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獲物をしっかり処理しよう

「じいちゃーん、ちょっとナイフ借りるぞー」

「ん? ああ、なんか仕留めたのか」

「おう、イノシシっぽいの」



「ふぅ……重い」


裏山の一角にある山小屋。じいちゃんが狩りの時に拠点にしているこの小屋へ、義昭は大荷物を担いでやっとのことでたどり着いた。

大荷物、もとい魔獣は大型犬ほどだがやけに重い。以前熊を担いだ時よりも重い気がする。

まあ熊を担いで運べる時点で自分でもどうかと思うが、できるものは仕方がない。

とりあえず後ろ足を縛り滑車で持ち上げ宙づりにする。

何をするかって? もちろん解体だ。

マタギ歴の長いじいちゃんから動物の解体は叩き込まれている。

これは魔獣だが、イノシシっぽいのでまあ何とかなるだろう。


「まずは頸動脈を切って……うわ黒っ」


まるで墨汁のような血に驚きつつもバケツに受けてしばらく待つ。

その間に借りてきたナイフを研ぎ、ブルーシートを広げて準備万端。

魔獣だろうがなんだろうが、仕留めた以上は自分の獲物だ。しっかり解体して有効活用してやらないと。

先ほどの戦闘と運搬で疲労困憊の体を小屋の中で休め、持参していたスポドリで水分補給をしているうちに水音がどんどん弱くなっているのがわかる。

ちらりと覗くと、血抜き完了まであと少しといったところ。


「ここで焦ったら生臭くなるからな。もう少し待つか」


食い盛りの高校二年生、肉体労働に間食くらいは用意してきている。

ばあちゃんが作ったワカメおにぎりを頬張りつつ、雲を眺めながら待つことさらに一時間。

いくら待っても血が出てこないまでに抜けたのを確認してからブルーシートの上にそっと獲物を横たえた。

次にやるのは内臓の処理と毛皮の処理、皮剥ぎだ。

ここで気が付いたが、戦っていた時に感じていたバリアのようなものは今はなくなっているようだ。それでもやけに固い毛皮だが、切れないほどでもない。

どうやら生きている時だけの特徴らしい。


「えーと、内臓は破らないようにそっと……よしできた。破ると匂いや何やで大変になるからな。あと何喰ってるかなんて知りたくもないし」


腹膜に覆われた内臓を取り出してコンテナに入れ、次いで毛皮と肉の境目にナイフを入れていく。

血油が絡むので適度に刃を拭いながらの作業だ。

魔獣の毛皮は柔らかいようでいて強固であり、柔軟性と強度が両立している手ごたえがある様子。

ちょうど革のジャケットが欲しかった義昭はことさら丁寧に剝がし取っていった。


「ふう、ちょっと休憩……」


一時間弱におよぶ格闘のすえ、何割か肉と皮を分離できた段階で一度休憩。

少し傾いてきた日を見るに「もうおやつの時間か……」などと考えていたら、なんか小腹がすいてきた。

おにぎりを食べたばかりだというのに、十代の体は燃費が悪い。

クッキーとか持ってたっけと何とはなしに考えていると、ふと、今解体した魔獣の太ももが視界に入った。

すでに解体され、ピンク色の色合い露わになったもも肉。

倉庫を見渡すと、使いさしの炭とドラム缶を半分に切ったようなグリルもある。

これはもう、焼けということでは?


「でも魔獣だしな……いや、イノシシっぽいし、大丈夫だろ」


そのまま刀剣のような牙が生えていようとも、耳が四つあろうとも。よく見たら目に白黒の別がなく真っ黒であろうとも。

イノシシっぽいものは、もはやイノシシだと考えても問題ないのではないか。

大丈夫、毒とかあれば味でわかるでしょう。間違えて毒キノコを食べそうになった時も、味の違和感に気が付いて難を逃れた経験があるのだ。何かあるなら食べなければいいだけ。

そう理論武装したところで……義昭は魔獣の股関節へとナイフを入れ、円を描くように魔獣本体と分離した。

魔獣の肉は意外にもすんなりと切れ、まるで棍棒のような立派な骨付き肉が手に入る。細かなサシの入った素人目にもうまそうな肉だ。あとはこれを焼くだけ。

大丈夫、遭難時に備え、塩と胡椒は荷物の中に常備している。抜かりはない。

着火剤とバーナーで素早く火をおこし、炭に引火させて延焼させる。

手をかざして熱気が伝わればいよいよ本番だ。

軽く塩を振った肉をそっと網に乗せる。

じうじうと油が炭火に熱せられ、なんとも食欲を掻き立てる匂いが漂ってくる。

確信する、これは美味い。


「……内臓も処理しとくか」


焼肉では肉と同じくらい、ホルモンも好きな義昭。早速とばかりに内臓の洗浄を始める。

ここで気が付いたのが、この魔獣、内臓に内容物が入っていないということ。

なんとも綺麗なものだ。

そして心臓の付近になにやら固い肉質の器官を発見した。

以前イノシシをさばいた時には見なかったものだ。魔獣は通常の生物と作りが違うというから、多分そういった器官なんだろう。

消化には関わっておらず、肉質は多分、ハツ。

少し悩んでから義昭は、適当にスライスして網の上に乗せてしまった。

未知の肉は警戒するのが正道だが、どうにも旨そうに見えてしまったのだ。

腹を壊したら、その時はその時だと魔獣をさばき始めたときに開き直っている。

でもその他、消化器官系は気分的に即食いは厳しいので、付近の清流で晒しておくことにした。


「さて、いい感じかな?」


ここまでやってから最初のお肉をひっくり返す。

炭火をそんなに強くしていなかったためか、程よく焦げ目がつきいい感じだ。

謎のハツっぽい肉も香ばしい匂いを発している。

しまった、焼き肉のタレをナイフ取りに行ったときに持ってくればよかったと少し後悔してしまう。まあ後の祭りだが。

今はこの肉の食べごろを逃すほうが問題だ。


「よし、そろそろいけそうだ」


全面に焼き目が付き、表面で油が弾ける太もも肉。一見なんか棍棒にも見えるそれに追いコショウをし、豪快にかぶりつく。

その瞬間、時は止まった。


「……うめぇぇぇ!」


さばいたばかり、野性味のある臭みはどうしようもないが、それを打ち消して余りある旨味と肉汁の洪水に食べる手が止まらない。

塩と胡椒だけだというのに、物足りなさというものが微塵もない。

たまらずハツっぽいお肉にも箸をのばす。

塩と肉汁が表面でキラキラと輝く赤身肉。うまいに決まっている。


「腹壊したら、そんときは諦める! いざ」


豪快に一口。瞬間、ドクンと心臓が振動した。

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