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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その2・次に人を集めます

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18.魔王様のお人柄

  魔王城の一室にて、三人の男女がテーブルにつき話をしていた。その誰もが、険しい表情をしている。



「なるほど。教会の放火に、聖遺物強奪の可能性有か……どうにもきな臭いな」



 魔王は今にも舌打ちでもしそうなほど、剣呑な雰囲気を滲ませてそう言った。



「話は分かった。私の方からも探りを入れてみよう」


「あ、ありがとうございます魔王様!!」



 魔王の肯定を示す返答に、エリザは興奮気味に礼を言った。


 ……こうして直で見てみると、双黒な事以外は普通の少女みたいに見える。それでも、魔王としての威圧感だけは健在だった。

 だが、先ほどの子供に遊ばれている姿と、この『魔王』の姿。――どちらが本当の姿なのだろうか?



「……子供の前とじゃ、全然態度が違うんですね」


「ん?――ああ、先ほどのアレを見ていたのか。あいつ等、日に日に遠慮が無くなってきてね……。一体魔王をなんだと思っているんだか」



 まったく、と魔王は少し不満そうな声を漏らした。


 そう告げた瞬間、氷が溶けたかのように眼に見えて魔王の空気が柔らかくなった。




「そもそも、国境の前で見せた態度の方が演技だからね」


「演技?あれが?」 



 むしろあの言動の方がしっくりきていた気がする。指揮官に対する高圧的な態度は随分と堂が入っていたようにシャルには見えた。


 シャルがそう言うと、魔王は自嘲気味に笑った。



「うん。――『魔王』が下手に出たら駄目だろう?隙は出来るだけ見せないようにしないと。せめて最初くらいはしっかりした所を見せておかないと舐められるからね。

 ……でも慣れない事をするもんじゃないな。……あの状態をずっと続けるのは正直遠慮したい。疲れるし」



 やれやれとでも言いたげに、魔王がため息を吐いた。威厳も何もあったもんじゃない。


 ……あの子供への対応は、半魔族(ハーフブラッド)に対する友好のポーズかと思ってたのにこっちが素なのか。大丈夫かこの魔王。




「本当にアンタに任せて大丈夫なのか?」


「しゃ、シャル!!」



 思わず、本音が口から出てしまった。敬語も何もあったもんじゃない。



 そのシャルの態度に、エリザがギョッとした目で俺を見た。流石のエリザもシャルの態度が拙いとは分かっているらしい。

でも、シャルはこの魔王はこの程度の事は気にしないだろうと、なんとなく思っていた。器が大きい事だけは、今までのやり取りで分かっていたから。


それでも、この程度の事で怒るような奴ならば、それはシャルの見込み違いだったというだけだろう。例えそれで殺されそうになったとしても、――まぁどうにか(・・・・)なる。シャルはそう高を括っていた。


