35.誰かの手紙
親愛なる勇者様へ
私が旅を始めて、もう何年になるでしょうか。貴方によって送り出されてから、随分と長い年月を過ごしたような気がします。
貴方に逢えない事は、私にとっては身を引き裂くよりも辛い仕打ちではありましたが、これも貴方の為だと思えば耐える事ができます。
数多くいた貴方の取り巻きの中で、この光栄なる役目に私を選んでくれたことを、私はずっと誇りに思いますから。
たった一つの取り柄しかなく、周りから疎まれていた私を拾い上げてくれた貴方の為ならば、この身が朽ちるまで動き続ける事が出来ます。
まぁ、そんな事はどうでもいい事ですね。聞き流してくれて構いません。
さて、最初は中々上手くいかなかった旅ですが、此処に来て新たな進展がありました。
――例の『創世の怪物』の一体を見つけたのです。
その存在を見つけた時、私の心は歓喜に満ち溢れました。これで、ようやく貴方に報いる事が出来るのだと。
アレさえあれば、貴方の望みはきっと叶う。だってアレは、高次元の何かが造り上げた、万物の願望機なのですから。
ですが、私一人の力ではアレを奪取する事が出来ません。この無力な身をとても不甲斐なく思います。
現在の所有者はとても強大な力を持つ王です。ですが、どうやら正しい使い方は解っていないようです。そして、幸いなことに使いこなすための魔力も彼らにはありません。
だからこそ、まだ時間はたっぷりあります。
偶然にも、此処には『召喚』と呼ばれる儀式が根付いています。それを上手く利用すれば、私の力でも貴方を此処に呼ぶこともきっと可能だと思われます。
しっかりと作戦を練って、慎重に、恙なく事を進めます。いくら時間が掛かろうとも。何を引き換えにしても、何を踏みつけても、決してしくじりません。――今度こそは。
あぁ、楽しみです。また、貴方にお会いできるなんて本当に夢の様ですから。
上手くいったら、いつもみたいに褒めてくださいね。優しく抱きしめて下さい。それだけでいいのです。それ以上は、望みませんから。
……この手紙を貴方に届ける術が無いことくらい、いくら馬鹿な私だってわかっています。
だからこれは、私の決意表明。貴方に捧げる誓いです。
貴方の忠実なる従僕 ×××××より
――――かつて魔王に滅ぼされた城にて、この様な事が書かれた手紙が発見された。差出人の名前は、残念ながら汚れていて読み取る事が出来ない。
手紙はもう古ぼけて劣化しており、ゆうに50年は前に書かれた物であると推測される。……が、その手紙を見つけた廃墟あさりの盗人は、見た事の無い言語が書かれたその手紙を、ただのゴミだろうと思い、破り捨てた。
その城ではかつて滅ぶ前に、どこからともなく現れた美しい占い師が居た、と近隣諸国の歴史書に記されているが、事実は定かではない。
その占い師は、魔王に対抗するためには『勇者』召喚しか術が無いと国王に進言したそうだ。
王は占い師の言葉通りに触媒となる聖遺物を集め、召喚の準備を進めていたが、その行動が魔王の怒りを買ったとされ、滅ぼされたとされている。
そして、占い師がどうなったのかは未だようとして知れぬままである。
かの国が集めたとされる聖遺物の行方と共に――――
最後に伏線をちょろっと。
この閑話で第三章が終了となります。




