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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その2・次に人を集めます

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19・魔王様は見ていて危なっかしい

 この国の住人が増えてから、もう既に一月。小さな問題もいくつかあったりしたが、皆少しずつこの暮らしに適応してきているらしい。


 取りあえず今のところは私の仕事は落ち着いていた。国の仕組みや、決まり事。その管理等の事をある程度まとめ、隠れ里の重鎮達との話し合いを経て、ようやく形になってきた。


 そもそも、コミュニティの運営に関して言えば彼らの方が先輩なのだ。話を聞かない道理はない。手助けを求めたのも当然の結果だった。

 私は彼らが協力を承諾してくれないならば、何度だって頭を下げるつもりでいた。それが現実はどうだ。「魔王様がそう言うなら喜んで」と気前よく引き受けてくれた。


 私としては割と決死の覚悟でのお願いのつもりだったのに、拍子抜けするほどあっさりしていた。だってあんなに啖呵を切ってここに来てもらったのに。非難されるとばかり思っていた。


 ……なんでかれらはこうにも優しいのだろうか。私にはわからない。

 でも、助かったのは事実だった。彼等にはいくら感謝してもしきれない。




 秋も中頃になり、収穫すべき作物はほぼ収穫し終わったとみてもいいだろう。さて、農作業が無くなったら今度は何をしてもらうべきか。悩むところだ。


 この街に必要なものは沢山あるんだろうけど、今の所べス君で何とかなるからなぁ……。

 それらを人の手でやろうにも、純粋に人数が足りないし。困ったものだ。



 今後の事に軽く行き詰っていた私は、気晴らしの為に散歩に出る事にした。一人で。


 ユーグはって?彼は教会で同年代の子達と勉強している。

 私も結構な頻度で遊びに行くんだけど、そこで勉強を教えているベン爺が「魔王様が来ると勉強になりませんので」と追い出された。

 それじゃあまるで私が遊んでばかりのアホの子みたいじゃないか。まぁ大体合ってるけど。



 ぷらぷらと一人街中を歩く。当然の如く皆仕事中で人気は無い。うーむ、夕飯用に魚でも取りに行こうかなぁ。


 そう思っていた矢先、背後から誰かの気配がした。思わず振り返る。



「あれ?魔王様じゃないですか。どうしたんですかこんな所で。サボりですか?」


 土で汚れた作業着を着たガルシアが私に話しかけてきた。

 そう言えば今日は西の耕作地に水路を作ると言っていたな。恐らくはその帰りだろう。


 それにしても、魔王に対してサボりかとは失礼な言い草だ。



「確認もしないでサボりと決めつけるのはよくないよ」


「じゃあ何なんですか?」


「…………し、視察かな?」



 ガルシアの胡乱気な視線から顔ごと目を逸らした。くっ、何も言い返せない。

 そんな私の様子を見て、やれやれとでもいいたげに彼はため息を吐いた。




「まったく。しっかりして下さいよ魔王様」


「努力はしてるよ」



 努力はね。それが結果に繋がるかどうかは保証できないけど。

 

 ……うん。でも私の方が立場が上だからあえて敬語は使わないようにしてるけど、やっぱり心苦しいなぁ。こっちは色々助けてもらってる身だし。



「……それにしても、彼。――シャルだっけ?今どんな感じなの?確かガルシアの下についてたよね」


「ああ、前よりかはマシですよ。敬語も使おうと思えば使えるようになりましたしね」


「ん、いや、聞きたいのはそこじゃないんだ」




 私のその言葉に、ガルシアは辺りを見渡した。そして誰も居ない事を確認すると、私にしか聞こえない程の声量で話し始めた。




「――――今の所、動きは無いですね。それに見た限りでは間諜である可能性はかなり低そうですね」


「あー、やっぱり?ちょっと痛い子っぽいから、それはないかなとは思ってたんだけどね。頭はよさそうだったけど」



 ――私はあの二人との会見の後、案内を終えたガルシアを待ち伏せ、シャルという青年の監視を命じた。言動が気に障った、という訳ではない。


 ただ、――何か違和感があったのだ。



「確かに頭の回転も速いし、学もそれなりにある。だが性格が向いてませんよ。あれじゃ相手に逆上されるのがオチです。

 ――ありゃただの世間知らずのガキですね。ただ無謀なだけですよ」


「魔王様モードの私に対しても、やけに余裕そうだったもんね。――何か隠してるのは確実なんだろうけど、叛意がなさそうならもう少し様子見でもいいか。引き続き監視を頼めるかな?」