 当の魔王は何処吹く風といった風に、シャルの言い草など気にも留めていない様だった。




「そこは君達に信じてもらうしかないな。――が、出来る限りは手を尽くすと約束しよう。……私にとっても他人事では済まないようだしね」


「……それでも、今頼れるのは貴方だけですからね。幻滅させないでくださいよ」


「ふっ、手厳しいな。――でも、安心するといいよ」



 魔王は笑いながらそう言うと、静かに続けた。



「私の中身がいくら残念な出来とはいえ、義務だけは十全に果たしてみせるさ。

 ――この国は、私の国であり、――君達の国でもある。君達がいてこその国なんだ。だからこそ私の命令は絶対だし、その分君たちは私を自由に使ってくれて構わない。

 あくまでも、常識の範囲内でだけどね」


「……何と言うか、随分と変わってますね。そんな事を言う王なんて何処にも居ないっスよ」


「いいんだよ。だって私は『魔王』何だからね。だから何を言ってもいいし、何をしたっていい。文句を言える奴なんていないんだからさ」



 そう言うと、魔王は悪戯気ににやりと笑った。なるほど、ガルシアが言った通り確かに中々面白い人物の様だ。


 国王としては如何せんまだ頼りきれない所もあるが、この魔王にはそれを補うだけの『力』がある。……それが絶対である間はまぁ安泰といった所だろうか。


 ――まぁ、及第点といった所か。悪くは無い。シャルはそう納得した。



「何か分かり次第連絡を入れよう。

 ――今日はもう休むといい。部屋の割り振りは後でガルシアにでも聞くといいよ。使い方もその際に説明を受ければいい」


「あの、魔王様。話を聞いてくれてありがとうございました。……それに、その、シャルが失礼な事言ってすいません」



 エリザが恐縮したような様子で頭を下げる。……魔王自身が気にしてないと言っているのだから、そんな事する必要ないだろうに。



「いいよ別に。口のきき方くらいで怒るほど、私は狭量ではないからね。

 ――私が怒るとすれば、道理に合わない事をされた時くらいだからさ、そんなに心配する事は無いよ」



 その魔王の言葉に、エリザがほっとした様に息を吐いた。


 でも、と魔王が続ける。



「盗み、暴行、詐欺、殺人。これらをした時は話がまた別になるけどね。

 ――その時は、残念だけどお別れだね」



 この世から、と魔王が小さく告げた。


 真意の見えない笑みで魔王は笑っている。……食えない奴だ。と、シャルは思った。




「分かってますよ、それくらい」


「わ、私もそんな事しません」



 シャル達の返答に、魔王は笑って頷いてみせた。



「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。――力なんて出来れば使わないでいられるのが一番なんだからね」





 それからあいさつもそこそこに、二人は城から出た。


 門から出ると、男――ガルシアが二人に向かって駆け寄ってきた。




「よう、魔王様はどうだった?」


「何て言うか、変な奴だった」


「うん。やっぱりちょっと怖かったけど、なんだか『王様』って感じはしなかったよ」



 エリザがそう言った。

 王様らしくはない。確かに言いえて妙ではある。




「普段は全然偉そうにしないからな、あの人は。

 ――だが話してる感じだと、別に頭が悪い訳でもないしな。冗談の類も積極的に乗ってくれるし、基本的にイイ人なんだろうよ。……敵に回さない限りはな」


「……まぁ、そうだな」


 

