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術式礼装:聖唱魔歌

渦巻く魔力が収束し、かと思えばまるで内側から弾けるように拡散した。

何事か、隻眼で状況を見極めようとする魔獣。

その視界を遮るように、いつの間にか一羽の小鳥が飛んでいた。


「ナンダ、ジャマナ……」


反射的に角を振り回し、追い払おうとする魔獣。

だが角が当たるよりも早く、小鳥がその小さな口を開き。


「PUGYUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


まるで爆撃のような声を発した。

その声は指向性があるのか、少し後ろで倒れる人員には被害を出さず、魔獣のみを強かに打ち据える。


「そう、矮小だと油断してるからそうなるの」


声も掻き消え後ろに飛ばされる魔獣。

そんな醜態を笑うでもなく、渦のあった場所に立つ少女は告げた。


「ナンダコムスメ、ソノスガタハ……」


飛ばされはしたものの、態勢を立て直した魔獣が問う。

その投げかけに少女、奏は手に持つマーチングバトンを突き付けた。


「歌の魔法少女。貴方を滅する者よ」


綺麗な黒髪を飾る、黒地に金の装飾が施されたシェイコ。

マーチングウェアに酷似した衣装は黒地に金縁で彩られ、ふわりと広がったミニスカートや襟口は柔らかなフリルがあしらわれている。

ブーツは細身ではあるものの、まるで五線譜のような模様が施され、肩には黄色の魔力で作られた小鳥が止まっている。


清浄であり苛烈な、まるでオペラハウスでクラシックを聴いているような。そんな音色を形にしたような魔力を迸らせ、奏は戻ってきた赤い小鳥に軽く口付けをした。


「よくやったね、トーン」

「ワタシヲメッスルカ、オオキクデタナ、コムスメ」


ブーン、そう耳障りな音を立てて飛び立つ魔獣。

対して奏は先端に青い法的があしらわれたバトンをくるりと回して円を描く。

それは十重二十重と連なり、一種の巨大なスピーカーを形作った。


「トーン、ヘオン、いくよ」


奏の呼びかけに応え、二羽の小鳥が円の中心で口を開く。

紡がれるのは高音の調べ、打ち出されるのは低音の響き。

二つの歌声が魔力の円で増幅され、一つの形として吐き出される。

彼らの指揮者の導くままに。


『デュオ:鉄槌の歌』


その魔歌は解き放たれる。


「グッ……オ……」


それを何に例えればいいか。

まるで戦艦の砲撃のようであり、まるで巨人の放った大槌の一撃のようであり、見えない拳に打ち据えられたかのようである。そんな面による打撃。


不可視の「音」による爆発的な衝撃を受け、魔獣は再度背後へと吹き飛ばされた。

しかも、それは一撃ではない。

歌である以上、一瞬のみでは済まさない。

都合三発。魔歌を凝縮した鉄槌が、まるでピンボールのように魔獣のその巨大な体を人里から離れた山のほうへと吹き飛ばす。


ヒュンと風を切り回転したバトン。

それに従い肩に戻る二匹の小鳥。


「これで、陣地から引き離したね」


義昭が眠るコンテナを見上げ、奏は満足そうに頷いた。


「小林先生、すいませんが彼に付いていてあげてください」

「……分かりました。北音さんは?」

「私は、やつを仕留めてきます」


多数の木々をなぎ倒し、森にわだちを刻んだその向こう。

足をばたつかせて今にも起き上がりそうな巨体へと、歩を進める奏。


「ご武運を」


そんな魔法少女きぼうの背中へと、小林は小さくそう言った。


「もちろん、やってくるよ」


ぐっ、と地面を踏みしめ、一気に飛び出す彼女の背は、数瞬のうちに森の中、魔獣の直上までたどり着く。

いまだに腹を見せ、起き上がろうとする魔獣。

その腹めがけて、奏はくるりと空中で姿勢を修正する。


「トーン! ヘオン!」


赤い小鳥が飛び立ち、奏の上で新たに歌う。


『戦いの歌』


黄色い小鳥が飛び立ち、奏の後ろで声を上げた。


『城壁の歌』


二つの歌が重なり合い、奏の体に魔力がみなぎる。

身体能力はもっと強く、さらに素早く。

纏う魔力は密度を増し、何物にも砕けない鎧となる。


二羽の小鳥の歌に囲まれ、奏は空中で身をひねると、そのまま杖を軸にして縦回転をかけ、まるで高速で回転する車輪のような状態で魔獣の腹上へ。

今だ起き上がれずもがくその無防備な腹部へと、強烈な一撃を叩き込まんがために。

回転の勢いを余すことなく乗せ、まるで処刑人の斧のように、白いブーツで包まれたしなやかな足を、魔獣の腹へと突き立てた。

頑丈なヒールが武器のように、魔獣の体をえぐり取る。


「グアァァッ」

「まだよ!」


悲鳴を上げる魔獣。それに見向きもせず、打撃の反動を利用して再度空中に飛び退る。

その全身は音の魔力で満たされ、その身体能力は先ほどまでとは比べ物になりはしない。

度重なる追撃で、甲殻が傷ついた今、さらに一撃を入れるため。

構えたバトンが光を放つ。


「吹き飛びなさい!」


奏の声に応え、ヘオンと呼ばれた黄色い鳥が、別の歌を紡ぎだす。

それはまるで剣士が戦場でその武を頼りに突き進むがごとき歌。


『剣武の歌』


歌の魔力に導かれ、ステッキの周辺にまるで剣を模したかのような魔力が集中する。

その光は、まるで歴戦の騎士が振るう大剣のように、武の圧力を伴って。

真に迫る歌唱の術理が、中世の騎士物語に語られる一撃をこの世に打ち出した。


「剣武の歌・忠義の一閃」


バトンを柄に見立てた、魔力で象られた大剣の打ち下ろし。

魔獣の纏う魔力の障壁など意にも介さず突き破り、その甲殻へと食らいつく。


「ッ、ググ……ナメルナコムスメ!!」

「ならば受け止めて見せなさい!」


度重なる追撃に、怒りをはらんだ魔獣の魔力が解き放たれる。

それは甲殻に食らいついた大剣へとぶつかり、拮抗し。

やがて大きな爆発を巻き起こした。


立ち込める土煙に、わずかに残った職員が目を凝らす。

やがて見えてきたのは悠然と佇む魔法少女と、甲殻に傷を負った魔獣の姿。


「キサマ……」

「さあ、戦いを始めましょう」


歌で現実を塗り替え、魔を現出し、場を支配する。

魔獣を前にして不敵に笑う彼女「歌の魔法少女」を、このとき魔獣は初めて狩るべき獲物から戦う敵へと認識を改めたのだった。






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