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常識さんログアウト

「ええと……」


時間はお昼時。

丁度おなかが減る時間。

となれば、飯を食うしかないでしょう。


「というわけで、肉を焼きます!」


そんなわけで焼くのだ。肉を。

今回はイノシシ(じいちゃんが狩ったもの)と新鮮な野菜を披露する。

魔獣肉はその、ほら、怒られそうだから。

骨も捧げたし、しっかり土下座したし、あとは機嫌を取ればいいと思うわけですよ。

これぞ世を渡るための知恵。

様子を見るに、奏は都会から来た人の様子。都会の人は豚肉や鶏肉、牛肉は食べなれているがイノシシの肉は馴染みがない様子。かえって珍しく有難がられるらしい。

だったら振舞おうじゃないか。じいちゃんが仕留めて血抜きから熟成まで行った絶品のものを。

問答無用で捕まえる、通報するという空気じゃないので、なら機嫌取るだけ取って有耶無耶にしてしまいたい義昭だった。

まあ、当然ながら奏はこのノリに置いてきぼりになっている。


「え、いきなりバーベキュー?」

「おなか減ってるでしょ? 食べません?」

「えぇぇ……」


先ほどの頭骨と背骨、そしてその後に出てきた骨の山。これらを前に魔力測定やら報告書の内容を考えたりやら忙しかった奏。気が付くと放置していた義昭が手際よく炭火を起こしてバーベキューの用意を整えていた。

展開についていけない。


「おなかが減ったからって、いきなりバーベキュー……」

「だって焼くのが美味いし、手軽だし」

「炭火って、手軽かな……」


審議の入りそうな内容である。

ちなみに義昭にとっては「慣れている」の一言でしかない。

網のカスは焼き切り、灰は埋めれば終わりなので、処理が分かっていれば本当に手がかからないのだ。

最寄りのコンビニまで車で三十分、スーパーに行くのはお出かけ扱い。

そんな田舎にとっては炭処理の手間はコンビニよりも軽いのだ。


「ばあちゃんの手製握りもあるし、野菜も新鮮ですよ?」


田舎ゆえに米も野菜も産地直送。鮮度では極致にあると言っていい。


「ほら、焼けましたよ~」


夏の暑さに負けない笑顔で、炭火の煙に巻かれながら焼けた肉を皿に盛る義昭。

有名メーカーの焼肉のタレまで用意されていて、至れり尽くせり。

奏の口に唾液があふれた。

お昼の空腹と合わせて食欲が「呼んだ?」と顔を出す。


「ま、まあせっかく用意してくれたものですし? お昼ですし?」

「これ、脂乗ってますよ」

「頂きます」


欲望に負けて皿を受け取ってしまった。

受け取ってしまった以上は、食べなきゃ人として失礼に当たるよね?

ちょうどお昼時でお腹が減っていた奏は、もう細かいことは忘れて食べちゃおうと一緒に渡された箸をとり一口。

途端に、スーパーのとは違う、肉々しい味があふれ出た。

しかり処理された猪肉は野性味がありながらも旨味に溢れている。

またらず渡されたおにぎりを一口。粒の立った白米の塩握りと肉の相性は抜群。

たまに焼いてくれる玉ねぎやキノコも、肉のインターバルとしては優秀どころかそれ単体でも甘く軽やかな味わいがある。

美味しいものには弱い少女、それが奏であった。


「あれ私何しに来たんでしたっけ? あ、これ旨い」


程よく焼けた肉を玉ねぎと一緒にタレにつけ、ひょいぱく。


「ん~~~~」

「ほら、ここロースですよ」

「美味しいのに脂っぽくない!」


嬉しそうに肉を食べる奏。

義昭は内心でガッツポーズ。勝ったな……と。

逮捕はされたくない。それに、せっかく旨い肉と作った武器もバレたくないのだ。

ついでに毛皮も加工したい。装備っぽくしてもいいし、敷物にも防寒着にも映えるだろう。

バレないためには、ここでこの段階で気を逸らしておくに限る。

バーベキューの用意をするふりをして隠したんだ、バレたくない奴は。

逆に渡した骨はどうとでもいい。どうせ後で埋めるか焼くかして処分するつもりだったものだ。

砕いて骨片肥料にとも考えたが、未知の生物を肥料にして畑が異常をきたす危険がある。焼いて埋め立てるのが手っ取り早い。でも面倒だなと思っていた時にこの来客だ。むしろ処分に困る生ごみの引き取り先が決まったようなもので、気楽なものだ。

だから義昭は油断した。


「いいでしょ、イノシシの肉は」


つい出たセリフ。地元の味、じいちゃんの獲物を自慢したかったゆえの言葉だった。

しかし奏はピタリと動きを止め、ぎぎぎと音がしそうな程のぎこちなさで、ゆっくりと義昭へ視線を向けた。


「まって、これ、何の肉……?」


骨がほとんど残っている。一部の骨には肉らしきものも付着している。

なら纏まった量の肉もあるんじゃないか。

『イノシシっぽいやつ』『イノシシの肉』連想するのは当然のことだろう。


「もしかして……」


不気味なものを見る目で手に持つ皿を見つめる奏。

まずい、このままだと変な追及をされる。

焦った義昭はさらに口を滑らせた。


「違う違う! それはウチのじいちゃんが仕留めた本物のイノシシ! うちの村の

名物にもなってるやつ! 魔獣の肉はもうそんなにないし、今は出してないから!」

「……もう、そんなにない?」

「あ……」


これはダメだ、弁明できない。


「正直に答えて。魔獣の肉、あったのね?」

「はい、ありました」

「どうした?」

「美味しかったです」


シュンとなって答える義昭の両肩がガッと掴まれる。

そのまま小柄な体のどこにこんな力が? といった勢いで揺さぶられた。


「馬鹿ですかあなた! 食った? あれを!? ペッしなさいペッ!」

「あわわわマママテ、待って! もう多分消化してるから!」


ぐわんぐわんと頭をシェイクされる。ヘビメタのヘドバンさながらの勢いだ。


「体に異常は!? 毒とか何かえっと、そもそも魔力をもったやつ食うって!!」

「食べて少し痛かったけど……途中から慣れたし」

「痛い時点で食べるのやめなさい!!」


魔獣の肉をためらいなく食べる。そして痛みという異常があったにも関わらず、やめるどころか食べ続けて慣れてしまう。

奏の常識がログアウトする音が聞こえた気がした。


「そんなの食べるのダメでしょ……しかも美味しかったって……」

「えーと、なんか、ごめんなさい?」

「残りの肉は?」

「あ、えーと」

「出してください」

「……はい」


しぶしぶ冷蔵庫から肉を取り出す義昭。

その塊肉ともいえる量に奏はめまいすら覚えた。当然全回収。

骨と合わせてかなり大量の魔獣部位が残る結果となった。

これをどう上に報告したものか……がっかり肩を落とす義昭をよそに、あまった塩むすびを齧りながら頭を抱える奏だった。



余談だが、肉の大部分が回収される中、落ち込んだフリをしつつ一握りの霜降り部分は隠し通したのは、食に対する義昭の執念がなせる業だった。




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