07
「いや……」言葉を選んでいる。コイツはそんなに、私のことを疑っていないようだ。元々あんがい気のいいヤツ、素朴な漁師さんタイプかな。
「お客が一人、逃げたんだ。東洋人の男。多分、中国人か、日本人か。まあ、ここには来てないと思うが」
「まあ」声をひそめる。
「逃げたのいつ? どこかに隠れてるかも?」
「ここにずっといたんだろう、オマエさんは」
「だからずっといたわよ、一時間以上前から」
「逃げたのはちょうどその頃だからなあ……」
「やだ、まだ捕まらないの?」
「怪しげなヤツみかけたら、すぐ内線入れろよ」
「アンタもアタシも、十分アヤシゲじゃない?」
困ったように笑っている。言ってやった。「どう、一杯やってく? ボーヤをつまみに」
「いや、もう少し捜してから……そりゃそうと、大丈夫か? あのボーヤ。全然動かねえ、死んでないだろうな?」
「だいじょうぶよ、ヘーキヘーキ。朝まで、しごいてやるんだ。『オレは何回でもイケる』なんて偉そうだったくせに」
「オマエ、だいぶ酒くさいぞ。いい加減に降ろしてやれよ?」
ヤツが去ってしばらく経って、ようやく私も我にかえった。
「ごめん、行っちゃったわ。腕痛かったでしょ」
明かりをつけふと見ると、なんと縛られたまま、彼は眠っていた。
「やんなっちゃう、ホントにカンチョーしちゃおうか」
揺すって起こしながら、戒めを解く。痩せていてヤワな体格かと思っていたけど、あんがい筋肉がついている。それによく見ると肩の後ろに深い傷あと、腕にも大きく縫った痕、他にも古いけれども細かい傷跡がいくつか。
それに、降ろした時にようやく気がついたけど、左脇腹には生々しい打撲傷が拡がっていた。
「なんか……ヒサンよね」そう言いながら、何だか興奮してきた。
いやだ、SMの血が騒ぐわ。早く目を覚ましなさいよ!
「あ?」
私の心の叫びが聞こえたのか、彼はようやく目が覚めたようだ。戒めを解かれた腕をぶるんと振って、次に
「そうだ、電話貸してくれない?」
だって。
「盗聴されてると思うけど」
「あ、そう」
返事をするとまた半分寝ぼけたように、それでも黙々と服を着けている。
「もう少し待ってた方がいいわよ」
彼が止まったので、言葉をたした。
「ここをすぐ出て行くつもりでしょ」
「ああ」
「みんなしてアンタを捜してるけど、もう一時間くらいしたらあきらめるわ。安全な所まで送ってあげるから、少し休んでいきなさいよ。私もちょっと休みたいし」
ふと、彼の脇腹に目をやった。
「そのケガもちゃんと治療しなきゃ」




