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勇者から王妃にクラスチェンジしましたが、なんか思ってたのと違うので魔王に転職しようと思います。  作者: 玖洞
その2・次に人を集めます

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15.とある青年の考察

「はぁ?焼き討ち?人を残したままでか!?――あり得ねぇ(・・・・・)だろそんなの」


 青年――シャルの大声に、エリザはびくりと肩を揺らした。恐る恐る、その問いに頷く。


 エリザの肯定の意を見て、彼は引き攣った笑みを浮かべた。



 そう。この辺りの国では『身体を燃やす』という行為は、『魂の消滅』を意味するとし、何があっても行ってはいけないと言われている。


 エリザがいた国では、火刑が一番罪の重い処罰であったが、実際に行われているというのは聞いた事がない。本来は実行ですら禁忌とされているからだ。



「マジかよ……。生死に関わらず、この辺りの国で最大のタブーだぞ?それをよりによって教会の人間に?

 ――いくら半魔族(ハーフブラット)を匿っていたとはいえ、それはやり過ぎどころのレベルじゃない。狂気の沙汰だ。……そいつら他にも何かやってたんじゃねぇの」


「そ、そんな事ない!!皆いい人達だったもん!!」



 シャルの酷い言葉に思わず大声で否定を返す。

 鬱陶しげに睨まれたが、これだけは譲れない。あの人達にはやましい所なんてなかった。神に誓ってそう言える。



「あっそ。――お前が夜な夜な街の住人を虐殺してたとかなら分かるが、そんなわけないだろうしな。

 ……おい、教会の名前は?それに主神と、教会がいつから建てられていたのかも教えろ」


「み、ミリアム教会。主神は、誕生と再生を司る女神マリアンヌ様だよ。

 設立は、えっと、千年は前だって聞いてる。規模は小さいけど、ずっと昔からあの丘に建っていたって神父様が言ってた」


「へぇ、最大手の女神の派閥だな。それも千年の歴史があると来たか。でもまぁお前の件でその教会は破門扱いになるはずだから、教会本部がこの事を調べる可能性も薄い。――なるほど、いい筋書きだぜ」



 シャルはそう言うと、ふむ、と考え込んだ。



「……調べる?どういう事?」



 彼の言っている事が分らなくて、頭が混乱する。彼は何か大事な事を知っている。でも、エリザにはそれが何なのか解らない。


 シャルはエリザの方に向き直ると、鎖に繋がれたその両腕を大きく広げて仰々しく語りだした。



「これはあくまでも俺の勝手な推測なんだけどな。

 ――今回の一件、切っ掛けを作ったのはお前だが、教会の奴らが死んだのはお前のせいじゃない」


「え?」


「噂の大本がお前だっていうのは、恐らく前にお前を診た医者から割れたんだろうな。 その過程で、教会に監査が入った。――その時に、見つけちまったんだろうよ」


「な、何を?」


「――焼いて証拠を残さないようにするくらい、重大な何か(・・)だよ。それ位しか理由付け出来ない」



 ――まさか本当にその場の勢いで放火するなんて、よほどの狂人でなければありえないしな。と、呟くように付け加えた。


 エリザは茫然とシャルの事を見つめた。自分が話した断片的な情報でそんな事を考えていたなんて。


 ……あの教会にそんなにも大事なものがあったなんて、何も知らなかった。



「そんなの、私何も知らない……」


「当たり前だろ。誰が見習い如きにそんな大事な事を話すかよ」



 何も知らされていなかった事に落ち込んだエリザに、シャルが呆れた様に言う。



「それにお前のその背中のソレが出たのが、つい最近っていう事がまずおかしいんだよ。

 半魔族(ハーフブラット)の特殊な身体的特徴は、遅くとも五つまでには出揃う。どうしようもないレベルの優性遺伝だからな。――俺の手もそうだった」


「………………。」


「教会の奥深くに安置しているだけで身体に影響を及ぼすほどの宝具。……場所を考えれば聖遺物が妥当か。――ちと、スケールがでか過ぎるな」


「それが聖遺物だったとして、一体何に使うの?」


「そりゃあ、大魔術や大掛かりな儀式の触媒だろ。かの勇者の召喚の際も女神の遺髪を使ったって噂だぜ?」


「――召喚?」


「あくまでも憶測だ。でもまぁ盗み出したのが国の人間であれ、軍に紛れ込んでた邪教徒であれ、碌な使い方はされないだろうぜ。それか、単に転売の為かもしれないしな」



 もうエリザは、何も言う事が出来ない。彼の言うとおりスケールが大きすぎるのだ。頭の処理が追いついていない。




「――おい、そんなに考え込むなよ。あくまでももしもの話だぜ?ま、俺は結構イイ線いってるとは思うんだけどな」


「それが、」


「ん?」


「それが本当だったら、私はどうすればいいの?」



 ――どうすればいいのだろう。

 教会本部に連絡する?それともその何か(・・)を奪った人間を探す?どうすれば、――彼らの無念を晴らせる?



