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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その3・ちょっと一休みしよう

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29.魔王様の休日~次の被害者は誰だ~

「平和だ……」



 夢が詰まった黄金の花の雨を降らせてから、十日。あれから特にフィリアからのアクションは無かった。


 そういう風に仕組んだ私が言うのもなんだが、はっきり言って拍子抜けである。いやいや、いい事なんだけどね。


 ――フランシスカとヴォルフガング、……長いからシスカとヴォルフでいいや。二人に関してはまだ様子見といった所だ。

 彼等の存在に反発している者は少なくはないが、上層部が比較的大人しいため大っぴらに口に出す者は居ないらしい。


 だが考えてみてほしい。そもそもこの国の主、つまり私自身が人間なのだ。……あれ、私もしかして人外扱いされてる?え、マジで?


 ……それはともかくとして、その内話し合いというか団欒?的な機会は作った方がいいだろう。何かイベントになりそうな事は無いものか。収穫祭と言うには、ちょっと時期的に遅すぎるし、後で何か探してみるとしよう。



「暇そうですね」



 ふと気が付くと、レイチェルが私のすぐ横に立っていた。


 初っ端からあんまりな言い様である。まったく、私が傷つかないとでも思っているのだろうか。私はこんなにも繊細だというのに困ったものだ。



「まぁ、仕事は殆どあの二人に投げたからね。まだやらなきゃいけない事はあるけど、ちょっと疲れたから休憩中」


 それにここ暫くはフィリアの動向に備えて強制的に内勤を余儀なくされていたし、だいたいの事は片付いている。ちょっとくらいの休憩は許してほしい。

 まぁ周りから見たら私は常時日曜日みたいなものなんだろうけど。理不尽な話だ。



「だからと言って、共有スペースのソファーでだらしなく寝そべるのはどうかと思いますけど……」



 ぐうの音も出ない正論だった。

 ……でも何故だろうか、ずっと昔にもそんなセリフを誰かに言われた事がある様な気がしなくもない。主に実家とかで。

 三つ子の魂百までとも言うし、今さら矯正は不可能だろう。まずそもそもやる気が無かった。淑女のように振る舞うのは、正直もう飽きた。あんなの一年もやれば充分だろ。


 そんな私の無言の訴えを悟ったのか、レイチェルは「本当に駄目だなコイツは……」とでも言いたげな目で私を見つめてきた。


 おい、いいのか女神がそんな顔して。信者にばれたらイメージガタ落ちだぞ。特にユーグとかに。



「でも、今さら威厳を気にしたところで手遅れですしね。そう口煩くは言いませんが、程ほどにしてくださいね」



 レイチェルがやれやれとでも言いたげな口調でそう言い放った。


 ちょ、手遅れってなんだ手遅れって。確かに周りによく「最初はあんなに格好良かったのに……」と言われるけど、やる時はちゃんとやってるよ?それなのにまるで残念な子みたいに言われるのは心外だ。

 が、ここでむきになって反論した所で論破されるのが落ちなので黙っておく。この女神は意外と口喧嘩が強いのだ。




「……善処します。――よっ、と」

 


 腹筋の力だけで上体を起こす。その時、ピキ、と背骨からなんだか聞こえてはいけない音が聞こえた。チクリと地味に痛かった為、回復魔法を使っておく。……これは、ヤバいかもしれない。



「うわぁ……。どうしようレイチェル、私運動不足かもしれない」



 ま、まだ花の十代なのに。やっぱりアレか、魔王を倒すまでハードだったのに、それからずっとニート同然の生活を送ってきたツケなのか。……劣化魔王とか冗談じゃすまないぞ。



「いつも移動を転移魔法に頼っているからですよ。情けない。たまには自身の足で動いたらどうですか? それと他には、ええと、ジョギングとかをしてみたらどうです?」


「えー、ジョギングする魔王とか超シュールじゃん。――――え、今さらだって?……然様ですか。

 でもたまには体を動かさないと勘が鈍るよなぁ。あーあ、この世界にもダンジョンとかがあったらよかったのに。RPG的なの」


「ダンジョン?」



 私の言った言葉に、レイチェルが首を傾げた。


 おっと、うっかりゲーム脳が再発してしまったようだ。でも皆大好きだよね、RPG。あ、銃じゃない方ね。私はレベルアップが苦手で、途中で投げ出しちゃう事が結構多かったけど。結末だけプレイ動画を見ちゃうタイプだったりする。ゲーマーとしては最低だね!



