そのよん
「ふむ。して、そなたは何を言いたい?」
「つまり、本当のところ、何が一番かは、人によって違うのでございます」
魔法使いの弟子は続けて言いました。
「陛下は、何故こうまでして一番のものを所望されるのですか?」
王様はひとつ溜息をして言いました。
「満たされぬからだ。そなたの言う、それぞれの一番というものが、私にはわからぬのだ」
王様は魔法使いの弟子に尋ねました。
「私にとっての、一番とは何なのだ?」
すると、魔法使いの弟子はかしこまって言いました。
「それにお答えすることは出来ません」
「ここにいる誰もが、私に忠誠を誓ったものだと記憶しておる。
どうして私の質問に答えられないというのだ?」
半ば怒ったように言う王様に、魔法使いの弟子は、少し微笑みを増して言いました。
「無論、私は陛下に忠誠を誓っております。
しかしそれ故に、私は陛下の質問にお答えすることは出来ないのです」
すると、魔法使いの弟子の師匠が一歩前へ踏み出しました。
白いたっぷりとしたローブに、鉄色の髪をした青年でした。
なかなかの秀才で、王様も一目置いている人物でした。
「恐れながら陛下」
「ああ、お前はこの者の師だったな?何だ。申してみぃ」
「ここにいるものは皆陛下に忠誠を誓っております。
それ故に、我々は陛下に嘘など言えぬのでございます」
魔法使いの弟子の師匠がそう言うと、へそを曲げていた王様は、幾分機嫌を良くしてまた尋ねました。
「もちろんだ。お前の言う嘘とは何だ?」
「我々は、陛下の一番大切なものがなんであるのかが解らないのでございます。
何故なら、我々は陛下のお心を存じ上げないからでございます。
陛下にわからぬ陛下御自身のことを、どうして我々が知り得ることが出来ましょう。
もし我々がただの当てずっぽうを言えば、確証がないために、嘘をついたことになってしまうのです」
ふむむ、と王様は考えて言いました。
「それでは、私にも、お前たちにも解らない、私にとって一番大切なものを、私は知ることはできぬのだろうか」
いいえ、と魔法使いの弟子とその師匠は共に頭を振りました。
「いつか、それを知り得ることは出来るでしょう」
「もしかしたら、陛下がお気づきになられていないだけで、大切にしているものがあるでのではいでしょうか?」
二人がそう言うと、王様は考え込んでしまいました。
「…大切にしているもの?」
「そうでございます」
「それこそが陛下の一番」
「それこそが陛下のお心」
「この国の宝」
「この国の誉れ」
魔法使いたちが口々にそう言うと、王様はパァッとそのかんばせを輝かせました。
「なんだ!そういうことか!」
魔法使いの弟子と、魔法使いたちはその様子を微笑んで見守りました。
何だかんだ言って、かわいい人なんだよな…
それは、出来の悪いかわいい息子を見守る、慈母の眼差しでした。
不思議な不思議なある国で、ある王様は言いました。
「私の一番大切なものは――――――――・・」
それは魔法の言葉。
それはその国の宝。
その国の誉れなのでした。




