表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/34

怪しいです

「帰っちゃいましたね、私、お邪魔でした?」

「いやいいで……いいよ気にしなくて。自由だからあの人たち」


そう、自由だ。そして下世話だ。

あとは若い者たちで……をこんな所でやられるとは思っていなかった。

昨日会ったばかりでそんな感じになるわけないだろうが。

そもそも義昭は女性に接した経験値が少ないのだ。

気の利いた話題どころか、普通の話題すらないぞ。

もう内心この状況どうしようと冷や汗をかいている義昭。


「すいません、なんか」

「いいって。んで、ここに何の用?」

「えっと、昨日言ったこと覚えてます?」

「……確か魔獣が何とかってやつ?」

「そうです。どうやらその魔獣が暴れたのがここみたいで」


荒れ果てた畑を見渡しながら話す奏。

義昭の背中から先ほどとは違う冷や汗が染み出す。


「ここって、貴方の畑だったんですね」

「……じいちゃんの畑ね」

「なるほどお爺さんの。それをこんな、酷いことします……」


まだ倒木も半分も片づけられてない。かろうじて、元は畑だったんだなと思える程度。そういえばスイカは……多分全滅だろう。

土曜日は魔獣の対処とその後の処理で頭がいっぱいだった。考えてみればじいちゃんもこの有様に何にも思わないなんてことは無い。きっと。


「そうだな、酷いことになってるよ」


よっと、そう声をかけて畑の真ん中に横たわる倒木の枝を落として担ぎ上げ、隅へ積み上げる。

少しでも片づけるのが詫び代わりになればいいが。そう思って。

だから奏の相手はできないかな、と思い彼女を見ると、何かおかしなものを見たかのように目と口をぽかんと開けていた。


「ええと義昭くん、それ、発泡スチロールか何か?」

「ん?」


彼女が指さしているのは先ほどまで義昭が担いでいた、人の身長程もある倒木。


「いや、普通に木だよ。少しでも片づけないと」

「えぇと、いや、うん……」


何か煮え切らない反応をする奏。少し迷った後に畑のすみ、何本かの倒木を積んだとこまで近寄り一番上のものを持ち上げようとチャレンジしていた。うんうんと唸る声が聞こえる。

何やってんだ? と思いつつ義昭はまた次の倒木の枝を適当に落としてから片手でつかみ上げ、肩に担ぐ。


「え、うそ? これ片手で?」

「おーい、遊ぶのは良いけどケガするなよ?」


彼女がいるので少し離れた別の場所に倒木を放り投げる。

ズン、と重厚な音が響く。


「さて、次」

「いや次じゃない! え、これ持てないしピクリともしませんよ!?」

「んー女の子の力じゃ厳しいんじゃない?」

「女の子とか男の子とかの次元じゃない気がします」

「そうか?」


また新たな倒木の枝を払って持ち上げる。


「少し重いけど、こんなもんじゃない?」

「えー……おかしい、この人おかしい……」


ちなみに通常は倒木除去作業には重機を用いるのが一般的である。

剛造が義昭を片づけに連れてきたのは、この力を当てにしている部分が大きかった。

当人は昔からこんな感じなので、特に違和感は覚えていない。

しかし奏としては見逃せない状況である。


「この力、人間離れしてる……これならいける? いやでも」

「どうした、ぶつぶつと」


また一本倒木を放り投げる義昭。

その軽々と重量物を扱う姿に奏は確信を持った。


「あの、一ついいですか?」

「どした?」

「昨日ですが、貴方は言いましたよね。『イノシシっぽいやつなら』って」

「え、あ、うん」

「ぽいやつって、何ですか?」


あっ……。義昭の背中に冷や汗がにじむ。


「その獣、なんだか普通の動物とは違うモノじゃ、なかったですか?」

「ええと……」


直感的に分かった。これ自分、魔獣を倒したと疑われていると。

実は義昭、だれにも魔獣を倒したとは言っていない。

じいちゃんにはイノシシっぽいのとしか伝えずに狩り小屋を狩りているのだ。

畑の惨状はイノシシが暴れた、そのほかは知らないで無理やり押し通している。

何がどこまで通じているのかはわからないが、義昭にはそうするしか思い浮かばなかったのだ。


(やばいやばい、え、魔獣と戦ったなんてなったらどうなるんだ? 逮捕? なんか連れてかれる?)


まず危惧したのがじいちゃんの説教だ。

狩りを習うものとして常に「無理はするな」「まず少しでも危険を感じたら逃げろ」と教わっている。魔獣に素手で向かうなんて危険通り越して無謀だ。その自覚はある。絶対に、怒られる。

怒ったじいちゃんはもう、凄く怖いのだ。絶対に避けたい。


「どうなんですか? 義昭くん」


奏がまっすぐな瞳で問いかけてくる。

それが義昭には尋問のように感じられた。


「確かにっぽいとは言ったけど、それはええと……」


やばい、言い訳が出てこない。

じいちゃんも怖いが、他人に知られるほうがもっと怖い。どうなるか分からない怖さがある。

なにか法律に違反するのだろうか、もしくは罰金とか?

そのとき、義昭の頭にきらりと閃いたものがあった。

そうだ、なにも答えなくてもいい。なんの権限があって質問されているんだ。

よし、惚けよう。


「俺も狩人初めて日が浅いからさ。返事に自信がなかったんだ。確かにイノシシだったよ。うん」

「ふむ……」


じとっと義昭を見つめる奏。

目をそらすなと見返す義昭。

すると奏はおもむろに腰のポーチからスマホサイズの機械を取り出して、倒木をつんだ辺りに歩いて行った。

自然と目で追う義昭。


「これはですね、魔獣の魔力を測定する機械なんですよ」


ポチポチと何か操作する奏。

電源が入ったのか画面に色が付いたそれを倒木にかざすと、赤い警告ランプとともに甲高い電子音が規則的に響いた。


「このように、魔獣がいたり暴れたりした跡には魔獣の魔力がまるで痕跡みたいに残るんです。そしてここでそれは出た」


また移動して畑、倒木株、折れた鍬などにも機械は翳され、そのどれもで警告音が鳴る。

そして最後に義昭のスニーカー。一つのものを使う性格の義昭が”土曜日も履いていた”それに機械が近づき、赤いランプと音が鳴った。


「これは魔獣が直接触れたものにしか残りません。たとえこの畑に残滓があったとしても、そこを踏んだからといってスニーカーそのものにつきはしないのです。靴に土が付着していても同様です。これほど微弱な反応なら、その程度の量の土で反応が出ることはありません」


固まった義昭の前、かがんで機器を操作していた奏が義昭を見上げ、じとっと目を細めた。


「改めて聞きます。東野義昭。魔獣と接触しましたね?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