趣味全開(武器作り)その1
一夜明けて日曜早朝。
軽く朝ごはん(白米と漬物)を食べた後にやってきたのは裏山の狩り小屋。
持参品はヤスリに彫刻刀、ノコギリ、接着剤、そのほか細々と。
昨日から準備していたからもう、ワクワクが止まらない。
そう今日こそは。
「武器作るぞー!」
イノシシもどき(仮)の牙を掲げて、義昭は誰にともなしに気合を入れた。
人の腕ほどもある長さ、程よい湾曲、先細りの形状。
筒状ではなく鋭さも備えていそうな楕円形に近い状態も合わさり、もう昨日からこれしか想像できなかったのだ。「剣にしたらかっこいいんじゃね?」と。
じいちゃんに見せてもらったことがある。象牙のナイフとやらを。
あの時は真っ白い、不思議な刀身に魅せられたものだ。
あと有名な狩りゲームでも牙とか爪で剣を作るじゃないか(ちなみに義昭はハンマー使い)。だったらいけるはず。この牙でもきっと!
「にしてもこれ、しっかりと中まで詰まってるな……ずっしり重い。神経は通ってないのか」
親知らずや乳歯の生え変わりなどで自分の歯を見たことがある人は多いだろうが、神経の通っている歯は中に空洞があるつくりをしている。ちなみにここまで虫歯が進行した場合は治療にかなり痛い思いをすることになるのだが……いまは関係ないため割愛する。
この牙も内部に空洞があるかもしれないと、付け根部分をノコギリで少し輪切りにしてみたのだが、出てきたのは木の年輪のように骨が層として積み重なったような断面だった。もし空洞だったら隙間の強度が心配だな……と考えていたのだが、これは嬉しい誤算である。
さっそく義昭は付け根部分にマジックで持ち手部分を書き、ノコギリで裁断していった。あとから木をかぶせて整えるので、多少無骨でも構わない。
下手に握ると危ないので、楕円の側面を両足の裏で挟むように固定し、小型のノコギリで容赦なく切っていく。
家の中が切りカスで散らかるとあとでじいちゃんが怖いので、作業は主に縁側だ。
「うっわ、かなり堅いな……ノコギリがダメになりそう」
たまに刃がつかえ「クニャン」とノコギリがしなるのが、本当にヒヤッとする。
それでもしっかり二本分、持ち手を切り出し見てみる。
多少、いやかなり不格好だが握る分には問題ない。しっかり牙の中心にきているため、ためしに振ったらかなりしっくり来た。
あとからここはヤスリで整えた後に革(昨日帰る前に脂身とかを削いで洗っておいたもの。今陰干ししている)を巻けばオーケーだろう。皮の加工は近所のおじさんがやっていたものの見様見真似だが、大丈夫だろうか? 不安になってきた。
ちょっと皮に近寄って確認してみる。食器用洗剤とか使ってしっかり洗った後に一晩漬けおいたので、脂ぎった感じは最初程はない。嫌な臭いもしていないし……多分大丈夫と思いたい。
「いざとなったら、おじさんに相談してみよう。うん」
皮のことはいったん忘れ、牙だ。
現状、持ち手の付いた巨大な牙という状態である。本体の形状がすでに楕円のため、これでも鈍器に近い刀剣に見えるのが素敵なのだが、せっかくなら鋭い刃をつけてみたい。その思いのままに、ヤスリと鉈用の砥石を用意する。
「さあ、やるか!」
銃刀法なんて今の義昭の頭には無かった。
日が天頂に達し、セミたちのオーケストラが最盛を迎える正午過ぎ。
汗だく疲労困憊の義昭の前には、二本の曲刀が鎮座していた。
長さは丁度、日本刀と同じくらいだろうか。
研ぎあげた片刃は牙の年輪が浮き出で、まるでタングステンのような波紋を白い刀身に刻んでおり、対して峰の部分は磨く程度に留めているため本来の牙の無骨さがいい味を出している。
全体的にはイノシシの牙の面影を残しつつ、刀剣として整えたといった風情の二振り。
柄より僅かに膨らんだ刀身に全体の白い配色と、現実にはない組み合わせが大変良い。
「こうして見ると、あの魔獣、体にくらべて随分大きな牙を持ってたんだな」
昨日は改めて思うことはなかったが、一日たってからこうして落ち着いてみるとかなり極端な体の作りだったのがわかる。
ニュースで魔獣は既存の生物とは逸脱した体をしていると報道されていたがなるほど、この魔獣は牙に全振りだったのかもしれない。もし昨日失敗して牙に当たっていたらどうなっていたのだろうか、考えたくもない。
ともあれ今となっては義昭の作品なのだ。牙に全振りありがとうと、塩漬けにした生首に手を合わせるのだった。
……この生首、どうしよう。
「さあてと、次は小さな牙たちだな」
大物が片付いたら次は普通の牙の出番。
数えてみたら二十本ほどもあった。素晴らしいが大変そうだ。
ともあれまずは腹ごしらえだろう。
朝六時から動いていた体はかなりの空腹を訴えかけてきている。ここはもう肉を食うしかない。幸い、美味い肉はたんとあるのだ。
この狩り小屋には一応電気が来ており、獲物を補完するための業務用冷蔵庫が完備されている。そこから昨日解体で得た固まり肉を取り出し、切り出そうとしたところで思い出した。
「あ! ホルモン忘れてた!!」
小川で水にさらしていた内臓の存在を。
急いで取りに戻ると幸い野生動物に荒らされず、涼やかに清流にもまれているのを発見。無事保護できたのだった。
まあこれは内臓に残る残存魔力を野生動物が警戒し、近寄らなかったための結果なのだが当然義昭が知る由もなく。
……もし昨日奏がこの近くまで来ていたら、しっかりセンサーが反応しただろう。
そうなれば今、こうして義昭は趣味に全力を出せていなかったかもしれない。
「よし、せっかくホルモンがあるんだ、しっかり焼いて食べてみよう」
しかし一部をタレに漬け込み、そのほか食えそうと直感的に思った部分を躊躇なく網に乗せてしまう義昭には、そんな「もしも」など予測できるはずもない。
いつか食中毒で倒れないかが心配な男である。




