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サウンドエフェクト

無色透明の中にも破壊力と衝撃を蓄えた『音』の塊。

その暴威は一本角の魔獣へと向かい、手前の地面で大きく爆ぜた。


「ギャウッ!」


とっさに反応して飛び退ろうとしたようだが、よけきれずに魔獣の体が宙を舞う。


「まだまだ!」


弾かれる指と震える弦。度重なる音は魔力を介して宙を震わせ、まるで奏がいる空間そのものを巨大な『アンプ』としているかのように膨大な音で埋め尽くす。


音とはすなわち、空気の震えだ。


コンサート会場でスピーカーの出す音を皮膚で感じることができるように、一定以上の密度では音も物理的な影響を与えてくる。


ましてや魔法少女が使う術式にて構築された空間だ。奏の『歌の魔法少女』としての魔力が満ちたこの場所は、さながら奏のライブハウスといったところか。


空中で態勢を立て直そうともがく魔獣へ向け、さらに奏の手が弦を弾く。


繰り出される衝撃波にもてあそばれ、空中で何度も跳ね飛ばされた後、魔獣は地面へ叩きつけられた。


ギウウゥゥン……と演奏の残響が森に響く。


「どうです、これで」

「ギャガ……」

「まだ立つ、か……」


のそりと起き上がった魔獣は首を軽く振り、奏をじっと見つめた。


瞬間、その姿がぶれる。


とっさに構えたギターケースの裏側から鋭い角が現れたことで、今突進されたのだと気が付いた。


(盾が間に合わなきゃ、串刺しにされていた……)


ギターケースを振り払うが、先んじて角を抜き飛びのいた魔獣は態勢を崩すことなく着地し、再び突進の機会をうかがう。


小型で力はないが、速度では確実に負けていた。

ゆえに奏は場所を作る。


「サウンドエフェクト・ウォール!」


ギュン! とエレキギターが唸る。

それに呼応するように魔力がうねり、奏の前面へ音の壁を作り出した。

同時、再び突進してきた魔獣の角が壁に激突。


「サウンドエフェクト・ショック!」


更にそのしなやかな指を弦の上で躍らせ、複雑な音を作り出した。


それはまるでハウス内でオーディエンスのテンションを直撃するような、音の小爆発。


壁に角を突き立てたままその場で小刻みに震えて固定されている魔獣、その上下左右から実際の威力をはらんだ音の爆弾が弾けた。

同時ではなく時間差での衝撃波。

障壁に固定されたままの魔獣は、全方位からの攻撃を回避もできずに受け止めるしかない。


「ギャッ、グ、ギャオ……」


苦悶の声を上げ、爆発のたびに激しく揺さぶられ続ける魔獣。


「これで終われ!」


更に追加のショック。緩急をつけた爆発で翻弄する。

それはすでに戦闘と呼べるものではない、一方的な連打。のようにも思える。

しかし奏の表情は真剣さを崩さなかった。


(魔獣との戦闘は何が起こるか分からない。油断はできない)


魔獣討伐はある意味、分かりやすい指標がある。

それは「魔法少女と交戦した魔獣は、その命が尽きると僅かな遺留品を残して消滅する」という点だ。


その様はまるで灰が燃え尽きて崩れ落ちるようだと例えられる。


つまり戦闘の終わりが明確なのだ。

逆に言えば、それまでは油断できないのが魔獣との闘い。


「ギャオ……!! ガァ!」


一方的に見える戦いも、わずかな齟齬ですぐに崩れる。


爆発に弄ばれるばかりだった魔獣の、その一本角に魔力が集中した瞬間、その綻びは訪れた。

ギャオ! という、まるで鋼板を無理やり引き裂いたかのような音とともに不可視の壁が抉られた。


咄嗟に横方向へ身を投げる奏、その一瞬前までいた場所を魔獣の魔力が迸る。


すぐに身を起こして確認すれば、奏の立っていた場所から背後の木までの地面が抉り取られ、木々も滅茶苦茶になぎ倒されていた。

当の魔獣はといえば、倒れて九十九に折り重なった木の上で、奏に敵意のこもった目を向けている。


「やっぱ、簡単にはいかないか」


ギュン! とギターを鳴らし、再度ウォールを展開して魔獣を見据える。


(地面が螺旋状に抉れてる。木も切ったというより抉った感じ。木くずも周囲に飛び散ってる……これはドリルみたいな攻撃かな)


観察する間にも魔獣の角に魔力が集まる。

来る、そう思った瞬間にはウォールが破られた感覚があった。

思った通り、一か所を起点にして、まるで無理やり突き破られたかのような攻撃。


「サウンドエフェクト・ショック!!」


咄嗟に前方へ魔力の爆発を起こし、魔獣の軌道を逸らすことはできたが、なんと魔獣は吹き飛ばされながらも再度跳躍し、二度目の突進を仕掛けてきた。


「くっ!」


辛くも横に転がり避ける奏。しかし魔獣は木を足場にし、上方から落下するようにして再度の突進を行った。


地面へ倒れたままの奏になすすべはない。それを分かっているのか、魔獣の目が殺意で細まる。


しかし、今まさに魔獣の角で突き殺されようとしている彼女は恐怖どころか不敵に笑ってみせたのだ。


「それだけ突進力と機動性があるんだから、連撃で来るよね。やっぱり」


魔獣と奏の間、そのわずかばかりの空間に無数に浮かぶ不可視の爆弾。

そして奏と魔獣の直線距離を囲むように展開される、音の防壁。


「銃弾ってなんであんなに威力出るか知ってる? それはね」


魔獣の眼前、ほぼゼロ距離で魔力と音が弾ける。


「逃げ場のない閉鎖空間、その一方だけにあえて『出口』を用意することで本来拡散する爆発を一方方向に集中させるの。それだけで何倍にも高まるんだ」


連鎖ではなく同時に起こる爆発。

しかしそれは周囲の木々や奏には毛ほども影響を与えず、ただ一方、魔獣の体のみを激しく打ち据えた。


「ダブルサウンド・キャノン」


それはまるで不可視の砲台。

魔獣そのものを砲弾に見立てた攻撃装置。

しかし一点だけ違うとすれば、それは何かを狙い撃つものではなく、砲弾そのものを打ち据えるもの。


もしかしたら何か魔獣は悲鳴でも上げたのかもしれない。


逃げようと抵抗したのかもしれない。


しかし行動も、音すらも封じる壁によってそのどれも世界に知られることはなく、砲撃に似た爆発の中で灰になり崩れる体も爆風で散らされながら、ウサギに似た小型の魔獣はこの世界から存在そのものを粉砕された。




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