#4 このおっぱいで勇者は無理でしょ③
装備を前に立ち尽くしていると、武器屋の扉が勢いよく開いた。
「失礼します!」
重たい足音とともに、数名の騎士とギルド職員がなだれ込んでくる。
空気が一気に張りつめた。
「え!? なに……?」
私が固まっていると、ノエルが慌てて前に出た。
「ギ、ギルドの方々です! どうしてこちらに!?」
「緊急通達です」
そう言って、年配の職員が一歩前へ出た。
厳しい顔をしているけれど、どこか気まずそうでもある。
その隣で、細身の若い職員が私のほうを見た。
正確には、私の上半身をじっと見ている。見すぎている。
ブラウス一枚の薄着とはいえ、節度は守ってほしい。
(……待って!? 中世だと、これ下着扱いじゃなかった?)
(もしかして私、痴女だと思われてる!?)
急に恥ずかしくなったけど、今更着替えるのはもっと恥ずかしい。
若い職員は視線を逸らしつつ、慌てて書類を持つ手を整える。
「ゆ、勇者候補ルリ様っ! ギルド支部からの緊急通達です!」
「えっ!? 胸当てのサイズなんとかなる方法みつかったとか?」
私が希望を込めて言うと、その若い職員は気まずそうに肩を小さく震わせた。
「おい、コリン。勇者様の前だ、しっかりせんか」
「は、はいっ! す、すみません……!」
そう言うと、横から年配職員が書類を差し出す。
「……失礼しました。……こちらをご確認ください」
嫌な予感しかしない。
私は紙を受け取り、目を走らせた。
『勇者候補者ルリ殿 防具装備不可能につき、ギルド危機管理規定第17条により、勇者登録を却下する。』
「…………は?」
一拍置いて、叫んだ。
「はああああッ!? なにこれっ!!」
(却下!? え、私、まだギルド行ってないよね!? 初日だよ!? 初日で登録却下!? 対応早すぎでしょ!?)
若い職員。コリンと呼ばれていたその青年は、視線を泳がせながら小声で言った。
「そ、その……防具を装備できない方を、戦地に送り出すわけにはいかないという判断でして……」
「防具が着られない理由、なんだと思ってるの!?」
「え、ええと……その、おっぱ……胸部が……」
コリンと呼ばれた若い職員はさらに困ったように目を泳がせ、ボタンの隙間→透けた下着→胸の谷間と視線を動かしている。
(わかりやすすぎ!!)
「今ちょっと、胸見ながら言ったよね!?」
「ち、違います! 見てません!!」
「じゃあなんで顔真っ赤なの!?」
「そ、それは、当たり判定が大きくて……!」
(結局見てるじゃん!!)
ノエルが職員たちの前に立ち、庇うように言った。
「勇者様を装備不可能で却下するなど、聞いたことがありません!! 胸囲が……いえ、危機管理規定が理由だとしても、あまりにも失礼です!!」
コリンは「すみません!」と勢いよく頭を下げた。
その拍子にまた視線が胸に吸い寄せられる。
「このように、無防備なのに注目を集めるのは冒険する上でリスクなんですよ」
コリンが絶妙にやかましい。
指摘するようにムッとすると、コリンは慌てて天井を見始める。
天井は何もないのに。
(そんな勢いで天井見上げられても!)
私はいたたまれなくなって、コリンが持っていた円形の小盾を指差した。
「……あの、そんな言うなら、それで防御するから。……ちょっと貸して」
「えっ!? あ、はいっ!」
受け取った盾を、私は胸の前でぎゅっと抱え込むように構えた。
これなら、胸とか関係なく装備できるはず。
「……ほら、こうすれば……大丈夫だよね?」
上目遣いで確認すると、コリンは石像のように固まった。
その視線は、私の顔ではなく、その少し下に釘付けになっている。
「……あの、ルリ様。申し上げにくいのですが」
「え……? な、なに……?」
嫌な予感がして、自分の手元を覗き込む。
肘が胸を持ち上げる形になり、自然と谷間が深く刻まれていくのが自分でもわかる。
コリンは引きつった笑いを浮かべて、申し訳なさそうに指を差した。
「……盾の縁から、その、はみ出してしまっています。失礼ながら、盾を構えたせいでかえって弱点を強調しているようにも見えます」
「…………え?」
「むしろ、急所であるはずの部位を縁取る贅沢な額縁のようになっています! 隠すどころか、“ここが一番の見どころです”と展示しているかのようです! 僕も見逃せませんよ!」
「み、見どころって……。そんな……」
私は顔がカッと熱くなるのを感じた。
盾の縁から溢れるように、丸みがむにっと押し上げられている。
「その……もし敵がいたら、真っ先に視線を奪われると思います!」
それと同時に、やっぱりコリンがやかましい。
無言でコリンに盾を返してから、意図的に隣の年配職員に目を合わせる。
年配職員は、しっかりと私の顔を見て深く頭を下げた。
「勇者様を失うなど、本来あってはならない汚点。しかし“勇者が防具を着られなかった”など前代未聞でして……」
年配職員は苦々しく歯を食いしばった。
「上層部は、“初期登録そのものを無かったことにしろ”と……。誠に申し訳ありませんが、そのための建前として、“防具を着用できない者を戦地に送り出すわけにはいかない“としています」
「なにそれ? 胸が大きいだけで、勇者失格?」
私は紙を握りしめ、深いため息をついた。
誰も、何も言えなかった。
というわけで、スタート地点で詰んだ勇者、ここに爆誕。
白川瑠璃の異世界冒険記。完。
先生の次回作にご期待ください。
……
……なんて終わらせるつもりはなかった。
こんなの公式が言ってるだけなんだから!
私はオタク。いくらでも二次創作ができる。
(……もういい。勇者向いてない。防御すらできないし!)
むしろ、この胸を使って悪役令嬢ムーブかまして、貴族の婚約者ポジションを奪ってスローライフしてやるんだから!
自分が攻撃タイプだと悟った私は、作戦を“がんがんいこうぜ”に切り替えた。
こうして私は、“アーマーベスト”を選ばず、“セクシードレス”を手に取った。
防具はいらない。
私は胸を武器に生きていく。