 実質的に外で作業をする男たちのまとめ役となっている彼に頼むのは少々気が引けるが、まだ私には信頼して仕事を頼める人材が少ない。

 その中でも彼は当初より積極的に手伝いを申し出てくれた。本当に助かっている。



「それくらいなら喜んで引き受けますよ。――ただ、魔王様も自分の仕事はしっかりしてくださいね」


「わ、わかってる。大丈夫だよ」




 ……そうだよね。もっとちゃんと考えなくちゃ。




「でも、仕組みとかそんなのは皆が手伝ってくれたお蔭でほぼ完成してるからね。後は公布と考え方を広めることだし、もう殆どやる事は無いよ。

 ――だから、私にしか出来ない事を今探してる」



 そう、魔王(わたし)にしか出来ない事を探さなくてはいけない。今の内に出来る事を。


 国境線の外壁工事や、街の外に大規模な無人発電所を作ったりなんかはレイチェルとの話にも出てるんだけど、正直何から始めればいいのか迷う。



「それは沢山ありますよ。

 ――今度また他の連中と一緒に飯でも食いましょう。その時に話題に出せばきっといい案が浮かびますよ」



 そう、ガルシアが言った。

 ……本当に敵わないなぁ。こういった気遣いが出来る人に私もなりたい。


 私は何時だって自分の事が最優先だから。だから私は大人になれないのだ。



 私は少しだけ、笑った。自嘲でも苦笑でもなく、――ただ自然に出てきたものだった。




「……私も何時かは度量のある大人になれるかなぁ」


「何を言ってるんですか。――もっと立派になってもらわなくては困りますよ。貴方こそが我々の王なんですから」




 ガルシアが苦笑して言う。やれやれ、まったくもって手厳しい。




 ……立派になるまで生きていられるといいいんだけどね。


















◆ ◆ ◆











「あ、お帰りユーグ。今日はどうだった?」


「はい、ただいま戻りました!!――勉強はまだちょっと分からない事が多いですけど、今日も楽しかったです」


「そっか。良かった。――じゃあ夕飯にしようか。今日は採れた野菜でシチューを作ったんだって。見た目はすごく美味しそうだったよ。……牛乳はまだべス君作の謎の液体が代用品だけど」


「楽しみですね!!」



 城に帰ってきてまずユーグが最初にすることは、魔王にただいまを言う事だった。



 朝は行ってきますと僕が言い、魔王様が行ってらっしゃい、と返してくれる。そんな些細な事がユーグには嬉しくてしょうがなかった。


 ――だって、これは僕だけの特権なのだから。



 人がいっぱい増えて、魔王様が忙しくなって、ユーグは一人でいる事が多くなった。友達はいっぱい出来たけど、やっぱりそれでも寂しい。


 彼女はユーグに他の誰かとの繋がりを大事にしてほしいと思っている事は、ちゃんと彼にもわかっている。でも、それでもユーグは魔王と女神の三人でいた時の方が幸せだったと今でも思う。……こんな事、誰にも言えやしないけど。



 教会――むしろ神殿と言ってもいい程豪奢な建物だが――で文字や算数を教わっているけど、説明されても中々理解できない。でも、彼女が大事な事だと言うから投げ出さずに頑張ろうとユーグは思っている。



 彼女は何でもできる。だからユーグがここで出来る事は殆どない。――それがユーグにとっては歯痒かった。




「魔王様」


「ん?何かな?」


「もし僕が立派な巫子になれたら、褒めてくれますか?」




 もっと勉強をして、沢山の事を覚えて、女神様言うように巫子としての立ち振る舞いをして、皆から認められたならば。


――僕はこの人の側に居てもいいだろうか?



 きっと、彼女はユーグが挫折したとしても許してくれるだろう。――でもそれでは駄目だ。そんな無様をさらして平気な顔をして側にいる事なんて、ユーグには到底出来そうも無かった。


 ユーグの問いかけに、魔王様は微笑んで「当たり前だよ」と言ってくれた。そして「焦らなくてもいい」とも。




 でも、彼女は時々何処か遠くを見ている。ユーグがいない時に女神様と何か大事な話をしているのも、彼は知っている。

 ……それが、どうしようもなく不安になるときがある。――僕の知らない間に何処か遠くへ行ってしまうんじゃないかと。それが、ユーグは酷く怖かった。


 ユーグはぎゅっと自身の手を握りしめ、思う。


 はやく、――はやく大人にならなくちゃ。

 置いて行かれないように。置いて行かれたとしても、自分の足で付いていけるように。




――だから、それまで何処へも行かないで下さい。魔王様。













魔王様のみっつの特徴


そのいち・人の造形にあまり興味がない。

顔面が鰐とか体中鱗だらけの半魔族を見ても「何あれすごい」くらいにしか思わない。というよりも美的センスが壊滅している。(べス君参照)


そのに・割と使えない。

天才には程遠いので、誰かの誘導が必要。やれば出来る子だけど、見ていてちょっと危なっかしい。最近だと何となく手を貸したくなるオーラが出ている。


そのさん・レイチェルの頼み事は基本的に断らない。

大体の事はOKする。信徒の鑑。だがそれでいつも窮地に陥る。女神様ェ……。

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