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趣味全開(武器作り)その2

昼を挟んで午後一時。

午前中は双剣にかかりきりだったので、午後はナイフを作っていきたいと思う。

材料は魔獣の短い牙、ちゃんと数えたら総数二十二本。

少しばらつきはあるが、大体が五センチほどの長さであり、まるで矢じりのような均整の取れた三角形をしているのが特徴だ。

今回はこれを素直に研ぎあげ、小さなナイフを量産していくことにする。

持ち手は根元に近い部分で一センチ程。これは自宅の倉庫に転がっていた革材の端切れを使い巻いていく。

ヤスリではやりにくいので、砥石を使って地道に磨いていくのみだ。

あらかじめ水に沈めて吸水させておいた砥石を取り上げ、足で挟んで固定する。

あとはひたすら研いでいく。

使う砥石は二種類。荒砥用と仕上げ用だ。

しっかりと研磨する人ならもう少し刻むのだろうが、義昭としてはこれでいい。

二種類だけでも二十二個が二回づつ、計四十四回分も研がなければいけないのだ。

やるまえから気が遠くなる思いがする。

そうひたすら、ただひたすらにシーコシーコと。


セミの合唱と庭で蝶々と戯れる野良子猫。やがて親猫が迎えに来てしばらくのちに雀が虫をつつきにやってくる。

蛇がのんびりと軒下の日陰で昼寝をし、ひょこりと顔を出したモグラを仕留めようと野狐が穴に手を入れまさぐっている。

そんな自然の営みが小屋の周りで繰り広げられている間も、ひたすらに研ぎ続ける義昭。慣れてきたのか一個一個の作業速度は上がっていき、傍らには研ぎあがった牙が積まれていく。


「あーーーーおわったぁ……」


頂点に上った日がだいぶ傾き、おやつの時間もとうに過ぎたころ。最後一本を磨き終わった義昭が長いため息とともに板の間へと倒れこんだ。


「つっかれたーーー。三時間もぶっ続けでやってたのか……喉乾いたしトイレ行きてぇ」


持参したペットボトルのお茶を飲み干し、使い古しの和式トイレで用を足す。

ついでに軽くストレッチをすると体の節々から聞いたこともない音が響いた。

同じ姿勢でずっとやっていたから、だいぶ節々が固まっていたようだ。

これから柄への革巻きは、さすがに気力が続かない。


「よし。運動がてら試してみるか!」


武器は鑑賞しても至高だが、やはり使えてこそ魅力が高まると義昭は思う。

というわけで研いだばかりのナイフと双剣を持ち小屋を出る。

目指すは薪割り場だ。

そこには乾燥させた木材がたんとある。

試し切りの素材には事欠かないのだ。


「まずはこの剣だな、やっぱり」


ヤスリで刃を削り出し、砥石で光沢が出るまで磨き上げた二振り。

薪用の丸太に行く前に、試しにノートの切れ端で試してみる。

小屋で発見した小学生時代の使い古しのノートを持ってきて、適当なページを切り取る。……何か謎のキャラクターが描いてあるが、勉強はどうした当時の俺。

まあ今もしてないし、当時も勉強なんてしてないか。

そんなどうでもいい思考は追い出して、と。左手に剣をもち、つうと刃の上で紙を滑らせる。

するとどうだろう。なんの抵抗もなく紙に刃が入っていき、刃の中頃で真っ二つになった紙の切れ端が地面へと落ちた。


「へ、切れ味良すぎん?」


試しにもう一本もやってみると、こちらも殆ど抵抗なく切り落としてくる。

これはまずいものを作ってしまったのでは?

