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ようやく、上体だけ起こす。
眼鏡がいつの間にか無くなっているのに気づいた。今さら、眼鏡なんてあってもなくてもどうでもいいが。
しかし、わが身のことは重大問題。すでに可能性は一つだけ。
「お願い」上目をつかい、ここで同時に相手の心に触手をのばす。
「乱暴な……あの、乱暴なことはしないで」
相手を誘う、どうやるんだ、こんなぎりぎりの状況で。ロッククライミング中にたき火をするより難しいかもしれない。しかも『押す』タイミングをはかるなんて。
できるだけ、弱っているように見せねば(本当に、弱っているんだけど)。
そして、できるだけ好きそうに(触るな、というオーラが出ませんように)。
「どうせ、殺されるんでしょう?だから……お願い、せめて」
ヤツの顔を伺う。暗がりではっきりとはしないが、確かに、掴みつつある。
「ほう」相手がにやりとしたのが分かった。
「冥途の土産に、楽しい思い出が欲しいのか」
「アナタなら……悦ばせてくれそうだから。他のヤツらはみな……だから、お願い。抵抗はしないから、せめて最後くらい」
「よく分かった」仕立てのよさそうなスラックスが間をつめて、彼の前に立ちはだかった。かすれた声が楽しげにひびく。
「まず、オマエのズボンを降ろすんだ。壁を向いて立て。手は後ろに」




