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「え?」
もちろん、一緒に行く!
と答えている自分をミーナは想像した。でも実際想像してみると、なんだかとても可笑しなことのように思えた。つい皮肉な笑いが漏れる。
「どうしてそんなこと急に? 私はここの人間だし」
「ああ」脚元の枯れ葉をそっと蹴って、彼が答える。
「そうだよね。でもオレを逃がしたのがバレたら、大変じゃないの?」
「だったらとっくに大変な目に遭ってたわよ」
ミーナは胸を張って、わざと怖い声で言った。
「誰だと思ってるの? シンジュク二丁目のSMの女王様よ。それに光明グループ・マオライ大人の愛人なんだから。怖いものなんてないわ」
彼の目が少し笑ったので、ミーナもほっとした。優しく付け加える。
「オンナってのは、強いのよ。なんとかなるわ。それに、人助けなんて初めてだし」
ボートの方に、彼を押して行く。
「面白かったわ。無事に帰ってほとぼりがさめたら、今度はお店の方に遊びに来て」
ボートのもやい綱を外し、慎重に乗り込んでから、彼がふり向いて言った。
「あのさ、キミに助けてもらうの、初めてじゃないよ」
どういうこと? ミーナは桟橋に出た。すでに、ボートは岸から離れていた。
彼はまだオールを動かしていない。こちらをみつめている。
「コテージで会ったのも二回目じゃなくて、本当はもっとたくさん会っている。ミーナ、ってさあミナコさんだろ? 覚えてない?」
「覚えて、ない?」
たくさん会っている? お店?
彼は、何か言い淀んでいた。ミーナは岸を伝って追いかけた。
「待って、教えてよ、いつ会ったの? 助けた?」
聞きたくもあったし、聞きたくもなかった。
「お願い、教えて」