 そんなエリザの様子をみて、シャルは私に向けてにこやかに笑みを作った。



「教えてやろうか?」



 シャルは先ほどよりも、ずっと優しい声音でエリザに話しかけてきた。



「ほ、本当に!?」



 彼のその申し出に、飛びつくように返事をした。

 先程、もしもの話とはいえ恐るべき考察をしてみせたのだ。きっといい案があるに違いない。そう、エリザは思った。



「ああ、いいとも。簡単さ。むしろ簡単すぎて欠伸が出るね。いいか?




 ――――――――諦めろ(・・・)




 出来る事なんて、それだけしかない」



 先程とは打って変って冷ややかな視線がエリザを射抜く。

 その視線の威圧感に、思わず口から出ようとした非難の言葉が寸での所で止まった。



「どんだけ温い世界に生きてきたんだテメェは。自分の立場が分かってるのか?厳しい事を言うが、俺達は奴隷(・・)だぞ? これから先自由意思なんてもんがあるとでも思ってるのか? 現実を見ろよ」


「……あっ、」


「それでもどうにかしたいって思うなら、今度の所有者を誘惑してみたらどうだ?幸い顔も悪くないしな。ま、お前のその貧相な身体でそれが出来るかどうかは保障しねぇけど」



 そう言って、シャルはエリザを嘲笑う。それを見てエリザは、とても泣きたい気持ちになった。


 でも言い方は酷いが、彼の言っている事は全て正しい。間違っているのはエリザの方だった。


 考え無しだったのは分かってる。自身が無力なのも分かってる。これから先の運命が酷い事だって分かってる。


 ―――でも本当に?


 ――――本当に、私は理解していたの?


 ――――――見ないふりをしていただけではないのか?


 急に恐ろしくなり、両腕で自身を抱きしめる。


 ――怖い。怖くてたまらない。


 シャルはそんなエリザの様子を見て、呆れた様に言った。




「……なんつーか、どうやったらここまで平和ボケして育ってこれるんだろうな」


「………………。」


「アルフォンスまではまだ長い。それまでに最低限の覚悟くらい決めておかないと、直ぐに死ぬぞ。

 まぁ、なんだ。――話くらいなら聞いてやるから」




 シャルが頬を掻きながら、ぶっきらぼうにそう言った。


 ……もしかして、心配してくれてるのだろうか。



「あ、あの」


「……何だよ」



 不機嫌そうに、彼は私を睨む。


 その様子に、思わず怯んでしまった。

 こんな事を言ったら、また酷い事を言われるんじゃないか。そう思い、口から言葉が出てこない。


 ――でも、感謝の気持ちはちゃんと伝えなきゃいけないって、シスターが教えてくれたから。




「……ありがとう、シャル」


「――『さん』を付けろよ、ばぁか」



 シャルはそう言うと、エリザの頭をガシガシ撫でた。

 髪が絡まって痛かったけど、心は何だか温かくなった。



 彼は相変わらず、こちらをみようとしない。でも、エリザは気が付いてしまった。




「耳、赤いよ」


「うるせぇ黙れ」



 エリザは笑って、彼は笑わなかった。





 この時の彼等は何も知らなかった。


 彼等が最後に行きつく場所も、半魔族(ハーフブラット)を集めている人の事も、そして何より――彼等の運命そのものも。













 その頃の魔王様達☆


「私の知らない所で重大なフラグが立ったような気がするっ……!!」


 魔王はガタッ、っと椅子から立ち上がってそう叫んだ。特に意味はない。 何となくそう言わなければならないような気がしただけだ。


「――め、女神様ぁ!!魔王様が疲れでおかしくなっています!!」


 と、ユーグが女神に助けを求めた。……無理もない。彼にはまだ魔王の奇行の対応は荷が重いのだ。


「落ち着きなさいユーグ。いつもの事です」


 そう女神様はバッサリ切り捨てる。通常運行だった。



 たいしていつもと変わらなかった。


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