そのさん
次に王様は言いました。
「この国で、一番の美女をここへ連れてこい!」
そして、間髪入れずにまた言いました。
「この国で、一番美しい花をここへもってこい!」
魔法使いたちは、それぞれに思うまま、一番美しい人、一番美しい花を用意しました。
中には、お世辞にも美人とは言えない女性と、ありふれた草を持ってきた青年の魔法使いの弟子もいました。
すると、王様は怒って言いました。
「誰が一番美しいのだ!?」
「どれが一番美しいのだ!?」
すると、青年の魔法使いの弟子は言いました。
「恐れながら申し上げます、陛下」
「なんだ。申せ」
「私はこの妻と、この花が美しいと思うのです」
魔法使いの弟子は、お世辞にも美人とはいえない妻と、野に、どこにでも咲いている花を示しました。
端から見れば、もうただののろけでしかありません。
そもそも、この青年は愛する妻と子供たちの自慢ばかりすることで有名だったため、王様もほかの魔法使いたちも「また始まったよ…」と心密かに思っているのでありました。
「それは、私がこの妻を一番に愛し、そしてこの花に思い入れがあるからでございます」
魔法使いの弟子はいたってまじめに言いました。
横ではその妻がポッと頬を赤らめています。
周囲の独身魔法使いには目の毒でしかありません。
実のところ、魔法使いには独身男性が多いのです。
つまり、その場の魔法使いのほとんどが一人身の中年男性だったため、その中の数名などは、王様の御前であることも忘れて、肩を震わせたり、慰めあっていたりするわけです。
しかし、既に何人もの妻子を持つ王様にはそんな気持ちはわかりません。
何度目かのことであったので、王様は億劫になって彼らのことは無視します。




