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このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


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11/17

#11 このおっぱいで異世界は無理でしょ②

ノエルの家を出て、私は街の中心へ向かって歩いていた。


その途中で、何となく道端に転がっていた空箱を覗き込んでみる。

どうやらこの世界は、壺や樽を調べるだけで収入になる世界ではないらしい。


(……さて)


私は頭の中で、これからやるべきことを整理する。


・収入源の確保

・下着問題の解決(※急務)

・誘惑スキルの取得

・どうにかして社交会に呼ばれる

・もしくは着用できる防具を見つける


……多い。多すぎる。


(でも優先順位は明確だよね)


私は胸元に手を当てた。


(まずは、下着!!)


ノーブラで働くわけにはいかない。


異世界だからって、胸が重力から解放されるわけじゃない。

むしろこの胸、何も支えないと自己主張が激しすぎる。

というか、精神的に無理だ。落ち着かない。常に挙動不審になる未来しか見えない。


……


昼前の街中は、昨日よりも少し賑やかだ。

行商人の呼び声、子どもたちの笑い声、どこかで金属を叩く音。

異世界に来てから、ようやく「普通の平日」に触れた気がする。


無意識に、私は鼻歌を歌っていた。耳馴染みのアニメのBGM。


「ふんふふ〜、ふんふん♪」


チュニックの裾を揺らしながら歩く。締め付けがないだけで、こんなに気分が違うなんて。

命の危機も、今のところない。


興が乗って、思わず歌詞がついた。


「街をぶらぶら〜、ブラ探し〜♪」


口に出した瞬間、我に返った。


(……っ!! ちょ、待って、今の私、何歌った!?)


完全に無自覚。迂闊! なんという痴女!


周囲を見回すと、すぐ近くの露店の店主と目が合った。

店主がにこっと笑う。


「楽しそうだね、お嬢ちゃん」

「っ!?」


顔が一気に熱くなる。今度はメンタルが限界を迎えた。


(聞かれてた! 完全に聞かれてた!!)


私は何事もなかったふりをして視線を逸らし、足早にその場を離れた。


(……歌うんじゃなかった……! しかも歌詞が最悪!!)


胸はチートなのに、行動が全部ポンコツ。

私は真っ赤な顔のまま、心に誓った。


(二度と、外では、歌詞付きで歌わない……)


……


(……でも)


足早に歩きながら、私は胸元を押さえた。


(今の、かなり恥ずかしかったけど、この街の人たち、“ブラ”って言葉、知ってるのかな)


さっき目が合った店主の反応を思い出す。

変な顔はしていなかった。驚きも、困惑も、特別な反応も。


ただ、「楽しそうだね」と笑っただけ。

どう考えても、私の胸をジロジロ見るはずの状況なのに。


(“ブラ探し”って言葉に、引っかかってなかった。……この街の人、どうしてるんだろ)


チュニックの内側で、胸がわずかに揺れるのを感じながら、私は通りを行き交う女性たちにそっと視線を向けた。


昔から、視線には敏感だった。胸を見てくる人の目線は、だいたい同じ動きをする。

だから逆に、どこまでなら自然かが分かる。

……こういうところだけ、無駄に経験値が高い。


これは勇者のチートスキルなんかじゃない。

長年“見られる側”として生きてきた、私の固有スキルだ。


前世でオタ友とFPSをやってるときにも、裏取りしてくる敵に気づくのが異常に早いと言われていた。

「普段の日常が胸への視線との闘いだから自然と身についてるんだね」と納得されていた。

悲しすぎるスキルのルーツに、視界が少し滲む。


……ジロジロ見ない。

あくまで自然に。観察。調査。


布は薄そうなのに、線が浮いていない。

紐も、金具も、段差もない。


……見えない。とにかく、見えない。

ちなみに、こういうのをサーチするチートスキルは持っていない。

地道に、通報されないように、チラ見を続けるしかない。


(え? もしかして、何も付けてない?)


若い娘も、年配の女性も、普通に歩いている。

胸が小さめの人は気にならないけど、ほどよく大きめの人でも、何も付けていないように見える。


(……重くないの? 走ったら痛くない?)


文化の違いに、じわじわ不安が募る。


通り沿いに並ぶ店を見回す。武器屋、布屋、薬屋、雑貨屋……。

それっぽい店を見つけては、立ち止まって看板を読む。

でも、“下着屋”という概念がそもそも存在しない気がする。


(前世の感覚で探してもダメか。……勇者より難易度高いんだけど。下着探し)


私は布屋の前で立ち止まった。

大きな反物が並び、女性用の服も多く扱っている店だ。


(……ここなら、何かあるかも)


ようやく、それなりに品数の多そうな売場の前に立つ。

割と可愛い服もあった。けど、胸元の切り替え位置を見た瞬間、「あ、無理だな」って分かる。

試着するまでもない。経験が、もう答えを出してる。


私が着るのは、可愛い服じゃなくて、入る服。

その方が、最初から傷つかなくて済むから。


中では女性の店番が布を畳んでいる。

派手な髪の色が目を惹く。なんとなく、ズケズケ物を言いそうなタイプに見える。


(よしっ! 行け!)


しかし、この世界に“ブラジャー”という単語があるかすら不明なのだ。

もし通じなかったら?


頭の中で会話をシミュレーションする。


『すみません、大きな胸を支えるための下着はありますか?』

『ブラジャーっていうのは、ええと、その、おっぱいを固定する、布の要塞と言いますか』

『サイズは特注になるかもしれなくて』


なんて、身振り手振りを交えて説明する自分の姿を想像しただけで、社会的に死ねる。

無理。


(何その会話。難易度エクストラかよ)


店の前を二往復して、結局声をかけられないまま立ち尽くす。

前世の知識を異世界で披露して、まわりから賞賛されるような展開にはなりそうにない。


(陰キャには、服屋の店員に話しかけるという行為が最大の壁……)


胸はチートなのに、社会スキルが初期値すぎる。

私は一度深呼吸して、店の外へ逃げた。

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