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「オマエの好きな歌手も呼んであるし、12時前からカウントダウンもして、それでお開きだから」
「あと3時間以上もあるじゃない」
「一緒にステージに上がってくれるんだろう?」
「アナタの弟さんがたが、イヤがるんじゃないの? エリックもどこか行っちゃったし」
「アイツ……どこ行ったんだ」
「糸の切れた凧だからなあ」周りの男たちもキョロキョロしている。
エリック、聞いた事がある。大人の末の弟のことだろう。
確か最初のうち、大人の近くにいたはずだ。ボディーガードの一人かと思っていたが、大人が何かガミガミ言ってたのを笑って受け流していたので、資料で見ていた彼の弟だと気づいた。六人の兄弟姉妹のうち、一番の末っ子だという話だった。
写真で見たより、かなり太っていた。それに、ずいぶんと明るい性格のようだった。
次から次へと寄って来る人たちに愛想よく声をかけて、腹にパンチを食らわすマネをしたり、髪をかきまわしたりしていた。相手はさまざまな反応をみせる。しかし本気でイヤがっている様子はない。はじけるような笑い声に包まれ、大人も思わず苦笑をもらしていた。さすが末っ子は頼もしい。要領のいいヤツはどこにでもいるらしい。
「エリックも居ないんなら、いいでしょ? 車を貸して。私お店に行くわ」
大人は声を潜めた。急に老人らしい口ぶりになる。
「何時に戻る? カウントダウンに来ないのか?」
「ここには戻らない。お店に寄ってからそのままコテージに帰るから、いいでしょう、大人」
よもや許すとは思わなかったが、大人はかがみこむようにして軽くミーナの頬に自分の頬をよせた。
「気をつけて行っておいで。運転手も貸してやるから、自分で運転するなよ」
そこに、シロクマおばさんがサンライズに向かって突進してきた。
「アナタ! タンゴですって! タンゴは得意?」
北極の脅威を間一髪で逃れ、彼はようやく安全な片隅に逃げ込んだ。




