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のどかだなぁ……

東京首都高、魔獣災害跡地。

先日の魔獣出現に伴い現在も引き続き交通規制がかかっているそこで、多数の作業員が復旧と原状回復に努めていた。

都心の大動脈を担う道路である以上、昼夜を通して行われておりその作業速度は目を見張るものがある。

そんな中で魔獣対策室の若い職員が、わずかに残った魔獣の残骸に測定器をつなぎつつ手元のファイルに観測過程のデータを転写していた。


「おう、いいデータは取れたか?」


そんな若い職員に、白衣を着た年配の技術者が話しかける。


「ああ、主任。お疲れさまです。今回はわりと残存物がありますからね。はかどりますよ」

「できれば全身が残ってくれると嬉しいんだがなぁ……まあ、無い物ねだりか」

「そうですね。そうなれば研究もはかどりますが、魔法少女たちの魔法で倒すとこうなりますからね。望み薄ですよ」


こうなる……若い職員が指さしたのは、数本の遺骨と黒い結晶体、あとは鱗や爪が数点ほど。


「魔法少女の魔力と魔獣の魔力の拮抗……その結果が遺骸の大部分にわたる早期消滅とは、研究者泣かせだよほんと」

「肉や内臓なんか、まず残りませんからね。まあそのおかけで魔獣に有効打を与えられているので、贅沢なんて言えませんけど」

「間違いないな。下手に損傷なく残せなんて言おうものなら”魔法少女を介さずに、かつきれいに倒せ”って事になっちまうからな」

「それこそ不可能ですよ。初回侵攻時の自衛隊が倒した時も最終的には消し炭でしたからね」

「……そうだったな。まあ、消し炭とはいえ一部は残った。あれのお陰で魔獣の魔力を探るきっかけができたから無駄ではなかったが」


当時の犠牲者数を思い出ししんみりする二人。

魔獣は討伐されれば数点の遺物を残し、あとは溶けるように消滅する。

魔法少女が魔獣災害に対応しだして四年。それはもはや、知識人のなかでは常識となっていた。

ゆえに巨大な魔獣が暴れても、討伐後は死体の処理に悩まなくて済む反面、得られる素材などは極わずか。

希少価値という面では高くなるため、災害後の補填として資金に変える分には問題が少ないのだが、研究素材としては希少性が上がる分、無茶な調査ができない無常を抱えていた。

今回の災害復旧作業も、その大半が破損した道路の修復や、残存魔力地の測定(一般人に影響が出ないかの評価)が主な内容となる。


「で、今回の魔力データはどんな感じだ?」

「過去の魔獣と大差ありませんね。ただ戦闘データと比較しても通常兵器だと厳しかったでしょう」

「やはり魔力障壁が問題か……」

「ただ、今回の遺物には大型の骨が数点ありますので、融通してもらえれば以前、室長が言われていた実験にも取り掛かれるかもしれません」

「魔力を含む魔獣の素材を使用した兵器、ってやつか」

「そうです。理論上は魔獣にもダメージを与える可能性があると」

「ふむ……」


いまだ測定機に繋がれていない骨、形から恐らく背骨の一部だと思われる遺物を手に取る白衣の男。

回転させるようにして様々な角度からそれを観察する男の目は、分厚い丸メガネ越しにすうと細められた。


「これを兵器にか……」

「主任?」

「いや、何でもない。いずれにせよ年端もいかない彼女たちにばかり命を張らせるのは大人として業腹だ。研究は着実に進めていかないとな。いずれ魔法少女のみでなく人類が魔獣に対抗できるように」

「そうですね。引き続きデータの収集を行います」

「手を止めさせて悪かったな。頼む」


再度計測器へ向き直った研究員をねぎらい、白衣の男は静かに煙草へ火をつけた。

昨日、魔獣を討伐した少女たちはこの後パフェか何かを食べに行く会話をしていた。

本来は平和な学校帰りにでもする話題だ。

戦いの中にあってもまだ、そういった会話ができることに安心するべきか。

戦いの直後にそういった会話ができるほど「慣れてしまった」事に嘆くべきか。

おそらく両方なのだろう。


「はやく大人が代わってやらなくちゃな」


一気に紫煙を飲み干し、携帯灰皿へと放り込む。

今の自分にできるのはそう、二徹目の研究くらいなのだと。




愛車に跨り進む道。

左を見ても、右を見てもほぼ田んぼ。たまに畑。

すれ違うのは軽トラックとコンバイン。たまにケバいアルファード。


「のどかだなぁ……」


やけ広いコンビニの駐車場で、奏はコーヒー片手に空を見上げた。

ブラックは飲めない。微糖も微妙。しっかり甘いカフェオレだ。


「魔獣見逃したまま帰るのは気持ち悪いなと思って民宿に一泊したけど。ぜーんぜん異状ない……平和すぎん?」


むしろよく民宿見つかったなと昨日の自分を褒めたいくらいに田舎。

外食チェーンすら見当たらないってどういうこと?

都会育ちの少女としては軽いカルチャーギャップすら覚える。

あと民宿のおかみさんは異常なほどに親切だった。看板猫も朝起きたら布団に潜り込んできていて、また来ようと思わせるサービス上手っぷり。良い夜を過ごせた。

閑話休題。

道行く人もコンビニの店員さんまで親切で気のいい人たちだった。

だからこそ、この人たちが魔獣の被害に合わないように絶対見つけ出してやるぞと気合を入れ、二日目もバイクで見回っていたのだが。

これがほんとに、何にも反応がない。


「本部もさっき誤報だったとか言ってきたし……なんかモヤっとするなぁ」


確かにいない、反応もない。

しかし魔獣が暴れたであろう山中の惨状はしっかりとこの目で確認しているのだ。

何度も魔力反応があった点も見逃せない。

誤報というには反証が多すぎるのが現状だ。

空になったコーヒー、もといカフェオレの缶を咥えたまま、トンビが飛ぶ空を見上げる。


「まてよ……魔獣って言ったって、なにもひとばかり襲わないよね……山の中でひっそりと? いやいや、それでもいたら反応があるはず。となるとやっぱり、あれが気になるよね」


あれ、つまりは昨日会った猟師の青年のこと。

彼は言っていた「イノシシっぽいの」と。猟師が「っぽいの」なんて付けるだろうか。イノシシならイノシシで良くないか?


「でも肉とか骨とか残ってたし。魔獣ってあれだよね、倒したらこうジュワーって消えて少しだけ骨とか残るだけだよね」


ここで現場と研究者との意識の差が致命的なすれ違いを生んでいた。

現場で戦う奏達魔法少女にとって、魔獣は倒したらほとんど消えるもの。それ以上でも以下でもない。

昨日の生首に奏がビビったのはこれも要因として大きい。

「魔力を持たない攻撃で倒した場合、残る可能性がある」なんて知識はそもそも無いのだ。

また魔獣は魔法少女の力で討伐できるものとの意識が大きいため、そもそも青年が倒せるなんて考えは持ち辛いという側面もある。

昨日の話で引っかかっている時点で、奏は柔軟なほうだと言えるだろう。

しかし、ここが限界である。


「仕方ない、今日と……確か明日も休みだったね。海の日だ。ならあと一泊してから帰ろうかな。それで反応なかったら諦めよ」


スマホでマップを調べて大型ショッピングモールがあるのを発見。田舎ってイオーがやけに大きいってほんとだったんだ……とここでも驚きつつ、下着など着替えとあと……賄賂の猫缶を買うためにバイクを走らせるのだった。





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