07
ティントレットは、リーダーの中でもかなりの慎重派というイメージがあった。そんな彼でさえも、インドネシアにある彼らの『工場』を見に行ったきり、連絡が途絶えていた。
「そこでキミの出番だ」なんでだよ。
ティントレットに借りがある、と言い張る匿名の男から、電話があった。昨日いきなりのことだった。
光明グループが敵対している日本国内のマフィアや闇の企業団体のリストが横浜の彼らの拠点に届いた、とその電話の主は告げた。新しいホテルの最上階二階分を、彼らは日本の拠点としており、大人の書斎も用意されている、そして、書類はその金庫の中に保管されている、と。
敵対するグループをどう料理するかも、リストには記載されているらしい。
しかし、24日に催されるクリスマス・パーティーの後、その書類を、いったん香港に帰国する大人の側近が持ち帰ってしまうことまで判明した。
「ヤツらはずっとマークされていたが、書類さえ手に入れば、動かぬ証拠になる」
満足げに、乃木は指を組み合わせている。
もううまく行ったも同然、と思っているのか。
それを今からやらされる身にもなってみろ。
サンライズは憮然とした表情のまま会議室を出た。
廊下でばったり出会ったのは総務部庶務課のナミちゃん。
「わぉ、サンちゃん、どうして今日いるの?」
「それはオレが聞きたい」
「有休だったよねえ、今日明日」
さすが類稀なる有休の使い手、と呼ばれるだけある、他人の有休状況にも詳しい。
「仕事になった」
えええっ? とナミちゃん、わが事のようにフンガイしてくれた。
「珍しいと思ったんだ、サンちゃんが二日も有休とるなんてさ。やっぱりダメだったんだあ」面白がってるだけか?
「ナミちゃんも仕事なんだろ?」
「明日は定時まではいるけどさ、即帰るしぃ、25日はぜったい休むよう」
あったりまえだろ、みたいな口調。
「だって、明日はイヴだしさ、あさってはイヴの次の日だし」
それってクリスマスって言うぞ普通、と突っ込む前に、じゃね! シゴトがーんば! と手を振ってナミちゃんは行ってしまった。