08
「だめだ、ヨーナス、目を閉じるな、こちらを見るんだ」
サンライズは意識を一点に集中した。
こんな危機的状況の時、仲間に『シェイク』を使うことはまずない。敵から我が身を護るために、相手の心に働きかけ敵意を削いでその場をしのぐことはたまにあるが、自身もかなり消耗する技術なので、本当に非常時にしか使いたくない。
しかし今が非常時でなくて何だ? それにコイツはオレを信頼している。簡単にシェイクできるのでは……
ようやく起きているルディーの、暗い緑色の瞳を見つめた。両手で肩を掴む。
みえるか? どうにか、つかまえられそうか?
「ヨーナス、自転車に乗って、公園に行ったね」
彼の遠い昔の記憶が目の前にフラッシュする。色がすでに褪せ、視点の合ったあたりの鮮やかな色しか見えない、しかし、十分だ。
「リーダー、何を」
ルディーはわずかに身をよじる。
「聞け。自転車に乗って、公園に行く」視線を固定する。焦点があった。
「はい」
ギリギリでつかまえた感。しかしまずい、向こうから誰か来たようだ、靴音が近づく。
「ヨーナス、オマエは今、ルディーだ。元コマンドーの。熱があったが、もうだいじょうぶ。体が動く。今から塀を越える、高さは1メートル80。ワイヤは取り除いてある、電気も流れていない。乗り越えて、逃げるんだ、安全な所まで。書斎に戻ってはいけない。逃げろ」
いっぺんに、イメージまで流し込む。否応なしの一方通行、頭の血が沸きたち、次に勢いよく引いて行く、そのまま腕を抜けて手先からルディーの内部へと注ぎこまれる。
「逃げるんだ、いいな」
ルディーは夢見心地でうっとりと聞いていたが急に、ぱっと身を起こした。サンライズも急いで手を離す。手のひらにまだ泡立つようなしびれが残っていた。
「リーダー、シヴァは?」
「ひと足先に行った、ファイルを持って」
「私も行きます」
きゅうにきびきびとした動作で立ち上がる。流れるような動きだ。
サンライズが塀際に補助につくと、助走をつけて彼の背中を踏み台に、一瞬の重さだけを残して塀に取り付いた。
立ち上がってから越えるのに10秒もかからなかった。
「誰だ、そこにいるのは」
懐中電灯の白い光が近づいてきた。二つ。
彼は時計を確認した。22時32分。
頭痛は? まだだいじょうぶ、十分動けそうだ。
もう一度、あの中に戻るしかない。
彼は駆けつけた二人の警備員の前にゆうゆうと立ちはだかった。
護身のために相手を失神させるくらいはいくらMIROCでも許容範囲だが、腕力にはあまり自信がない。確実にここから去る方法はやはりここでも『シェイク』しかないだろう。
二人いっぺんというのは初めてだが、今は実践のみだ。




