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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その2・次に人を集めます

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24.魔王の流儀

「貴方は一体何を考えているんですか!!」



 そう、大声で怒鳴られた。


 ――場所は私の執務室。事の顛末を聞いたガルシアが吠えた声だった。あぁ、鼓膜が痛い。



「何って、私のこれからの仕事を簡略化させる為だけど」


「その為に貴方を害そうとしたテロリストを迎え入れると!?馬鹿も休み休み言って下さい!!」


「……そんなに怒鳴らなくても聞こえてるってば。それに被害は無かったんだから見逃してよ。私がいいって言ってるんだよ?別にいいじゃん」


「それでは周りに示しがつきませんっ。――貴方は王なのですよ!?それを自覚しておられるのですか!!」




 ――ふむ、王か。それに自覚ときた。なるほど、一理ある。持ってなきゃおかしいよね、普通に考えて。


 ――でも残念な事に私の返答は決まっている。


 ギシリ、と座椅子の背を軋ませながら、私は手を組んで不遜に言い放った。




無いよ(・・・)、王の自覚なんて」


「は?」



 私の言葉に、ガルシアが惚けた様に声をあげる。


 まぁ無理もないか。これに関しては全面的に私が悪い。それは認めようと思う、反省は出来ないけど。



「ある訳がないよ。私は王ではなく魔王(・・)なんだよ?まともな『王の自覚』なんてある筈が無い。皆だっていつも言ってるじゃないか。

 ――らしくない。変。おかしい、って。 ――ありがとう、全部私にとっては褒め言葉だよ」



 そもそも、この私がまともな王になんて成れるはずがなかったのだ。


 私の根底にあるものは、(ゆが)んだ正義感に、(ひず)んだ思想。勇者だった頃から、何も変われていない。

 ――あぁ、ならばもう心底『魔王』になるしかないじゃないか。幸いなことに私の精神性は悪役の方が向いているらしい。悲しいくらいにしっくりくる。


 最近は前向きに頑張ってみたりもしたけど、それじゃあ私の存在なんてこの国にとってマスコットにしかならないだろう。そんなもの何の役にも立ちやしない。

 ……力は使える内に使わなくては。ただでさえ時間が無いのに。



 それに私は知識が足りない。常識が足りない。外交スキルも足りない。

 ――私にあるのは強大な『力』だけだ。寧ろそれ以外何もない。元より私は出来ない事はしない主義だし。

 というよりも、私がする必要がそもそもないと思う。そんなのは出来る人に任せればいいし。私が動く必要があるときは指示してくれればそれでいい。



「だからこそ、私の代わりに『頭脳』の役割を担う人材が必要なんだ」


「……それでも私は、人間にそんな重要な役割を担わすなど認めたくありません」


「それは君自身として?――それとも国民の総意として?」


「……どちらも、です」


 

 眉を顰めてガルシアが言う。


 人と半魔族の遺恨は根深い。つい最近まで殺し殺され奴隷として暮らしてきた者達も居る。それは、ちゃんと分かっているつもりだ。この国に人間を入れる事自体、争いの火種になりかねない。


 ――でも悪いが此処で折れるつもりは無い。




「ある意味私専属の奴隷みたいな感じになるんだから、散々使い倒してボロ雑巾のようにしてやるぜ、みたいな気持ちでいればいいと思うけど。それじゃ駄目?」


「理屈は分かりますが、納得はいきませんね」




 憮然とした表情で、ガルシアは吐き捨てるようにそう言った。むぅ、中々手強いな。




「それに態々あんな連中を抱え込まないでも、私達が居るじゃありませんか」


「……確かに君達には沢山助けて貰っている。とても感謝してるよ、ありがとう。

 ――でも、それだけじゃ駄目なんだ。本当は君だって分かってるだろう?」




 今回の件はある種の問題提起の意味も孕んでいる。


 本来ならば、いくら私の下へ連れてこいと言われたとしても、最初にガルシアに話を通さねばならなかった筈だ。それを怠ったのはまぎれもなく彼の部下に他ならない。指導不足もあるだろうが、そういったシステムづくりが十全ではない事を意味していた。


 はっきり言って、今までは改善するところが多すぎて見て見ぬ振りをしてきたが、こういった単純なミスが多すぎる。


 だからこそ、今のぬるいシステムではこの国は立ち行かない。それどころか、発展の芽は限りなく低いだろう。それらに疎い私ですら分かるのだ。彼等にとっては言うまでもない事だろう。


