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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その5・遊ぶ時こそ全力で臨むべき

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53.類似/開示

「――――で、俺が呼ばれた訳ですか」


「いや、その、正確には呼んだというか、シスカに嵌められというか……」



 憮然とした様子のヴォルフに、しどろもどろになりながらも弁明する。今回の件に限って言えば、私はそんなに悪くない、筈。


 そう思いながら、私はこの状況に至った経緯を思い起こしていた。





 ――トーリと話した次の日、フランシスカがそれとなく昨日の話題を振ってきたので、当たり障りのない事を掻い摘んで説明したのだが、どうやら彼女の中でおかしな風に解釈されたらしい。


 話終わった後に、フランシスカは私の手を握りこう言った。



「私に全部お任せ下さい」



 ……いや、何をどうしろと。


 そう思ったが、あまりにも気合が入っていたので曖昧に笑って頷いてしまった。恐らくそれがいけなかったのだろう。事実確認は絶対必要という事がよく分かった。



 その後、「夜中に私の部屋に来てください」と言われ、ガールズトークかな、と思いながらちょっとワクワクしながら部屋に向かったのだが、出てきたのは何故かヴォルフだった。


 ドアが開いた瞬間、正直時が止まった気がした。その時点で私の心の中はプチ修羅場だったと言ってもいい。

 部屋を間違えたのかと思って確認してみても、彼女の部屋で間違いはないし、部屋の内装もシスカの物だ。では、何故?


 挙動不審な私を見て、ヴォルフは何かを察したのか、ため息を吐いて「どうぞ」と私をシスカの部屋に招き入れた。そして思い至った経緯を話して今に至る。



「あの愚妹……。――魔王様、ちょっと席を外します。すぐに戻りますので」


「え、ちょ、何する気!?」


「いえ、少し部屋に戻るだけです。必要なものがあるので」



 ――それに、アイツを締めるのは明日でも構いませんから。そうヴォルフはギリギリ聞こえるような声量で呟いた。怖い。



 機嫌の悪そうなヴォルフの背を見送りつつも、私は備え付けのテーブルの上で頭を抱えた。



「なに、この状況……」



 意図は兎も角、彼女がこの部屋を選んだ理由は何となく分かる。この部屋も私の部屋と同様に、ありとあらゆる外からの魔術干渉を拒絶するように加工しているからだろう。


 まぁ、ぶっちゃけて言うとトーリ対策である。この件でも彼らの間に一悶着あったのだが、それは彼らの名誉の為にも黙る事にしよう。





 ガチャリ、という音を聞き、頭を上げる。どうやらヴォルフが戻ってきたようだ。そりゃあ、数部屋しか離れてないだろうし戻るのは早いだろうけどさ。でも正直早すぎて心の準備が出来なかった。



「すいません、お待たせいたしました」


「大丈夫、全然待ってないから。……というか、それって」



 私はそう言って、ヴォルフの両手にある物を指差した。


 ヴォルフは私の言葉を聞くと、真顔でゆっくりと頷く。



「はい、ガルシアさんが断酒の為に俺に預けた秘蔵の酒です」



 ヴォルフの手にはお盆が置いてあり、その上にはグラスが二つと、大き目の瓶が二本置かれていた。それは彼が言う通り、ガルシアが預けた物で相違なかった。



 ……あれは確か半月前だったかな。ガルシアがタニアさんから、飲酒禁止令を出されたのだ。

 期間は子供が無事に生まれるまで。因みにタニアさんは現在妊娠八ヶ月目である。

 別に酒癖が悪かったという訳でもないので、ある種のストレスによるヒステリーじゃないかな、と予想している。まぁ自分が重たいお腹を抱えているのに、呑気に酒を飲んでたらちょっとイラッとはするのかもしれない。でもその辺りは私が踏み込むべきではないだろう。夫婦の問題だし。


