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12 二週目 休日 シャルル 前編

ヴァルゴ王国 王都


「お嬢様、今日はどちらへ行かれますか?」


「そうですわね、今日は広場の向こうにある小物店へ行くわ」


 無事に新しい魔法を覚えられた私は少々浮かれていました。お気に入りの小物店で何を買うかそればかり考えていました。

 広場に差し掛かったころ、噴水の前によく知る方の姿を見つけました。


「あの方は、アルジェント様!」


 あの丘の時以来、女神様の奇跡が起きてから初めてアルジェント様の姿を拝見しました。

 以前の私なら、すぐさま駆け寄ってアルジェント様に挨拶をしていたでしょう。以前は学園でもアルジェント様とともに過ごしたいがために色々な手段を使っていたことを思い出します。

 

「隣にいるお嬢さんは誰でしょうか。身なりは、平民のようですが」


「平民?」


 マリアの言葉を聞いて、私は改めてアルジェント様の方をよく見ます。すると、アルジェント様の隣には平民の少女がいました。楽しそうに談笑をしているようですが。


「どうされますか?お嬢様・・・お嬢様?」


 私は、平民の少女の顔を見て固まってしまいました。


(あ、あの娘は、リーナ!)


 学園生活では剣術や魔術に励んでいたため、アルジェント様にお会いする暇はありませんでした。そのおかげかあの娘の姿を見ることもありませんでした。

 学園に入学した頃からアルジェント様は、あの娘を気にかけていました。


--------------------------


『シャルル、君の学年には学園史上最大の魔力保有者がいるらしい。しかも、貴族じゃなくて平民なんだそうだ。興味深いとは思わないかい?』


『どうやら、剣術と学問は平凡だが、魔術の才能が素晴らしいらしい。次々と新しい魔法を手に入れているようだ。僕が覚えている数よりを超えるかもしれない!ぜひ、一度手合せしたいものだよ』


『まさか、平民の少女とは思わなかった。だが、優しい娘だ。シャルルも一度会ってみるといい。良き友人になるかもしれない』


 アルジェント様があの娘に興味を持てば持つほど私の心は荒んでいきました。あの娘にアルジェント様を奪われるかもしれない、そう思い始めた頃、あの丘でアルジェント様があの娘の隣でうたた寝している所を目撃したのです。


 私の心が真っ黒に染まった瞬間でした。それからのことはもう思い出したくもありません。


 気が付けば、私はあの娘に襲い掛かっていました。そして、あの娘を助けに来たアルジェント様に私は…。



-------------------------- 


「…さま!…お嬢様!」


「!」


 マリアが心配そうに私の顔を見ていました。少々もの思いにふけってしまったようです。


「大丈夫ですか!?御気分が悪いようでしたら、帰りましょう?」


「いえ、大丈夫ですわ。ちょっとアルジェント様に見惚れていただけですわ。アルジェント様に挨拶していきましょう」




「ごきげんよう、アルジェント様」

 

 私は、アルジェント様の後ろに回り、背後から声をかけました。すると、アルジェント様は驚いたように後ろを振り返りました。私の姿を確認すると、やや上ずった声で笑顔で答えました。


「やあ!シャルル、こんなところで会うなんて奇遇だね」


「そうですわね。つい、お声をかけてしまいましたわ。あら、こちらのお嬢さんは?」


 以前の私ならどうしたところでしょうか。きっと、アルジェント様を激しく追及したかもしれません。

 ですが、今の私はそんなことはしません。あの頃より心の余裕を感じることができます。婚約者として自信をもってあの娘と対峙できるでしょう。


 私は、あの娘に近づき、挨拶をしました。


「ごきげんよう。私はこちらのアルジェント・ヴェルナー様の婚約者で、シャルル・ブラームと申しますわ」


「は、初めまして!私はリーナ・クラリスです!アリエス学園の1年生です!」


 あの娘は勢いよくお辞儀をしました。

 あわよくば、女神様の奇跡によってこの娘が学園にいないことを願っていましたが、そんなことはありませんでした。


「まあ、そうでしたの?私もアリエス学園の1年生ですのよ」


 私は手に持っていた扇で口元を隠して微笑みました。ここでこの娘にはっきりと私の事を印象付けられれば、アルジェント様と親しくしようとは思わないでしょう。


 私は、アルジェント様の腕に自分の腕をからませました。


「ところでリーナさんは、アルジェント様とどんなお話をされていたのかしら?」


「え、そんなお話だなんて!たまたまここでお会いしたので、挨拶をしました」


「そう。アルジェント様はこの子とお知り合いでしたのね?」


 アルジェント様を見上げました。アルジェント様も私の方に顔を向け答えてくださいました。


「ああ。入学式の日、敷地内で迷子になっていた彼女を会場に案内したんだ」


「学園の敷地は広いですものね。さすがアルジェント様、お優しいですわ」


 すると、様子を見ていたあの娘は再び勢いよく頭を下げました。


「アルジェント様、シャルル様、すみません!私、お使いがあるので失礼します!」


「あら、引き留めてごめんなさいね。リーナさん、学園でお会いした時はよろしくね。ごきげんよう」


「失礼します!」


 あの娘は市場の方へ駆けて行きました。


「アルジェント様、ごめんなさい。お邪魔だったでしょうか?」


「いや、そんなことはないよ、シャルル」


 そう答えるアルジェント様は、まっすぐ前を向いていました。私にはアルジェント様の表情が読めませんでした。



「ところで、シャルルも用事があるんじゃないのかい?君の侍女がそこにいるようだが」


「ええ、ちょっとお買い物を。もしよろしかったら、アルジェント様もご一緒に…」


「そうだな。せっかくの婚約者のお誘いだ。ぜひ、エスコートさせてもらおう」


 私は、アルジェント様にエスコートされ、小物店へ向かいました。



--------------------------



「そういえば、近々夜会が開かれるようだよ」


「まあ!それは素敵ですわ。ぜひ、行きたいですわ」


 シャルルの買い物が終わり、アルジェントはシャルルに付き添いシャルルの自宅であるブラーム邸へ送る途中、夜会が開かれることを伝える。


「今度の夜会は僕がエスコートしよう」


「とても嬉しいですわ!ありがとうございます」


 シャルルは、幸せそうに微笑む。

 そして、ブラーム邸の門の前に着く。アルジェントは、シャルルの手の甲へ軽く口づけをする。


「おやすみ、シャルル」


「おやすみなさいませ、アルジェント様」


 アルジェントは来た道を戻り、シャルルもまたブラーム邸の門を潜った。




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