 ――心の奥では分かっていた。村と国は違うのだ。規模も人も、何もかも。この国にはその定石を理解する者が誰も居ない。


 そう、だからこそ新しい風が必要なのだ。それが例え裏切る可能性がある者であろうとも。――早かれ遅かれ、変わるきっかけは絶対に必要だ。



 そう掻い摘んで言うと、ガルシアは悔しそうにギリッと奥歯を噛みしめた。

 ……少し配慮が足りない言い方だったかもしれない。だが、それが現実だ。

 ――私達では駄目なんだよ。本当は皆だって分かってるんでしょう?今のままではいけないって。


 このままじゃ私達が向かうのは袋小路だ。小さくまとまって生きていけるほど、世界は甘くなんかない。

 ――それを回避するのには行動を起こさなければならない。たとえそれが、誰かの意に沿わないとしても、誰かと敵対しようとも。



「心配しなくても、裏切ったらちゃんと責任を持って処分するから安心していいよ。念のため制約はかけておいたし」


「ですが魔王様。会った事もないその兄とやらの為に、フィリアとどう交渉されるおつもりですか。

 たとえ人知れず連れ出すにしても、重要な人物ならばきっと騒ぎになるでしょう。最悪の場合、魔王様が疑われないとは限りません」


「え?何言ってるの?」


「は?」



 私の驚いた声に、ガルシアが訳が分らないとでも言いたげに声をあげた。


 訳が分らないのは私の方だよ。何の話をしているのやら。



「交渉なんてするつもりは無いよ。堂々と、大勢の目の前で浚ってくるつもり。

 ――魔王が隠れて誘拐なんてみっともない真似する訳ないじゃん。やるからには派手にいかないとね、派手に!!」




 あはっ、と笑って見せる。そんな私を困惑したような目でガルシアが見た。




「……魔王様、正気ですか」




 その言葉は今日二度目だなぁ。確かにいつもよりはテンションが高いかもしれないけど、割と冷静な方なのに。心外だ。




「私の正気は女神様(レイチェル)が保証してくれる。後でユーグにでも確認をとったらいいよ。

 ――それに心配しなくても戦争にはならないはずだよ?それどころか、『魔王』のイメージアップだって夢じゃない。事が上手く運べばね」


「なら、それをちゃんと私にも説明してくださいよ」


 

 ガルシアが真剣な顔でそう言った。

 うーん、流石にこれ以上ふざけていては信頼度が下がりそうだ。私としてもそれは本意ではない。


 では聞かせてあげようとしよう。愉快で痛快な私の考えた喜劇を。歓声無しでは語る事のできないストーリーを!!





「――まずはね、」













◆ ◆ ◆ 










 私が計画を話し終えた後、ガルシアは目に見えて分かるくらいに困惑していた。

 



「あの、魔王様。言っている事はなんとか理解したのですが、――本当にそれを実行なさるおつもりですか?」


「うん、勿論だよ」


「その仰った計画では、最後の場面までは全てその人間の手腕に掛かっているじゃないですか。

 ……はっきり言って、失敗の確率が大き過ぎます」


「あれ?失敗してくれた方が君は嬉しいんじゃないかな?

 ――まぁそれは置いておくとして、彼が途中の段階でしくじった場合、私にデメリットはあまり無いしね。それはそれで構わないさ。人材に関してはまた別のアプローチをするよ。

 ――それに、この程度の事で失敗するようなら私の手駒には相応しくないよ。これくらいの試練、笑って超えられるようでなくちゃね。それに、」




 ――妹の命も懸かってるし、必死になってやってくれるんじゃないの?

 


 そう言って私はクスリと笑った。


 私の笑顔を見て、ガルシアが一歩後ずさる。……失礼な奴め。




「まぁ私に任せなって。最高に格好いい『舞台』を演出してやるさ。――それこそ、歴史に残るくらいのね」




 ――その為には今日の夜にでも『仕込み』にいかなくちゃなぁ。












◆ ◆ ◆ 







「ああいた。――おーい、ユーグ。ちょっといいか」


「あれ?ガルシアさん、どうしたんですか?」



 ガルシアは魔王との話し合いの後、ユーグを探して城を歩き回っていた。


 ユーグが女神と話が出来るというのは、疑っていない。元々半魔族自体が感受性が強い者が多いのだ。

 わざわざ口には出さないが、魔王やユーグの側に何か(・・)が居るのを感じ取っているものは少なくない。


『私の正気は女神様(レイチェル)が保証してくれる』


 そう魔王は言っていたが、彼にとってはとてもじゃないが正常な状態には見えなかった。


 ――もしかしたら例の侵入者に操られてしまっているのかもしれない。そうとなれば魔術を扱えない己に出来る事など、もはや女神に頼ることぐらいしかない。




「ああ、ちょっとな。――魔王の様子がおかしいんだ。何か知っているか?」


「えぇっ!?魔王様が!!」


「よく分からないが、いつもより堂々と笑うし、不穏な発言が多い。もしかしたら侵入者に操られているのかもしれない」



 ガルシアがそう言うと、ユーグは目を瞠ったかと思うと、自身の右側に顔を向けて何か話しかけた。……もしかしてそこに例の女神様がいるのだろか。だがガルシアには適性がないようで、何も感じない。


 暫くその何かと話す様な仕草をしたかと思うと、ユーグは困ったような顔をして話し始めた。



「――えっと、その、女神様から伝言があるみたいなんですけど」


「何て言ってるんだ?」


「その、『変なスイッチが入っているだけなので特に心配はいりません。突発的なものなので暫くすれば元に戻りますよ。――ただ、』」


「ただ?」


「『その場の勢いの発言が多いので、酷い場合には止めた方がいいです。彼女はその状態の時に言った事は必ず実行しますから』と仰っています」




 ひくっと頬の筋肉が動いたのが分かった。そ、その場の勢い?




「あ、あの、ガルシアさん?」


「……めろ、」


「え?」


「誰かあの魔王(バカ)を止めろおぉぉぉ!!」




 ガルシアは吠えた。それはもう盛大に。


 勿論であるが、あの状態の魔王を止める事など誰も出来やしない。彼の苦労はここから始まるのであった。








 かくして、魔王主催の『舞台』の幕は開かれた。

 悲劇(バッドエンド)喜劇(ハッピーエンド)かはこれからのキャストの働き次第。


 ――さぁ、物語を始めようか。







※今回の被害者 ガルシアさん



 か、感想返ししたいのは山々なんですがどうにも時間が……。

 返せるときにちょこちょこ返していきますので早めの返信はご容赦下さい。あ、でも誤字に関しては早急に対応します。

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