 それは兎も角、ヴォルフが持ってきた酒はガルシアが泣く泣く手放した物であり、本来手を付けてはいけない物のはずだ。



「最近ガルシアさんの『返して欲しい、……いや、やっぱりまだいい』の流れが少し鬱陶しくて。いっそ無くなってしまえば、迷う事も無くなるでしょうから」


「ヴォルフって大人しそうな見かけによらず、意外と短気だよね」


「ありがとうございます」



 私が苦笑いしながら言うと、ヴォルフは平然とした表情でそう言った。


 いや、褒めてないけど……。


 そう思ったが、いつものやり取りなので言い返さないでおこう。どうせ口で争っても勝てる気がしない。曖昧な笑いで留めておくとしよう。



「いいですか?この酒瓶は『棚に置いていたが、うっかり落として割ってしまった』のです。ガルシアさんもきっと誠心誠意謝れば許してくれることでしょう」


「オーケー、共犯だね。まぁそれだけだとなんだし、お詫び用の品物でも用意しておくよ」


「助かります」



 そんなやり取りをしつつ、ヴォルフは席に着き、グラスに酒を注ぎ始めた。


 茶色をしたその液体は、あちらでいう所のウィスキーに近い味をしていると思う。正確に言うならば昔食べたウィスキーボンボンの様な風味というだけで、詳しい判断は出来ないんだけど。だって飲んだ事無いし。


 そんな事を思いつつも、コクリ、とお酒を飲みこむ。独特の苦みと焼ける様な熱さが喉を通り過ぎ、胃の辺りが温かくなるような感じがした。

 うん、相変わらずアルコールの良さってものは全然わからないや。飲めない訳ではないけど、美味しいとは思えない。



「でも珍しいね。ヴォルフって殆どお酒とか飲まないでしょ?」



 軽い乾杯の後に、私が何気なくそう言うとヴォルフは心底苦々しいとでも言いたげに顔を歪めた。



「……魔王様は、俺に素面のまま恋愛談義をしろと仰るのですか」


「…………ゴメン、私が悪かったよ」



 何とも言えない気持ちになった。そりゃあ、飲みたくもなるか。ああいう系の話は気合を入れないとゴリゴリ精神力を削っていくからなぁ。私もたまにシスカ相手に酷い目に合うし。


 ヴォルフはグイッとグラスの中身を煽ると、はぁ、と小さく息を吐き出した。



「で、何でしたか? 魔王様がモテないのはお転婆すぎるせいで、皆が引いてしまうせいだという話ですか」


「そんな話はしてなかったよね!?」



 確かにその通りだけど!!否定できないけど!!



「もうすぐ二十歳になるのにお転婆扱いは止めてよ……。確かに小さい頃は、家の裏の森で友達と駆け回ってたけどさぁ、今はまだ大人しい方なんだよ?」


「あれで、ですか?」


「私の全盛期を舐めてもらっては困るね。私は今のユーグと同じくらいの歳に魔法も何も無しで野生のイノシシと対峙した事もあるんだ」



 まぁ、入ってはいけないと言われた森の奥まで突っ走った結果そうなっただけで、自業自得なんだけど。


 因みに全治二ヶ月だった。一応は友人を守ったという大義名分の、ある意味名誉の負傷である。



「ただの馬鹿じゃないですか」


「…………うん」



 その通りである。


 でも『あの頃は若かった』と言えるだけマシになったと思いたい。周りからみたらそう変わってないのかも知れないけど。


 ヴォルフはしゅんとした私を見て、呆れ顔をしつつも、ふと気が付いた風に言った。



「でも森があるという事は、住んでいた場所は田舎の方だったんですか?」


「いや、それなりに栄えてる場所だけど、森は祖母の所有物だから全く開発されてないんだよ。一応隣接する神社の神域扱いだから手付かずなのは当然なんだけどね」


「……所有って、魔王様は元は貴族か何かだったのですか?」


「いや、普通の一般市民。でも小さい神社とはいえ代々神職だったから、昔は偉い立場だったのかもね。それに何だっけ、有名な巫子の系譜らしいよ。やまとと、と、あー、えーと……、何かそんな名前の。嘘臭くて私は信じてないけど」