「ああ、ダンジョンっていうのは、暇つぶしも資源獲得も出来て、レベルアップまで出来る有意義な施設の事だよ。冒険者の死亡率は限りなく高いけどね」



 大幅に説明は省略したけれど、嘘は言っていない。寧ろ大体は合っていると思う。



「そ、そんな恐ろしい施設が貴方の国にはあったのですか!?ニホンとはそんなにも危険な場所なのですね……、流石貴方を(はぐく)んだ魔都です」



 レイチェルが顔を青くして、怯えた様にそう言った。……何だか変な風に勘違いしちゃってるけど、面白いから訂正しないでおこう。暫くはこのネタで弄れそうだな。



「それは置いておくとしてさ、魔法があるんだから竜とか精霊とかが居たとしてもいいよね。此処に来てからそういう夢いっぱいな出会いってものが無いしさぁ」



 魔族とか魔族とか魔王とかしか居なかったし。


 魔法と幻想生物は、ファンタジーの世界観では切っても切れない関係だ。……魔族は、うん、アレは侵略者枠だから。ちょっと違うんだよ。


 え?じゃあ女神はどうかって?あれはむしろネタ枠だろ。しかも結構俗っぽいからありがたみが薄いし。……でもこんな事を言うとまた怒るから黙っておこう。


 そんな私の言葉に、レイチェルがきょとんとした顔をする。てっきりまた呆れられるかと思っていたのに、意外な反応だった。




「居ますよ?」


「えっ」


「精霊は見た事ありませんけど、居ますよ。――竜は」



 レイチェルの思わぬ言葉に、驚愕する。


 ――竜。それはまさに「一度は会ってみたい生物」ランキングに上位ランクインするはず間違いなしの幻想生物。ありとあらゆる創作物に登場し、その素晴らしさをアピールしている魅惑の存在。まぁ、異論は認めるけど。


 そんな竜が、実在するだと!? ――うわぁ、テンション上がってきた。




「え、嘘、大蜥蜴とかの間違いじゃないよね?

 ――見たい!!すごく見たい!!何処に行けば会える?ちょっと行ってくるから教えてっ!!」



 未だかつてない程のキラキラした目で、レイチェルに詰め寄った。そんな私の稀有な様子に戸惑いながらもレイチェルは口を開く。



「お、落ち着いて下さい。そう簡単に会える存在ではないのですよ。彼らは大陸の最北端、リヴァイア島に生息しているのですが、その島は結界が張られていて誰も通れない状態なのです。彼らは古き神々に次ぐ魔術の申し子ですから、かなり強固な結界だと思いますよ」


「……それを破れば、」


「いくら貴方でも無理でしょうね。術の構築形式から違っていますから、私の与えた知識では穏便な突破は不可能だと思いますけれど。結界に集中砲火すれば、結界どころか地盤の島自体が壊れる恐れがあるので、結局出会うのは絶望的かもしれないですね」



 レイチェルが無慈悲にも私の希望を圧し折っていく。こ、此処で折れるわけにはいかない。夢の為にも!!



