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「やめろ」大人が、ものうげに口をはさんだ。
「こんなところで殺るな、絨毯にシミがつく」
こういう高級な場所では、命はできるだけ安く見られた方がいいらしい、思わず安堵の吐息が出た。そんな彼にヨンが矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「オマエ、他に何も聞いてなかったんだな」
「は、はい」
「封筒の中身は」
「聞いてません」
「嘘をつくな」
「嘘じゃない、本当です」
「誰に頼まれたか、まだ言ってねえぞ」エリックがまた首根っこをつかんだ。
苦しげに身をよじったところに、サンライズはマイキーの視線をまた感じる。
「言います、ソーンダイクという人から」
「何だって」
いきなりその名が出るとは思わなかったのだろう。大人が急に真剣な表情になる。サンライズは大人の動揺に気づかないフリをしながら言葉を継いだ。
「ソーンダイク、って言ってました。ソーンダイクさんの頼みだから、断るなよ、って仲介の中国人が、ええとそいつの名は」
むき出しになったままの背中と脇腹に、マイキーの熱を帯びた視線が絡みついている。どす黒い思念が腐臭となって襲ってきた。
マイキーは捕虜から目を離さず、かすれた声で問う。
「大人、もういいでしょう。こいつの始末をつけても」
我にかえった大人、じっとエリックを見つめる。
「こいつが言った通りなのか」
「ああ」
エリックは、彼から手を離し、疲れたようにソファに身を投げ出した。
「こいつの言ったナンバーに電話した。暗号で『もみの木に星が』ええと、何だっけ忘れた、とにかく言ってやったら作戦成功、ってこった。向こうは受け渡しの場所と時間を言ってきやがった」
エレベータの中で送ったイメージは、完璧だったようだ。エリックは偽の情報をそのまま彼らに伝えている。
大人、場所と時間を口にしたエリックをじっとみつめていた。
うすっぺらな嘘なら、さっさと焦げ穴があいてしまうような視線。エリックは平気な顔で見返している。さすが歳が離れていても兄弟だ。
大人は、今度はサンライズの方をみた。
彼はひざまづいたまま、おびえたように壁際に身をよせる。全員の視線がまた集まった。
また、マイキーの思念をとらえた。たくし上がったシャツを引き下ろしたときに、目が合った。
かなりヤバい。しかし、帰り途はここしかなさそうだ。




