Hey土下座
「あ、私こういうものです」
「『魔獣対策室 実行部 特別執行員 北音奏』……??」
「簡単に言うと国の機関ですね。国家権力です」
「ほあ!?」
ということで数十分後。
「魔獣の手掛かり、何かありますか?」という奏の天の一言を受けて狩り小屋へと移動した義昭は、到着した瞬間に魔獣の頭蓋骨を掲げて土下座した。
「どうか逮捕だけは勘弁してください!!」
「え、ちょ、どういうことですか!?」
肉落とされたばかりの無骨な頭骨をいきなり眼前に突き出されて、ノータイムの土下座。これで平然と対応しろというほうが無理な話だろう。
だが義昭も警察を通り越していきなりの国家権力の登場に脳内大パニック中だった。
「これをお納めください! そしてどうかご勘弁を」
「えー! ちょ、ちょっと待って、いきなりこんなの渡されても」
「足りませんか!? でしたら肋骨と背骨ならまだ」
「なんで骨を足そうとするんですか!! ちょ、まって近づけないで」
「そうですね足りませんね、待っててくださいすぐ取ってきます!」
「いやちが、これ置いていかないで!!」
ドン引きする奏の足元に頭骨を放り出し小屋にダッシュ。
投げられた頭骨はコロンと転がり、その空洞の目に見つめられた奏の頬が引きつる。
でも戻ってきた義昭の姿を見た途端、引きつりは悲鳴に変わった。
「ほら肋骨と背骨です!」
「いやぁぁ!! なんか黒いのついてる、え、肉? 無理無理無理」
「ああ、すいません、削ぎ切ってなくて。でもここ不要部位で捨てているところでしたし」
「そういう問題じゃ」
「でもほら、いっぱいあったほうがいいでしょう?」
「だからなんで骨を、いやーーーー!! 近づけないでください!!」
ダッシュで逃げる奏。追う義昭。
動物の遺骨(肉片付き)を手に女性を追い回す、ガタイのいい男の図である。
普通に事案というか事件を通り越してホラーだった。
やられているほうの奏はもう、たまったものじゃない。
「ちょっと、本当に何ですか! 私はただ魔獣の手掛かりをと」
「ですからこれを差し上げるので見逃して欲しいって事で」
「だから何で」
(ん、待って。そういうこと?)
ここで奏の頭がようやく正常に回りだす。逃げる足は止めないままに。
「いったん止まってください義昭くん。そして聞かせてください。その骨は
何の骨ですか」
逃げる速度を落とした奏につられて足を止める義昭。
「それはいったん下において」
「あ、はい」
「で、さっきの頭の骨とその、グロいやつ。それは何の骨ですか」
「あ、えーーーと。多分……」
「多分?」
そこで少し間が空き、ばつが悪そうに義昭は言った。
「魔獣……です」
魔獣とは魔力をまとった、この世界の動物とは異なる姿かたちをした危険生物。
外見からも気配からも間違えようのない異物。
しかし奏はとある事情から。義昭に当時の魔獣の様子を説明するようにお願いした。
で、数分後、小屋の縁側で義昭から渡された紙を見つめて奏は目を点にしていた。
「えーと、上手いですね……」
「はい、張り切りました」
紙、おそらくノートを千切ったのだろうそこには体長と同じくらいの長さの牙を生やしたイノシシのような生物が描かれていた。劇画調で。
なんか世紀末に「ヒャッハー」とか「汚物は焼却だー!」とか言ってそうな画風である。なんかイノシシの目が片方二つ、計四つあるようにも見えるが頭に入ってこない。
「よくこれを数分で……」
「頑張りました」
どやっと胸を張る義昭。何かがズレているが、奏は気にしないことにした。
「口で説明してくれれば良かったのですが、分かりやすいからいいか……でもこれ、珍しく普通の動物に近いけど、明らかに魔獣ね」
「やっぱりですか? なんかそんな気がしたんですよ」
「で、その魔獣が今は」
「あれです」
視線の先では雑草に埋もれるように横たわる骨。
「仕留めたって……ほんとに仕留めてたのね……」
魔獣の描かれた紙を畳んでポーチに仕舞い、奏は嫌々ながらも骨に近寄ると
センサーをその骨に近づけた。
すると接触しないままに大きな電子音と赤いランプが点灯する。
これで間違いなくなった。
「魔法少女でもない、何なら女でもない少年が魔獣を仕留めた……ってことか」
魔獣を倒すには、魔法少女を当てる。それが不可能な場合は現代兵器の火力押しで
何とか討伐するしかない。これがセオリーとなっている。
まさかミサイルどころか重火器、拳銃の一つも持っていない少年が仕留めるなんて
想定すらされていない事態だ。
仮に猟銃を使ってたとしても関係ない。その程度の火力は誤差だと言えるくらいに
一般人と魔獣では力の差が開いている。
実際四年前はライフル弾でもいやがらせ程度にしかならなかったのだ。
警察、猟友会、自衛官が大勢犠牲になったあの討伐戦は記憶から離れることはない。
(ただ一つ違いといえば魔獣の規模。あの時は確か五メートルサイズの巨人型だったはず。今回のは大きく見積もっても野生動物とそう大きさに違いはない。かなり弱い個体だった事は確か……)
だからといって一般人が仕留められるかと言われたら、当事者でなければ奏だって冗談だと流す程度に非常識なことではある。
恐らく当時、立ち向かわざるを得ない状況だったのだろうと思うが、それでも魔獣に生身で立ち向かえる精神も凄まじい。
奏だって魔法少女だ。魔獣の存在感、威圧感は知っている。仮に自分が魔法を持っていない状態だったとして、アレの前にそれでも立てるだろうか。
「これは、報告したほうがいい……よね」
とりあえず測定結果と骨の写真を端末に収める。
今回の特殊性ゆえに、多分これも持ち帰らなければいけないかもしれない。
(なんで今回残ったのって骨だけなんだろう。牙とかだったらまだ良かったのに)
魔獣は討滅した後は溶けるように消滅し、あとにはごく一部の部分が残る。
それは初回の四年前から今まで魔獣対策を行ってきた中での確定した事実だった。
だが、大体は牙や毛皮など有用な部分や骨の一部、黒い結晶体……魔力反応が特に強いため便宜上「魔核」と呼ばれている……が殆どだ。
骨に肉が残っているなんてグロテスクな状態での遺物は初めてのこと。
だいぶ触れたくはないが、遺物を「すべて」提出してくれたのだ。
これは持ち帰ったほうがいいだろう。
そう思い、義昭にこれらを引き取りたいと言おうと振り返ったのだが。
当の義昭は、さらに追加の骨を縁側の前に山積みにしていた。
「は?」
つい呆けた声を出す奏。
たいして義昭はやり切った感満載で。
「ふう、なんとか廃棄のところ漁って取り出せたかな」
そこには、骨格標本が一つ出来上がってしまうほどの遺物があった。