「な、何か他に方法は……」



 私の懇願するような言葉に、レイチェルはふむ、と考え込んだ。何か考えがあるのだろうか。



「彼らの血縁者の許可があれば入れるとは聞いた事がありますが、最近は竜の花嫁の話も聞こえてこないですし、望み薄でしょうね。

 ――ああ、『竜の花嫁』と言うのはドラゴンに嫁いだ人間の事です。昔は結構な数が居たのですが、人が力を付ける度に数が減っていったと聞きます。今ではもう噂すら聞こえてこないですから……」



 と、レイチェルは申し訳なさそうに言い切った。つまり無理って事ですね、分かります。


 こんなの絶対おかしいよ……。こんな途方もない絶望的な思いを味わうくらいなら、最初からいないって言ってくれた方が良かった。



 気持ちを切り替えるため、ソファーの上で膝を抱えて体育座りをしてみる。……むなしさが増しただけだった。




「………………。」


「もう、こんな事で拗ねないで下さいよ。きっと長生きすれば一回くらいは、本当に偶然かもしれませんが見る事が出来るかもしれないですし、元気を出しましょう?ね?」


「いや、慰めるつもりがあるならもっと前向きな言葉を掛けてよ。それじゃあ結局ほぼ無理でしょ。私のリアルラックなめてんの?徹夜待ちの整理券が目の前で切れたり、宝くじを末尾違いで外す女だよ?無理に決まってるじゃん」


「比較対象がちょっと理解出来ないんですけど……」



 そんな感じでグダグダとした会話を小一時間ほどし、余計に虚しくなった。


 ……何やってるんだろう、私は。何だかどうしようもなく無駄な時間を過ごした気分だ。




 何となく怠くなったので、レイチェルの注意の声を無視し、再度ソファーに寝そべった。あー、やっぱりこれ寝心地がいいやこれ。口には出さないが、私のお気に入りの一品だし、これ。



 そんな事を考えながらうとうとしていると、ふと誰かに声を掛けられた。



 重い瞼を上げると、ユーグが私の前にしゃがみ込んでいるのが見えた。


 どうしたのだろう、そう思い声を掛けようとした。その時、ユーグから発せられた一言に、頭が一気に覚醒する事になる。



「魔王様、今日はお暇なんですか?」



 ――Hit!!魔王の精神に2のダメージ!!


 グサり、と言葉のナイフが胸を抉った。思わずたじろぐ。


 おかしい。レイチェルに言われても全く心に響かなかったというのに。この差は一体なんだろうか。



「ひ、暇と言えば暇なんだけど、これは何というか小休止っていうか……。別にサボりとかそんなのじゃなくてね!?」



 何だかよく分からない焦りを感じながら、捲し立てた。最早何に対してのいい訳か分からない。


 これはその、平日に有給をとってダラダラしているのを、子供に見咎められている時のお父さんの気分……。そんな感じだ。


 謀ったようにこの場に居るレイチェルが、狼狽える私を見て笑う。……この間の意趣返しのつもりか。うーん、殴りたい。


 そんな私の慌てた様子を見て、クスクスと控えめにユーグが笑う。レイチェルもこれくらい謙虚ならば怒りも沸いてこないのに。



「それじゃあ、今日はずっと一緒に居られますね」



 ユーグが俯きながら、嬉しそう言った。その言葉に、少し驚く。


 そういえば最近は色々あって、こんな風に完全に昼間から一緒に居る事はなかったな。前はこれが普通だったというのに。……やっぱり息抜きは必要だよなぁ。そうじゃないと、大切な事を蔑ろにしてしまう。



「よし、今日は特別に私がお茶を入れてあげよう。この前帝国にお忍びで行った時に、紅茶を買ってきたんだ。勿体なくて封を切れなかったけど、折角だから開けちゃおう」


「本当ですか?ありがとうございます」



 ユーグが顔を上げて嬉しそうに笑う。心なしか耳がピコピコと上下に動いてる。……どういう仕組みなんだろう、あれって。いや、可愛いから別にいいんだけどさ。










◆ ◆ ◆






 四苦八苦しながら手動でお茶をいれ、べス君にお茶菓子を用意してもらう。だが、おまかせで頼んだはいいが、紅茶に対し御饅頭っぽい何かを出すセンスは一体どこからきているのだろうか。いや、確かに美味しいけれども。




