表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/30

山中の出会い(北音奏)

オペレーターに周囲のスキャンを頼んだが、答えは反応なし。

見つけられないか……と落胆したのだが、そのタイミングでオペレーターより追加の連絡がきた。

曰く、現在地点から数百メートル離れた山中にて一瞬だけ反応を感知したという。

数秒で消えたようだが、立て続けに四回。同じ地点での観測。

すぐに該当地点の座標を端末に送ってもらい、向かうことにした。

愛車のビッグスクーターは山中には向かないため、舗装路ぎりぎりでお留守番だ。


「直線ではいけないか。でも道はあるみたいで良かった」


舗装されていない凹凸のある土の道だが、草や木の中を進むより余程いい。

普通の女子高生ならへばるだろう悪路も魔法少女の体力ならハイキングと大差ない。

どうやら普段から魔力により身体機能が強化されているようだ……と本部の研究員が言っていたが、細かいことは覚えていない。

疲れにくく怪我しにくい。これだけ分かっていれば便利な力と片づけられるのだ。

細かいことは気にしない少女、それが奏である。

小柄な体をライダージャケット上下に包み、ギターケースを担いでの登山。

はたから見たらバイクが壊れて遭難しているようにしか見えない。


「えーと、まだ真っすぐか。遠く感じるな」


街中では景色が移り変わるため、一キロ未満なんてすぐ歩いてしまう距離だが、自然しかない山中だと景色に代わり映えがないため感覚的に長く感じやすい。

バイクに乗っているときは丁度よかったライダージャケットも、夏の日差しにかかればサウナスーツ一直線だ。

たまらず上を脱いで袖を腰に縛り、ラフな半そでシャツ姿で歩みを再開する。

それでも熱いので腰のポーチから携帯扇風機を取り出して顔に当てていると、行く先に粗末な小屋のようなものが建っているのを発見した。

端末を見ると、どうやらそこが目当てのポイントらしい。


「まさか、だれか襲われてる!?」


熱さでだらけた気分が一気に引き締まり、急いで小屋へと駆け出す奏。

しかしそこで見たのはエプロンを黒い血で染めながら何やらお肉を解体する若い男性の姿だった。


(えっと……地元民かな?)


とりあえず、誰かが襲われているなんて事が無かったことにほっとする奏。

周囲には争った形跡はなく、小屋の佇まいから恐らく猟師か何かの関係だろうと推察できた。

仕留めた鹿の角や熊のものらしき鞣した毛皮が壁に貼ってあるので、知識に乏しくても雰囲気で察せられる。


(若い猟師さんだな……)


歳は自分と同じか少し上くらいか。

がっしりとした体格に百七十は超えているだろう背丈。

そしてシンプルな服装の上からでもわかる鍛えられた肉体。

無造作に短く切られた髪には白いタオルを巻いており、真剣に骨と肉を選別する姿はまさに職人といった感じだった。

今、声をかけるのは無粋だろうか。考えるまでもないだろう。

すごい集中力で取り組んでいるのは見ているだけでわかる。

しかし、こちらとしても現場で見つけた唯一の民間人だ。

何か見るか聞くかしていないか、ぜひ聞いておきたい。

でも、声をかけるのは……。


そんなこんなで一時間は迷っていたか。

傾きかけていた日もしっかり傾き、夕方になったころにようやくその彼が作業をやめて顔を上げた。


今だ、このタイミングを逃すな。


「あの、少しいいですか?」

「ん?」

「ひっ……」


声かけに気が付いて顔を上げてくれた青年。

その睨むような眼差しについ声を上げてしまった。

やっぱり駄目だったか、職人の仕事中に声をかけて怒らせたか。

内心奏がびくびくしていると、青年は申し訳なさそうに頭を掻いて微笑んだ。


「ああごめん、怖がらないで。生まれつきなんだ、目つきが悪いの」

「あ、その、すいません」

「いいって。でも君、こんな山奥にどうしたの? 親御さんは? それともお友達と来たのかな」


ん? 親御さん? 友達?


「えっと親は……」

「ハイキング中にはぐれたのかな……でもこの山、ハイキングには向いてないし」


理解した。これ迷子だと思われてる。

誰が幼児体型や。こちとら18歳やぞ。免許だって持っとるんやワレ。コラ。


「迷子ではありません。それと私は十八歳です」

「えっ! 中学生じゃなくて年上!?」


悲報その一、中学生と思われてた。

悲報その二、歳下にそう思われてた。


「……あなた、いくつ?」

「えーと、十七です。すいませんでした」


素直にぺこりと頭を下げる青年。

言葉使いもしっかり敬語に変わっている。

えらい。許す。

かなりちょろい少女、それが奏だった。

だって歳を言ってもだいたいが「そんな背伸びしなくていいよー」とか「はいはい分かったから、親のバイク持ち出しちゃだめだよ」とか言ってくるのだ。

だから人よりも数倍運転免許にはお世話になっている自信がある。

素晴らしきかな万能身分証書。


「えーと、それで何か用でしょうか?」

「あ、そうでした。ぶしつけな質問ですが、今日この山で見慣れない獣を見ませんでしたか?もしくは大きな騒音を聞いたとか、ありませんでした?」

「見慣れない獣……あーイノシシっぽい奴なら仕留めましたよ」

「イノシシっぽいやつ?」

「コレ」


青年が指をさすのは今しがた解体している肉。

さらに青年が傍らを指さす。

そこにはまさに、イノシシの生首が鎮座していた。


「ひっ……」


思わず半歩後ずさる。

それに青年は薄く笑った。


「女性には刺激が強かったですね。で、これ以外には平和な山でしたよ」

「そ、そうですか……」


普段魔獣と戦う魔法少女。魔獣の死骸には慣れていたが、解体された獣は別カウントだ。切り落とされた上に丁寧に台の上へ鎮座する生首は、何か別種の怖さというか不気味さがある。

特に牙が生えているわけでもなく、角があるわけでもなく、別の生き物が混ざっているわけでもない。

図鑑とかでもよく見るイノシシ……の生首。

これは魔獣ではなさそうだ……そう奏は判断した。


「すいません、ありがとうございました。えと、私は北音と申します。何か異変や気が付いたことがありましたらご連絡ください」

「あ、ご丁寧にどうも。その時は連絡しますね。俺は東野っていいます」


お互いにぺこりと頭を下げ、青年に名刺を渡して小屋を離れる。

早くイノシシから遠ざかりたかった、そんな気持ちは否定できない。

だって生々しいし。

それに名刺には「魔獣対策室 実行部 特別執行員 北音奏」と記載されている。

少し調べれば自分の身分はわかるだろう。

もし万が一魔獣を見かけることがあれば、連絡してくるはずだ。

そのときが来たら、また改めて対応すればいい。

とりあえずは手掛かりがなくなった今、次にどこを探してみるか……。


その問題の魔獣が今目の前で解体されているなんて知りもせず、森の中にでも入ってみようかなとか考えつつ、異常なしと本部に連絡する奏であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