これが私の出せるもの
術式礼装:聖唱魔歌
魔法少女としての力を「歌」を媒介にして発動する奏の解放形態である。
小鳥を模した魔力体「トーン」と「ヘオン」を従え、ただ一人でありながら重奏を使いこなし、多面的な局面への対応が可能な「支援型の」魔法少女だった。
今までは。
「ウグッ……キサマ」
魔獣が動こうとする方向にトーンが回り込み『鉄槌の歌』で出鼻を挫き。
晒された隙へとヘオンが魔力派を放ってダメージを与える。
更に奏自身も「戦いの歌」を使い自身の身体能力を強化してヘオンの攻撃へ追撃を重ねる。
支援のために今まで使ってきた、後方支援のやり方を前線へ。
仲間の強化を自分自身へ。
多方面の強化に使っていた三つのリソースは、この戦いにおいて圧倒的な手数を生み出していた。
『ソロ:断裂の歌』
奏自身の澄んだ歌声が響く。
その耳にすっと入るような歌声は、しかして毒を孕んでいる。
ガガッガキン! と連続して多方面から不可視の斬撃が魔獣の体に降り注いだ。
歌とは音。つまり周囲すべてにある音の振動。
人と会話するとき、音楽を聴くとき、果たしてその人との直線位置に壁ができれば声は、音は全てシャットアウトできるだろうか。
答えは否だ。
音の発生源からの指向性はあるものの、音は空気の波を伝い周囲すべてに影響を与える。
例え連続していなくても関係ない。地面、水、壁に自分の手足でさえも、音は伝い到達する。
威力の大小こそあれど、回避も防御も困難なもの。それが音。
それが奏の「魔歌」。
三本角の魔獣は奏の紡ぐ魔歌の斬撃にさらされ、まともに動くこともできない。
「ナメルナ……」
「ダメだよ。トーン」
「QUAAAAAA!」
『鉄槌の歌』
「グァウ!!」
斬撃の中に紛れる衝撃。
魔獣の直上に移動したトーンが、その赤い体を広げて全力の歌をぶつける。
さらに奏はたたみ掛けるように、バトンを振るって黄色い小鳥を放った。
「ヘオン!」
「KYuaaaaaa」
『槍撃の歌』
奏の斬撃、トーンの衝撃をひらりとくぐり、魔獣の側面でそのハスキーな女性を思わせる美声で紡ぐは叩きつけるようなスタッカート。
刺突、斬撃、衝撃。
三種類の攻撃が魔獣の体へ断続的に降り注ぐ。
『トリオ:魔撃の合唱』
それぞれに違う歌を与え、対処の難しい別種の攻撃を奏単体で成立させる。
攻撃の密度たるや、まるで雨にでも打たれているかのよう。
(できればここで仕留める)
トーンとヘオンの攻撃の間隙を縫い、息継ぎを入れながら歌い上げる。
奏の聖唱魔歌は近接戦闘に秀でているわけでも、防御に優れているわけでもない。
機動力も高くはなく、圧倒的な高火力も持ち合わせてはいない。
「ラアアアアアァァ」
バトンの先についている宝石をスタンドマイクのように使い、その声に魔力を乗せる。
聖唱魔歌その真価は。
その手数だ。
「ナメルナァァ!!」
魔力を漲らせた魔獣が、その巨大な羽を勢いよく広げる。
その風圧には濃厚な魔力が乗り、まるで嵐に巻き込まれる木の葉のように奏の攻撃を吹き散らす。
「チイサナコウゲキヲ、チクチクト! コレデ、ヒトツキニシテクレル!」
羽を震わせる高周波。薄くも強靭な一対の羽が魔獣の巨体を砲弾へと変える。
しかし奏は小鳥二羽を肩に戻し、それぞれに同じ極を紡いだ。
『トリオ:城壁の歌!』
奏がメイン、トーンが高音、ヘオンが低音。それぞれが魅力を出し合い効果を高めた合唱。
その歌に応えるように奏の魔力と周囲の空気が反応し、瞬時に奏の前に不可視の城壁を作り上げた。
「コザカシイ!」
魔獣が怒りの声を上げる。が、奏はふっと小さく笑った。
(小賢しいだけで、済むかな?)
ガオン!
森の空気が揺れ、虫が逃げ出し、離れた陣地のコンテナをも揺らす。
絶大な力を秘めた魔獣の突撃により生じた衝撃波。それは一瞬空間を波打たせたかと錯覚するほどだった。
だが、それでもなお。
積み重なる歌声によって張られた「歌声の壁」を破るには至らない。
押し込めば押し込むだけ。
壊せば壊しただけ。
いくらでも修復される。
奏の、トーンの、ヘオンの魔力と体力が付き、歌が解除されるまで。
その城壁は魔獣を阻む。
そして、それが終わりではない。
『変調:反転魔歌』
不可視の音の壁。それがその瞬間、波打ちたわむ。
何かがおかしい、そう思い魔獣が警戒するが、全力で突撃していた体は止まれない。
ならばむしろ押し通る。羽の振動数をさらに上げ殺意を角に込める魔獣。
しかし次の瞬間、その体は背後に向けて勢いよく弾き飛ばされていた。
「ナ……ナンダト!?」
何本もの木をへし折り、なお飛ばされる体。
切りもみ回転する視界の中で、魔獣は自分の身に何が起こったかを悟った。
自分の突進を受け止めていた障壁、それが反転、自身の体を反射したのだ。
突撃されたエネルギーをそのままに、たわんだ弓が放たれるように。
己の力をそのまま返された……その事実に魔獣の怒りが掻き立てられる。
「キサマ……ナメタマネヲ!!」
吹き飛ぶ体を羽を広げて風を受けることで制動し、地面に落ちた反動で姿勢を立て直す。
魔獣から見れば矮小もいいところの人間の小娘。
自分と戦う力があると、敵であると認識はしたが、踏みつぶす対象であるのは変わりない。
しかし今の自分の状態はどうだ。
一方的に攻撃を食らって、突撃を防がれて、あまつさえ自分の力を利用されて吹き飛ばされた。
魔獣のプライドを刺激するには、充分なもの。
右のみ残った複眼から魔力の残光を引きながら、六本の足で地面を踏みしめ構える魔獣。
絶対に仕留める。踏みつぶす。ユルシハシナイ。
しかし目の前にいるのは魔法少女《魔獣の天敵》。
『魔の残光、聖の祈り』
『空を埋めるは悲しみの雲、降り注ぐは悲劇の言葉』
紡がれる歌。
高音と低音が左右から絡み合い、魔力の流れが螺旋となる。
『打ち砕かれし人意思、絶望にくゆるその眼』
これまで受けてきたどの攻撃よりも濃密で。
共鳴し合う魔力は圧縮され、爪を研ぐ。
『その涙はどこへ行く、その悲劇はどこに行く』
『悲しみは今を紡ぎ、立つ足は未来を開く』
『絶望は捨て行け、希望を胸に抱け』
まるで円を描くように振るわれるバトン。
しなやかな腕で操られるバトンの軌跡が奏の周囲をめぐり、最後に打ち果たすべき敵へと向けて突き付けられた。
先端の宝石が、まばゆいばかりの光を放つ。
『我らの歌が、その悲しみを解き放たん』
解放の言葉、それとともに放たれるのは、視認すら可能な密度の歌の魔力。
『レイ・オブ・リベレーション』
砲撃にも似たその一撃は、魔獣の全身を光で包み込み、森を揺らすほどの衝撃を生み出した。