「そう言えば聞きましたか?」


「ん?何が?」


「ガルシアさん、結婚するそうですよ。僕、今度立会人を頼まれたんです。一応は巫子なんだから、って。女神様にも作法とか色々聞いて勉強しているんですけど、やっぱり緊張してしまって……」


「…………え、結婚?ホントに?」



 私のその言葉に、ユーグがえ?とでも言いそうな顔をした。

 ―恐らく彼は「立会人の件は聞きましたか?」というニュアンスで聞いたのだろうが、正直それ以前の問題だった。


 ていうか、え、私には何の報告も無かったんだけど。私嫌われてる?嫌われちゃってる?




「お、落ち着いて下さい。この辺りでは『上司への結婚の報告は、全て終わってから』という風習があるんです。だから別に貴方が知らされていないとしてもおかしくはありませんよ」



 私のあまりの慌てぶりを心配したのか、レイチェルがすかさずフォローを入れてきた。



「捨ててしまえそんな悪習!!……死ぬほどびっくりしたよ」


「いえ、あの、――昔はよく領主や村長等に、結婚間近に無体を強いられる事も多かったと聞きますし、ある程度は仕方ないでしょう。文化の違いなのですから、大目に見てあげてください」



 そういう生々しい事を聞かされると、ちょっと何も言えなくなる。


 ……でも、個人的にはちゃんと言ってほしかったなぁ。ある意味一番仲がいい部下なのに。




「あ、あの魔王様。ごめんなさい、僕てっきり知っているかと思って……」



 そうユーグが耳を伏せて、申し訳なさそうに言った。


 今回の一件は文化の違いが原因であって、ユーグが悪いわけではない。

 だからここでユーグが謝らなくてはならないならば、それはもう世界の方が間違っているのではないか。……いや、それはちょっと言い過ぎか。



「ああ、ユーグは全然悪くは無いよ。だから気にしちゃダメだよ。

 ――それにしても結婚かぁ、式とかはしないのかな。花束くらいなら送っても許されるよね」



 私のその何気ない言葉に、ユーグがゆっくりと首を振った。



「いいえ。結婚式をするなんて、それこそ城主や一国の王様くらいにならないと、教会から許可が下りませんから。普通は教会関係者の立会いの下での宣誓しかしませんし」


「ユーグ、詳しいんだね」


「エリザさんに色々教えて貰ったんです。まだまだ覚える事は多いですけど……」



 ユーグは申し訳なさそうに、そう告げた。いやいや、この数か月の内にちゃんと自覚を持って勉強に励んでいるんだからそんな風に思う事ないのに。真面目な子だなぁ。



「ユーグはよくやってるよ。私が保証する。――ほら、私の分の御饅頭一個あげるから元気出しなよ」



 そう言って、彼のお皿に一つ御饅頭を置いた。ユーグは遠慮がちに私を見たかと思うと、困ったように少し笑って、ありがとうございますと言った。

 ……もっと自信を持ってもいいのに。


 それに比べて私なんか考えれば考えるほどに、何もしないでぐーたら過ごしてただけだな、と思い至る。言ってしまえば屑だった。はやくまともな人間になりたい。



 ゴホン。それにしても結婚式しないのかぁ……。残念だな、お祝いしてあげたかったのに。ていうかすればいいのに。



 ――その時、私の脳内に電流が走った。



 そうだ。やらないのならば、――やらせれば(・・・・・)いい。



「凄い……。今日の私ってば冴えてるかも」


「魔王様?」



 ユーグが不思議そうに問いかける。


 そんな彼に、私はニコリと安心させるように笑って見せた。





「――魔王様主催の『結婚式』、しちゃおうか」






 このとある爆弾発言が発せられた瞬間、とある人物――そう仮にGさんとでも言っておこうか――が大きなくしゃみを連続でしたとかしなかったとか。お察しの通りである。









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