体力0になっちゃうわけか。0になると死ぬ?」
「そんなことはないみたいだよ、ミサ。
【体力が0になると、病気(または怪我)となり、翌週は行動が不可能になります。体力に気を付け、休日には休暇を取りましょう。剣術が最も体力が消費しやすく、学問が最も消費しにくくなっています】
だってさ。」
ユキの説明を聞き、ミサは次の週のコマンドを考える。今週の休日は、休みコマンドを選ぶことにする。
「へー、じゃあ、次の週は魔術か学問をやってみよう」