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このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


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15/17

#15 約束④

リリアが作業台に紙を広げたところで、私は一度、声をかけた。


「その前に、ひとつだけ説明していい?」

「ん?」


私は少し考えてから、言葉を選ぶ。


「ブラジャーのサイズってね、胸自体の大きさだけで決まるわけじゃないの」

「……?」


リリアはきょとんとした顔で、こちらを見る。


「基本は二つ。“トップ”と“アンダー”」

「トップ? アンダー?」


私は自分の身体を指し示しながら説明する。


「トップは、胸の一番高いところの周囲」

「アンダーは、胸のすぐ下。肋骨のあたり」


そう言って、指で位置をなぞると、リリアの視線が一瞬だけ動いた。


「この二つの差で、“どれくらい立体が必要か”が決まるの」

「差」

「うん。だから、同じ見た目の大きさでも、支え方は全然変わる。アンダーが合わないと、どれだけ形が良くても、重さを支えられない」


自分の経験を思い出しながら、少し苦笑する。


「肩が凝ったり、動くたびに痛かったり。最悪、ずっとズレる」

「なるほど……」


リリアの目が、すっと真剣になる。


「つまり、胸そのものじゃなくて、“胴体との関係”を見るのね」

「そう、それ。さすが、理解が早い」


リリアは小さく息を吸い、メモを取り始めた。


「……トップとアンダー」

「差が、立体構造」

「重さは、胴体に逃がす……」


ぶつぶつと呟きながら、線を引く。


(あ、これ、完全に職人スイッチ入ったな)


「じゃあ……」

リリアは顔を上げ、少しだけ躊躇してから言った。


「正確に作るなら……」

「はい」

「その二つ、ちゃんと測らせて」


私は一瞬だけ間を置いて、頷いた。

「……うん。お願いします」


リリアは深く息を吸ってから、布製のメジャーを手に取った。


「じゃ、じゃあ、まず……」

「うん。アンダーから、だね」


言葉にすると平然としているけど、内心は全然平然じゃない。

私は両腕を少し上げて、姿勢を正した。


「胸のすぐ下。肋骨のところに、水平に回して」

「は、はい……」


そう言って、リリアは一歩踏み込んできた。

小柄な彼女が、私の正面に立つ形になる。


「その、胸を、少しだけ……」

「うん、大丈夫」


私は言葉だけは落ち着いて返した。


リリアは一瞬ためらってから、両手を伸ばす。

指先が触れた瞬間、ぎこちなく力が入るのが分かった。


「お、お邪魔します……」

「いいよ。持ち上げないと、通らないと思うから」


実際、その通りだった。

リリアは覚悟を決めたように胸の下に手を差し入れて、下から支えるように私の胸を持ち上げる。


「っ……!」


思わず、喉の奥から熱い吐息が漏れた。

リリアの手のひらは、作業をしていたせいか意外なほど冷たく、それが私の肌の熱をじりじりと奪っていく。


「ひゃっ」

「あ、ごめん! 手、冷えちゃってたかも……」


リリアは慌てたように手を引こうとしたが、私は首を振った。

「だいじょうぶ、そのまま……続けて」


リリアは頷き、再び指先に力を込める。

その瞬間、彼女の細い指が、重みに逆らうようにして私の肉の中に深く沈み込んだ。マシュマロのような柔らかさと、ずっしりとした質量。

指の形に合わせて形を変える私の胸を見て、リリアの喉が「ごくり」と鳴るのが聞こえた。


「……すごい。……指が、埋まって……」

リリアの呟きは、ほとんど溜息に近かった。


彼女の指が、胸の底から脇の方へと滑る。肌と肌が密着し、逃げ場を失った熱がその一点に集中していく。

思わず、小さな声が漏れてしまう。


「あ……ん、っ……」


胸が数センチ浮き上がった瞬間、私の身体の感覚が一気に変わった。

今まで、肩に絶えずかかっていた岩のような圧が、嘘のように消える。

前に引っ張られていた重心が戻り、丸まっていた背中が自然な位置に伸びた。


(……あ、これ……)


これまで、胸の重さを誰かに“任せた”ことなんてなかった。

店員に触れられることはあっても、それは採寸や作業の一部で、信頼して身体を預ける相手じゃなかった。


(……友達に、こうやって支えてもらうの、初めてかも)


胸の重さが、手から逃げない。

でもそれ以上に、心のどこかで張りつめていたものが、ゆっくりほどけていく。


(重いのは、胸だけじゃなかったんだな)


そう気づいた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなる。

恥ずかしさより先に来たのは、安心感だった。


そのままメジャーを背中に回すため、リリアは私の身体に深く腕を回す。

まるで彼女が私を正面から強く抱きしめるような体勢になった。

リリアの細い腕が私の背中に回り、彼女の小さな体が、私の胸の重みに沈み込むように密着する。


(……近い……!)


私の鎖骨のあたりに、リリアの短い髪がさらさらと触れる。

リリアの体温が、薄い肌を透かして直接伝わってきた。


「こ、ここだね……」

その声が少しだけ震えている。


「……あ」


持ち上げたことで前に出た私の胸が、リリアの顔にやわらかく押し当てられる。

ほんの一瞬。逃げ場のない距離。


「――っ!?」


リリアが、完全に固まった。

視線がどこにも行けず、顔が赤くなるのがはっきり分かる。

息をするたび、距離が縮まる。


(……あ、これ、まずいやつ……)


私は慌てて姿勢を変えようとするが、リリアはメジャーを持ったまま動けない。


「……リリア?」

「い、いや!! だ、大丈夫!!」


勢いよく否定する声。

でも、メジャーはまだ背中に回っていない。

結果として、距離は近いまま。


リリアの声が、私の耳元でかすかに震えている。

必死に職人としての冷静さを保とうとしているようだけど、彼女の指先は、私の背中で迷子になったように彷徨っている。


自分の胸の奥で、心臓が早鐘を打っているのが分かった。でも、それだけじゃない。

密着したリリアの胸元からも、同じように激しく速い鼓動が伝わってくる。

どっちの心音なのか、もう分からない。部屋の空気までが、二人の熱でじっとりと重くなっていく。


「……ねえ、ルリ」

「……なに?」

「やっぱり、何でもない……」


ぽつりと、漏れた声。

職人としての驚きなのか、それ以外なのか、判断がつかない。


「……測るよ? 動かないで……」


リリアが、ふぅと熱い吐息を私の首筋に吹きかけた。

抱きしめられたままの状態で、彼女が私の胸の下に回したメジャーをぐっと引き絞る。

メジャーが胸の下を一周する。ぴたりと止まる。


「……アンダー……確認できた……」


言いながらも、リリアはしばらく動かなかった。

手が離れない。


「……リリア?」

「っ、ご、ごめん!」


慌てて手を離し、数歩下がる。

顔は真っ赤。耳まで赤い。


「だ、大丈夫……?」

「うん。慣れてる……はずなんだけど」


私は苦笑した。


(慣れてるのは“見られる”ことであって、同性をここまで動揺させるのは、初めてかも……)


リリアはメジャーを握りしめたまま、小さく呟く。

「……これは、確かに、支えが要るかも……」


その声は、完全に真剣で。

でも、さっきまでとは明らかに違っていた。

職人の興味。それ以上に、目が離せなくなっている人の目。


私は胸元をそっと押さえながら、内心でため息をついた。


(……また、無意識でやってる。ほんと、このおっぱい……)


意図せず、同性の距離感まで狂わせる才能だった。

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