 その巫子の名前がさっぱり思い出せなかった。


 ……興味が無かったしなぁ。こんな事ならば、もう少し真剣に祖母の話を聞いておけば良かったかもしれない。


 そうしみじみと考えていると、ヴォルフは穏やかな顔で私を見つめている事に気が付いた。



「な、なに? どうかした?」



 いつもと違う様子に私が狼狽えると、ヴォルフはふっと笑って言った。



「ああいえ、――最近は昔の話をよく出す様になったな、と思いまして」


「そうかな?」


「そうですよ」



 そうか。自分では全く意識していなかったけど、言われてみればそうかもしれない。


 でも、それは決して懐かしいからとか、そういう訳ではなく、きっと――、



「――心に余裕が出てきたのかもしれないなぁ」



 昔の事を思いだしても心が痛まなくなるくらいには、この世界に対する憎しみも悲しみも風化していた。時の流れの為か、それとも此処の暖かな環境のお蔭かは分からないけど。


 そう思えるくらいには、救われている。



「こちらとしては聞く度にヒヤヒヤする内容なんですけどね。――――さて、気もまぎれた事でしょうし、本題に入りましょうか。

 つまり魔王様は、トーリに俺と同類と言われたので、その理由が知りたい。そういう話で良かったですか?」


「うん。大体そんな感じ」



 私の返答に、ヴォルフはふむ、と手を顎に当てて考えこんだ。



「まずは『高望み』の話からしましょうか。――例えばですよ? 俺が『容姿や体型はそこまで重視しないが、内面が美しい女性と付き合いたい』と言ったらどう思います?」


「むしろ、ヴォルフにしてみれば理想は低い方だと思う」



 あのフランシスカが側に居るのに、容姿を問わないと言うのはポイントが高い。いや、所詮は例えなんだけどさ。



「そうですね。俺もそう思います。で、この条件に『俺と対等レベルの会話が可能』というのを付けたしたらどう思いますか? あ、因みにこれは必須です」


「うわぁ、一気にハードルが跳ね上がった……」



 ヴォルフと対等レベルの会話ってアレだよね。政治経済、果ては事務雑務まで広範囲に渡って把握しなくちゃ駄目なレベルでしょ? 並大抵の女性じゃ無理だ。



「無理だと思うでしょう? でも、魔王様が言っているのもこれとそう大差は無いんですよ」


「え、」



 驚いた顔の私を尻目に、ヴォルフは話を続ける。



「『優しくて誠実でまとも』それだけならごまんと居る事でしょう。ですが、無意識にこうも思っている。――『自分と対等にいてくれる人でなければ嫌だ』とね。

 だから貴方はトーリを(・・・)受け入れられない(・・・・・・・・)。彼はあくまで、後ろから支えるのが本懐みたいですからね。無理に隣に立とうとは思っていないみたいですし」



 思わず、言葉に詰まる。


 ……確かにそういう節があったかもしれない。でも、それは別に周りの人達を見下しているからではない。


 ――私は強い。誰よりも、何よりも。


 でもそんな力は、私からしてみれば偶然宝くじが当った様な物だった。今だって、『才能』と言われてもあまりピンとこない。

 だからこそのジレンマ。『力なんて大した事ない』という気持ちと、『この力は強大だ』という矛盾した思いを消化しきれずにいる。ただ、それはどうしようもない事だと自分では思っていた。



