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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その2・次に人を集めます

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28.舞台の裏側にて

「えげつないです」



 ――時は遡って、二日前の事。今回の作戦概要をレイチェルに説明した結果、ドン引きとでも言いたげな顔でその言葉を頂戴した。




「あぁ本当に、よくもそんな事が思いつくものですね」


「そ、そんなにひどいかな?」




 あまりの酷評だった。

 私が考えたにしては、かなり理にかなっていると思うのだけれど。



「『人を信じる』という事を何だと思っているのですか貴方は。――でも、別に全てが悪いと言ってるわけではありません」



 そこでレイチェルは、一度大きく(かぶり)をふった。



「まず第一に、『彼』への条件。

 ……そもそも貴方が『約束を守る』という事を、彼が信じなければこの話は成り立ちませんし。私は貴方の誠実さを知っていますが、彼は貴方の事を伝聞でしか知らないのでしょう?それなのに最初から命懸けの交渉を強いるなんて、ハードルが高すぎます」


「……でも私が干渉しなかったとしても、彼の行き着くところは絶望だけだったでしょ? あの好条件で私に全部賭けられないなら、そんな奴私はいらないよ。それにその辺は大丈夫だよ。――彼の超直感(ギフト)が優秀なら、私に付いた方が有益だって分かるはずだし」



 そう、私は何一つ嘘なんて言っていない。話さなかった事はあるけれど。



「それに吊り橋効果?だっけ? ギリギリで助けに行ったなら、私への信頼度は嫌でも上がるよね。――そうでなきゃ、困る」



 ほらね、最初くらい威厳を見せておきたいっていう、ちょっとした自尊心の様なモノもあるし。


 そう言って笑うと、レイチェルは呆れ顔でため息を吐いた。そして彼女は気を取り直したかのように続ける。



「第二に、貨幣のばら撒き。――正直言うと趣味を疑いますね。やり方が前回と似ていてワンパターンですし」



 ワンパターン。その言葉にぐさりときた。私だって何となくそう感じたけど深く考えるのは避けていたというのに。なんて容赦がないんだ。



「で、でも戦争回避にうってつけだと思ったんだけど……」


「人の心をお金で買おうだなんて思うのが、そもそもの間違いです。それが元で暴動が起こったらどうするつもりなんですか?」


「そんなの知らないよ。――自分の国の事は自分達で解決するべきだよ、たとえ切っ掛けが魔王(わたし)にあったとしてもね。それに一々他人の国の事情になんか構ってられない。私も忙しいんだし」




 レイチェルがいかにも不満です、と言いたげに私を見る。


 何とでも言えばいいさ。約束自体は守るのだから、私は悪くない。条件を細かく指定しない奴が悪いのだ。


 ――この時点で、フィリアの王との交渉は済んでいた。秘密裏に行ったため、接触は王以外の人間には知られていないはずだ。念書も書いてもらったし。


 なので、この条件に従えば後は私の独壇場だ。あの王様は彼が頷かないと思っているのだろうけど、最初からグルなのだから何の問題もないしね。




「宝物庫だって無限ではないのですよ?それにこのままいくと、貴方の枕詞に『拝金主義の』とついてもおかしくはないですし」


「それはちょっと格好悪いなぁ。――黒いのに何故か金ぴかって呼ばれそうだし。

 でも前回の帝国分を引いたとして、今回の分を金貨三万枚分変換したとしても、まだ最初の八割は残るんだけどね……。私が生きてる内には無くならない気がする」



 でも拝金主義か。他人はともかく、私とこの国の住人は金では動かなそうだ。ここならお金があんまり無くても生きていけるし。




「そういう問題では……。はぁ、もういいです。今の貴方には何を言っても無駄みたいですし。

 ……それに第三に、『国民感情への揺さぶり』。――順当に彼が条件を全うすれば、彼への半魔族からの悪感情は大幅に減少するでしょうね。なにせ、『魔王を信じて命を懸けた』のですから。反対派の筆頭のガルシアとて、彼を認めない訳にはいかないでしょう」