ここで初めて銃刀法が脳裏をよぎるが、ここまで来たらもう同じこと。

紙では切れる以外はわからなかったので、本番の丸太に行ってみる。


「そい!」


剣術なんて習ったことはない。使い慣れた鉈の動きで横なぎに剣を振るう義昭。

斧で叩き割るのが前提の丸太。剣で切れるのは漫画の世界のみだ。

実際は少し刃がめり込む程度だろう。

そう思っていたのだが。

スカッと、剣は丸太をすり抜けた。

思いがけない手ごたえに止められず振り切った刀身は丸太のその先、無造作に生えている丈が長い雑草が生えた草原へと突っ込み、そのままその背丈を丸ごと切りそろえた。なだらかな平面を残し、上の草がバラバラと地面に落ちる。

義昭は空ぶった剣を見つめ、無事な丸太を確認して一人苦笑した。

剣なんて振ったことないから、どうやら目標を外したみたいだ。

素人が振って当たるなんて甘く見すぎだったか。きっと力みすぎたんだろう。

しっかり狙って今度こそは当ててやる。そう思い丸太の位置を調整しようとした時だった。

義昭の手が丸太に触れた瞬間、その上半分がポロリと地面へ落ちたのだ。

残ったのは、まるで工作機械で切ったのかと思うほど、綺麗すぎる断面。


「ほぁ?」


思わず間抜けな声が出るが、仕方ないと思ってほしい。

まさか丸太が真っ二つなんてファンタジーな出来事が起こるとは全く思っていなかったのだから。

なんなら丸太の半分でも行けば「これスゲー! 名刀作っちゃったか」なんて一人どや顔を決める心の準備もしていたのだ。そう、そこが最高点だと思っていた。

まさか丸太がほとんど抵抗なく切れるなんて思ってもいなかったんだ。


「これ、やばくね……?」


ごくりと生唾を飲み込み、そっと剣を小屋の縁側に置くと、もう一本を恐る恐る手に取る。

怖いが、確かめざるを得ない。

片手剣の柄サイズに作ったため、右手一本で軽く持ち上げ、丸太の残った下半分に振り下ろした。

結果、まるで建材かのような半円の木材が二つ、誕生してしまった。

なんなら薪割り台にしている切り株までやってしまいそうな勢いだった。静止が間に合わなければ間違いなく割っていただろう。


「洒落にならない名刀になってしまった……」


この二本はしっかりと、責任をもって管理しよう。そう決めた義昭。

気を取り直して次はナイフだ。

これは正直切れ味なんてあまり考えていない。刺さればよし。

つまるところは投げナイフ、飛び道具だ。

戦闘の合間にさっと牽制する小物、とても燃えないか?

義昭の中二病が双剣に引き続き暴れた結果である。


「新しい丸太……には当たる気がしないな。確かこの辺に手ごろな厚みのベニヤ板があったはず」


建築関係ならコンパネの名称で親しみのあるだろう、一センチ以上の厚みがある合板。

じいちゃんが棚を作ったときの余りが保管(放置)されていたので、そこに的の絵を描いていく。

絵とはいってもただの二重丸だが。

あとは小屋のトタン壁に立てかけて、準備完了だ。


「さっきは力みすぎたから、こうかるーく」


漫画でみた忍者の動きを想像しながらまず一投。

緩く飛んだナイフは側面が板に当たり、草むらにむなしく落下した。


「あれ、刺さらない。もう少し勢いが必要かな」


あと刃がちゃんと前を向くように気をつけないと。

試行錯誤し二投目。少しだけ力を込めて投擲。

今回ナイフは縦に回転しながら飛び、二重丸の外側に深く刺さった。

先端ではなく、刃の部分で。

三分の一ほども刺さっているのでなかなか抜けない。


「軽く投げただけでもこれか……これも、凄い事になっちゃったな」


とりあえず残り二十本の試しは後日に回そう。

小屋の中で見つけた空の木箱にナイフを詰め、先の二本は手元に置く。

切れ味が鋭くても、このサイズならあまり怖さはない。

この二本だけ持ち手に革を巻き、スマホで調べて少しヒダをつける。


「すこし投げるの練習しようかな」


ここをこうして、こうしたほうがよく飛ぶか。

そんな試行錯誤を続けるうちに空は赤くなりすっかり夕方に。

こうして武器作りは途中から投げナイフ練習へと変わっていった。

イノシシの魔獣を倒した時からやりたかったことをやれて、とても満足感の高い日曜日を過ごした義昭だった。




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