「自分が出来る事を他人に要求するというのは、見方によっては酷く傲慢な行為です。自身に実力があればあるほどに、他者との差は開いていきますから」


「そう聞くと、私って凄く我儘に聞こえるね」


「我儘ですよ、貴方も、俺も。だって、たった一つの事すら妥協出来ないでいるんですから」



 そう言って、ヴォルフは笑った。私も思わずつられて笑ってしまう。


 ――ああ、なるほど。これは確かに『同類』と言われても仕方ないかもしれない。



「お互い難儀な性格だよなぁ」


「俺は兎も角、魔王様はその内妥協が必要ですよ。それだけは覚えておいて下さい」


「……それは、うん。頭では分かってるんだけどね」



『この国を継ぐ者は、絶対に私の血を継いでなくてはならない』そう断言したのは、意外にもガルシアであった。


 それ以外の者など、決して許さないとも言っていた。


 まあまあ話の分かるガルシアがそう言うのだから、きっと他の半魔族(ハーフブラッド)も同じ意見なんだろうと思う。それは、痛いくらいに分かっている。信頼も信用も異存も畏敬も、全て私が背負うべき荷物だ。その事に異論はない。……いまいち心が付いて行かない時もあるけどね。



「ヴォルフは妥協しないの? 先にヴォルフが決まらないと、シスカも結婚しないってこの前騒いでたけど」



 私がそう言うと、ヴォルフは露骨に嫌そうな顔をした。いや、気持ちは分かるけどさぁ……。



「あー、はい。そうですね。正直面倒と思う気持ちが大半なんですが、いつかは考えなくてはならない事ですから……」



 そんな事を言いながら、ヴォルフはグラスに注ぎ始めた。さっきから注視はしていなかったが、この短い間に丸々一本一人で空けてしまっている。


 口調はしっかりしているけど、何だかいつもよりおかしいし、もしかしてそろそろ止めた方がいいんじゃないか?



「……大丈夫? やっぱり酔いがまわってるんじゃない?」


「いえ、まだ平気です。少し怠いくらいで意識はしっかりしていますし、何より酔っ払いがこんなにはっきり話せるわけがないじゃないですか」



 そういうものなんだろうか。私の場合、体がアルコール分を毒だと認識してしまっているため、口に入れて胃に到達するまでに大体のアルコール分が自動的に魔術によって分解されてしまうので、『酔う』という感覚がいまいち分からない。


 かつて毒殺に怯えてた頃の名残だが、今後のことも考えると特に矯正した方がいいとは思えない。その事で誰かが迷惑を被るわけでもないし。

 それに別にお酒が好きなわけでもないので、別に言う必要もないだろう。もしかしたら、レイチェルくらいは気が付いているかもしれないけど。



「お兄ちゃんって、大変だね」


「他人事みたいに言わないで下さい。部下の問題は上司の問題と同義でしょう?」



 ヴォルフはしれっと何気ない様子でそんな事を言い出した。



「きょ、極論は止めてよ。そういう人間関係の相談に私が向かないって事は嫌というほど知ってるでしょ!?」


 私が得意なのはごり押しと武力による解決が可能な問題だけだ。脳筋と呼んでくれて構わない。なので、人の意志が関わる繊細な問題は非常に苦手だった。

 そもそも、そういう相談ならガルシアとかの方が適任じゃないだろうか。尻に敷かれているとはいえ、一応既婚者だし。


「じゃあほら、こうしましょう。この間俺が倒れた時、不慮の事故が起こったじゃないですか。俺、アレが初めてだったんで責任とって下さい。ふぅ、これで一気に解決ですね」


「……どうしよう。こんなにテンションが下がるプロポーズがこの世にあったなんて、私びっくりだよ」



 というか、私だって 。初めてだったんだけど。寧ろ責任を取って貰うべきなのは私の方では?

 ……いや、それだと結果は変わらないのか。


 そんな私の様子を見て、ヴォルフは耐えきれないとでも言った風に笑い出した。……やっぱり冗談だったか。まぁ、解ってたけど。



「というか、ヴォルフやっぱり酔ってるでしょ。いつもよりふざけ過ぎだし、何より笑いすぎ」


「ふっ、くく、あはは。さぁ、どうでしょう?」


「いや、絶対酔ってるってば。もう……」



 私がため息を吐きながらそう言うと、ヴォルフはついに机に突っ伏して小さく笑い続けた。……笑い上戸なのか。



「俺は、」


「ん?」


「俺は愚か者に従うのは死んでも嫌ですけど、貴方に従うのはそう悪くないと思っているんですよ。貴方は馬鹿ですが、決して頭は悪くないですから」



 ヴォルフは机から顔を上げて、いきなりそんな事を言い出した。


 珍しいな、デレ期か? まぁ、毒が含まれているのはご愛嬌だろう。と、馬鹿な事を思いながらも、耳を傾ける。



「俺は一番上に立つのには向いていないですから、魔王様の様な人材はとても希少なんですよ。下手な為政者だと、ついうっかり落としいれて失脚させてしまいそうになりますから」


