表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/17

#13 このおっぱいで異世界は無理でしょ④

《アイゼン武具店》の扉を押し開けると、金属と油の匂いが鼻をくすぐった。


「いらっしゃ――あ、ルリじゃん」


カウンターの向こうで、リリアが顔を上げる。

相変わらず作業着姿で、腕まくり。元気そうだ。


私は軽く手を振りながら、一歩中に入った。


リリアの視線が、自然に上から下へ動く。

胸元で一度止まり、チュニックの落ち感を確認するようにしてから、スカートのラインへ。

値踏みじゃない。完全に、“服を見る目”だった。


「その服、着たんだ」

「うん。普段着としては、かなり助かってる」


私はくるっと一回転してみせる。

胸は、相変わらず目立つ。それでも、初日に着ていたコルセット姿とは印象が違った。

生地が胸の高さでストンと落ちているせいで、少なくとも胸だけが前に突き出て見える感じではない。

それに、デコルテや谷間も露出していないので、意図せず過剰なアピールをしてしまうこともない。


その代わり、布がふんわりしている分、お腹周りはどうしても太って見える。


私は無意識に視線を落とした。

確かに、私のお腹周りは決して細いとは言えない。


胸がこれだけあれば当然だ。支えるための胴体が必要になる。

それでも、インドアを極めたオタクでありながらも、なんとか標準サイズをキープしている。


ふと、視界の端に、棚に立てかけられたアーマーベストが目に入った。

初日に、胸当てのサイズだけが合わず、装備することすらできなかったものだ。


私は無意識に視線を逸らし、もう一度チュニックの胸元を見下ろした。

標準サイズのスカートは、比較的小ぶりな私のヒップラインにほどよく沿っている。

それは、私が太ってるわけじゃないというささやかな主張でもあった。


でも、そんな主張は、前世でも誰にも届かなかった。

胸に合わせた特注サイズのトップスと、意図的に選んだスキニーやペンシルスカート。

どうしたって、特注サイズは目を惹いてしまう。


バストサイズはABC……と細かく分けられているのに、公に語られるウエストサイズはいつだって“58cm”。

“ぽっちゃりキャラ”とされてても、65cmを超えることは珍しかったりする。


(……そんな細いわけ、ないのに)


私の胸は、アニメや漫画のキャラクターよりも大きな非現実的なサイズ

そんな胸を持っているだけで、「どうせ太っている」とひと括りにされる。


そして、そのレッテルから逃れるためには、アニメみたいな胸を持ちながら、アニメみたいな、ありもしない極細のくびれを証明し続けなければならない。


だけど、さすがにそんな“正解”には敵うわけがなかった。

だから、たぶん私は、胸を活かす場所に最初から近づかずに隠すことを選んだ。


コスプレも、似合う服も、全部。

憧れは確かにあったのに、笑われる未来のほうが、いつも先に見えてしまったから。


逆に言えば、だからこそ“58cm”という前提そのものが存在しないこの世界は、居心地がいいのかもしれない。

こうして考えると、誘惑に失敗したのも、別に不思議じゃない。


私はこれまで一度も、「胸を使っていい」と思えたことがなかった。

アピールする前に、否定される未来のほうを先に想像してしまっていたから。


だから私は、胸を武器にする場所そのものに、最初から立たなかった。

使い方を学ぶ機会も、成功体験も、あるはずがなかった。


……誘惑に失敗した理由は、技術不足じゃない。

経験がないことですらなくて、「使っていいと思えなかった」こと、そのものだ。


そしてそれは、私が陰キャな理由でもある。

目立つものを持っているのに、それを理由に傷つく未来ばかり想像して、自分から一歩踏み出すことをずっとやめてきた。

店員に話しかけられなかったのも同じ。


そんなことを考えていると、リリアが私をじっと見て、首を傾げた。


「チュニックがふわっとしてるから、ルリの足の細さが際立つね」

リリアのその言葉は、自分の殻に閉じこもっていた私の意識を、無理やり外の世界へと引き戻した。


「……えっ?」

間抜けな声が漏れる。


リリアはカウンターから身を乗り出すようにして、私の足元を指差した。


「いや、さっきから見てたんだけどさ。そのチュニック、胸に合わせてゆったりしてるでしょ? そのボリュームがある分、そこから伸びてる足のラインがすごく綺麗に見えるんだよ。ギャップっていうのかな。胸に目がいきがちだけど、ルリ、実は結構、足細いよね」 

「……そう?」


思わず自分の足元を見下ろした。が、大きすぎる胸に隠れて見えない。

そんな目立ちすぎる胸ばかりが注目されて、胸以外のものに目を向けたことなんて一度もなかった。

ウエストが58cmじゃなくても、胸が目立ちすぎていても。

それでも、私の身体には、誰かが「綺麗だ」と言ってくれる場所が、確かにあったんだ。


喉の奥が、少しだけ熱くなる。


「……リリア、ありがとう」


私は少しだけ視線を逸らして、口を開く。


「……相談があって」


それだけ言うのに、一瞬、間が空いた。


勇者の相談でもない。

武具の相談でもない。


ただ、“この胸で生きるための相談”をするために。

リリアなら、叶えてくれそうな気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