 最後のあの問答だけ、隠しきれない程の冷酷さが垣間見れた。

 魔王の本質がどうであれ、それがあの魔王の許せない一線なのだろう。それを踏み越えない限りは、大抵の事は許される。

 そのラインを見定めるのはこちら次第という訳か。




「普通に暮らしていくなら、なんの心配もいらないさ。――ほら、部屋に案内するからついて来いよ」


「ああ」



 前を歩くガルシアに、遅れないようについていく。


 景色に目を奪われて中々前に進まないエリザに焦れて、シャルは仕方く彼女の手を掴んで引きずるようにして歩いた。

 エリザから不満の声が上がったが、どう考えても悪いのは彼女の方だ。俺は悪くない。シャルはそんな事を思いながら、無言で歩き続けた。


 そんな二人の姿を見て、ガルシアは「仲のいい兄妹だな」と笑った。




「兄妹なんかじゃない。赤の他人だ」


「まぁ血が繋がってないのは見ればわかるさ。でも付き合いは長いんだろう?」


「ううん。まだ会ってから半月くらいしか経ってないよ?」



 エリザが首を傾げてそう言った。

 ……そう言えばまだそれくらいしか経ってないんだな。何だかんだで何故かずっと一緒に居たのでそう考えると不思議な感じがする。


 その言葉に、ガルシアが呆れたように呟く。



「たかだか半月でよくもまあこんなに懐かれたもんだ。――そうなると一緒の部屋は拙いか?中の備品の関係上一人で住むのはお勧めしづらいんだが……」


「おい、ちょっとまて何の話だそれは」


シャルはガルシアの言葉を聞いて、目に見えて慌てだした。


 これから先もこの天然女の面倒をみなければいけないなんて、冗談ではない。断固として拒否させてもらう。






 その後、長い問答の末最終的にシャルの方が折れる事になった。納得がいかない。


 なにより、エリザ自身が別に嫌がっていないというのが決め手だった。


 ……これだから温室育ちは嫌いなんだ。俺の立場を考えろよ。




 部屋に着いた後、備品の説明に四苦八苦した事は此処で語るべきことではないだろう。








 個室に備え付けてあった、寝るのが勿体ないくらい綺麗なベッドに、シャルは遠慮なく横たわった。


 ここ最近、いろいろなことが起こりすぎた。



 ――ほんと、これからどうなるんだろうな。















◆ ◆ ◆








 誰も居なくなった部屋の中で、私は背後の空間に向けて声を掛けた。



「レイチェル、いる?」


「ええ、いますよ」



 そう言うと、レイチェルはすっと私の横にまでやってきた。その表情は、暗い。



「さっきの話、どう思う?」



 私は先ほどの彼等との会話を思い出し、苦い気持ちになる。

 聖遺物が何者かの手に渡った。しかも、このタイミングで。……嫌な予感しかしない。



「――非常に拙い事態だと思います」


「だよねぇ……」



 私は頭を抱えて机に突っ伏した。あーもう、問題ばっかりだよ。



「このタイミングだと、どう考えても『勇者召喚待ったなし!!』の前振りとしか思えない……」



 あの時無駄にフラグなんか建てるから……。いや、それは関係ないか。


 最悪のケースを考えたとして、後五年でこの国を自立させなくてはならなくなった。

 私がいなくなった後も何とかやっていけるようにしなくちゃ、折角来てもらった彼らに顔向けが出来ない。


 ならば、もう『目立つわけにはいかない』なんて言ってられないな。



「やったねレイチェル。仕事が増えるよ!!過労死一直線だねっ!!」



 多分、この時の私は目が死んでいた。テンションだけは徹夜明けの様に冴えわたっていたけど。



「き、気を確かに持ってください。私達ならきっと頑張れば奇跡を起こせます」


「奇跡に頼らなきゃいけないレベルなの!?」



 女神なんだから奇跡の一つくらい簡単に起こしてくれてもいいじゃないか、と言ったら、無言で首を横に振られた。ちぇっ。




 まぁ私としても五年は厳しいと思ってるし、実際にどうすればいいか見当もつかない。

 

 ――でも、



「やるって言ったなら、やらなくちゃ。言い訳なんて失敗した後存分に言えばいい。今は何をすべきか考える事が重要だ」


「……そうですね。貴方の言う通りです」



 レイチェルが頷く。




「――さぁて、どうしたものかな」




 五年のリミット。魔力問題。法制度。経済。――するべき事も、覚える事も山の様にあった。


 ……本当に、何でこんな事になったんだか。最初はもっと気楽な暮らしが出来ると思って此処に来たというのに。


 でも、今の方が『生きている』いう実感がある。死んでいるように生きている位なら、必死で生きた方が幾分マシだろう。





 そして、私は動き出した。――最初の一手を探しに。

















 神聖歴346年 (かり)の月 1日


 後の歴史書において、『ディストピア』が正式に国として機能し始めたのはこの日からだと書かれることが多い。

 この日から数年間の内情は、未だ詳しい事は解明されていないが、その殆どが魔王自らによる行動の結果であったと予測されている。


 ――と言われていたのだが、昨日某所から発見された城に住んでいた何者かの日記から新しい発見があったと速報が――――、


















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― 新着の感想 ―
[気になる点] シャルは、上から目線すぎませんか… 自分からは、何も提供できていないのに、文句だけ言っているようにしか見えない。 及第点と言っていることも言える立場ではない気がしますし。
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