「いや、それ怖っ」



 物騒な告白だった。以前コイツ何をしてたんだ……。



「魔王様自体は嫌いじゃないですから。その辺の心配はしなくてもいいですよ。――あの時、身柄の受け渡しに払った金貨分の働きはちゃんとしますから。いくら俺でも、最低限の義理くらいは果たしますよ」



 金貨三万枚。日本円に換算すると、およそ二億程度になる大金。それをさらっと「その分の働きをする」と言ってしまえるのは、素直に尊敬する。


 これでもう少し他者に対する気遣いが出来れば、本当に最高の人材だったのに。 やはり完璧な人間は居ないらしい。まぁ、こういう気安いやり取りは私も嫌いじゃないけど。



 私がそう思っていると、――ああ、でも、ヴォルフは続けた。



「時々思うんです。手酷く扱って、散々踏みつけにして、俺の所まで引き摺り落としたら、それはそれで楽しそうだなぁ、って」


「………………え、」


「おれ、貴方の泣き顔は結構好みなんですよねぇ……」



 ヴォルフはそこまで言うと、再度机に突っ伏してしまった。



 私はそれを聞き、「え、今のなに? 下剋上宣言? 下剋上なの?」と宣戦恐々としていた。


 最後あたりはもう意識が無いみたいだったけど、もしかしたら無意識の内に出た本心なのかもしれない。

 ……いきなり隣に地雷を設置されてしまった様な気分になった。どうしよう、ほんとに。薄々気が付いてはいたけど、コイツ真正のドSだよきっと。



「ヴォルフさん? 今のって、その、……おーい、起きてる?」



 返答が帰ってこない事を疑問に思い、彼の頭を突いてみたが、穏やかな寝息をたてていて起きる様子が無い。

 ……やっぱり酒に弱かったんじゃないか。一気に一本飲みきったせいもあるだろうけど、明日が大変そうだ。私も違う意味で明日が怖い。


 取りあえずこのままにしておくわけにもいかないし、シスカのベッドにでも寝かせておこう。


 そう思い、ヴォルフの両脇に手を差し込み持ち上げようとしたのだが、とても軽い。もう一度言うが、とても軽い。体重計は無いが、成人男子の重さではないことは確かだ。



「……ちゃんと休んでるのか、コイツ」



 なんだか不安になった。きちんと気を付けて見ておかないと、また倒れるかもしれない。この城の中で一番身体が弱いのは、言うまでなく彼である。気にしておくに越した事はないだろう。





 その後、広間にて休んでいたシスカに声を掛け、部屋に戻った。


 明日あたりヴォルフから『お話』があるだろうと伝えたのが、彼女は引き攣った顔で笑っていた。笑えるだけまだマシかもしれない。可愛そうだが、私も嵌められた側なので助け船を出すのはやめておくことにする。


 そう言えば、彼女は今夜はヴォルフの部屋で寝るらしい。ベッドが使えないのだからそれも当然だろう。





 なんかもう、今日は疲れた……。



 その日は、部屋に帰ってすぐに泥の様に眠ってしまった。専門外の事を考え続けるのは、いい加減脳がオーバーヒートしそうだ。やはり、恋愛談義は私にとって鬼門だ。






 ――次の日、二日酔いで頭を抱えているヴォルフから、「俺、昨日最後に何か変な事言ってませんでしたか?」と聞かれ、脱兎の如く逃げ出したのは別にどうでもいい話だろう。






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