 まぁ、そうじゃなければガルシアに話した意味が無いしなぁ。

 認めてもらわなくては、困る。これからは彼が私に代わって政治を取り仕切ってもらう予定なのだから。



「実際、いがみ合っても意味が無いんだよ。どうせ一緒に仕事をすることになるんだから、問題の解決は早い方がいいでしょ。……マッチポンプなのは否定しないけどね」



 罪悪感が無いとは言わない。今回は半分くらいストレス解消の側面もあったので、あんまり大きな事は言えないけど。


 でも、私は天秤にかけただけだ。何を一番に優先させるかを。――私は人の感情よりも、この国の未来を選んだ。それだけだ。


 これからもきっとそうする。嫌な事は基本的にしないし、自分の楽しみを優先させるし、ダメダメな王様だけど、私にしか出来ない事はちゃんと私がやる。たとえそれが常識から外れていても構わない。この私を止められるのなら止めてみればいいさ。


 ――それに、レイチェルがはっきりと批判してくれて逆に安心した。

 私が突っ走っている時に、『それは間違っている』と言ってくれる人は重要だ。レイチェルはぶれない。だからこそ安心して話が出来る。


 そんな私の姿を見て、レイチェルは笑った。さながら、女神の様に。




「――それでも、後悔はしてないんでしょう?」



 その言葉に、驚く。


 ――本当だ。不思議な事に私の心に『後悔』の二文字は無い。今までの人生に付きまとっていた最悪の二文字だったというのに。


 心境の変化、と言ってもいいのだろうか。昔の私に比べて、随分と剛胆になったものだ。



「これから先、信念を変えるつもりが無いのなら別にそれでも構いません。

 ――それに私は、いつだって貴方の味方なのですから。潰れそうになったら一緒に背負ってあげます。だから安心して前を向いていてもいいんですよ?」


「ど、どうしたの急に。なんか女神みたいなんだけど……」



 あまりの衝撃に、思わず一歩後ずさった。


 で、でれ?デレ期なの?なんかこっちに来てからずっとツンドラだったのに……。何時の間にツンデレにジョブチェンジしたの?え?




「あ、貴方は私を何だと思ってるんですか!?」


「いや、それはほら、……あぁ、女神だったね」




 私のその投げやりな言葉に、レイチェルは半泣きで怒り出した。あーはいはい、何の役にも立ってないけど、荘厳な女神様でしたね。うん。




「本当に悪かったってば、冗談だよ。不心得者の信者でごめんね」




 半ばからかいながらそう言うと、レイチェルは面白い様に反応してくれる。今までのお返しだと思えば、こんなもので済んだだけで良しとしてほしい。


 それにレイチェルは変に女神様されるよりは、こっちの方が好きだなぁ。取っ付きやすいし。




「私、レイチェルのそういう所好きだよ」


「誤魔化されませんからね!? ――本当に貴方は、」



 そこから、延々と私に対する愚痴を聞かされたのだが、笑って聞き流した。


 ――あぁもう、本当に。流石『救済』の女神様だ。


 もやもやしていた気持ちが、ぜんぶ無くなった。知らず知らずの内に心の闇が晴れている。彼女は、そういう事が本当に上手い。




「聞いているのですか!?」


「はいはい」




 ――いつもの日常がそこにはあった。


 時折この掛け合いにユーグが加わって、その光景が当たり前になっていた。




 ――彼女は知らない。その光景に、人数が増える事になることを。



 それを『幸せ』と呼ぶのかどうかは、まだわからない。未来は何時だって不確定なのだから。











これで第二章完、です。


第三章はほのぼのに、……ほのぼのだといいんですけどねー。

まぁまだ続きますので、これからも出来ればお付き合いいただけたらと思います。

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