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 08

 彼は気もなさそうにちらりとみると座って靴下と靴を履いた。

「ケガじゃない、黒くなってるだけだ」

「誰かにやられたの?」

「エリックというヤツに」大人の末の弟にやられたのに、逃げられたなんて。感心してそう言ってやると、

「まあ、いろいろとね」そう言いながらも支度を終えて、立とうとする。

「ねえ、悪いこと言わないわ、もう少し休んでいって」

「時間がない」

「ああっ!」急に思い出す。彼も正気づいたかのように目を見開いた。

「なに?」

「テレビよテレビ、今日泉島トオルが出るのよ、『ブルーノート・クラブ』のゲストに!」

 有無を言わせない口調でこう言ってやった。

「いいわよ、一時間だけ待ってちょうだい。その後、赤外線を外しながら徒歩で敷地外に出られるコースを案内してあげる」

「一時間、ていうと何時だ」

「一時半。それまで眠ってていいから」

 本当に、起こしてくれよ、一時半。そう言うが早いか、彼はばったりとベッドに倒れ伏した。

 こわごわのぞいてみると、すでに彼はすやすやと眠っていた。

「何よもう」

 情けをかけたつもりが、何だか結局コイツに振り回されているような気がする。

「いけない」気を取り直し、急いでテレビをつける。


 やっぱり良い男、泉島トオル。

 ぼんやりと画面を眺めながら、でもやっぱり、今夜はこの、傍らに眠る彼のことばかり考えてしまう。


 今日会ったばかりなのに、どうして彼はこんなにくつろいでいるんだろう? ベッドの下から商売道具が出てきた時には、心底びっくりしたみたいだったが、どうしておとなしく言うとおりにしたんだろう? 追われているのに(ヤツらに捕まったら、それこそSMプレイなんておままごとだって言われるような目に遭うかも知れない)、どうしてこう淡々としていられるのか。

 たいして個性的な顔立ち、というわけでもないのに、何が気になるんだろう。 けっこういい身体してたから? 抱かれたいと本気で思った? 

 ううん、そういうのとはまた違う、何でだろう、体の内から強いオーラが感じられるんだ。

 それに、あの目。

 平凡な外見とは裏腹に、内側から何か強い意思があふれようとしているみたいだっ

た。メヂカラ、っていうんだっけ?


 いつの間にか、画面から目が離れていた。気がつくと、じっと彼をみていた。

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