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このおっぱいで勇者は無理でしょ  作者: りむ


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1/3

#1 職業が“勇者”になってしまった

——私、白川瑠璃。

どこにでもいる地味オタクの女子大生。


見た目は黒髪ストレート、前髪ぱっつん。

服装はファストファッション、メイクは最低限。


そろそろ就活を意識しないといけないけど、自分の強みがわからない。

唯一、胸だけが、どう考えても過剰スペックだった。


遺伝と成長期の気まぐれが生んだ、人生最大のアンバランス。

履歴書にバストサイズの記入欄がないのが悔やまれる。


注目されることはある。

でもモテたことはない。


理由は単純で、胸以外が地味すぎて「明らかに胸目当てだと思われるのが恥ずかしい」らしい。

気持ちはわかる。私自身も「どうせ胸目当てでしょ?」と思ってしまうから。

実際、そういう視線を向けられてきた経験もある。


だから私は、目立たないように生きてきた。

地味に、静かに、オタクとして。


アニメ、ゲーム、ラノベ。

異世界転生モノも例外じゃない。


テンプレは一通り履修済みだ。

トラック、過労死、神様、チート、勇者、魔王。

流れはだいたい把握している。


——だからこそ、目の前に光る女神が現れたとき、私はわりと冷静だった。


ファンタジー世界特有の大胆すぎる露出に、そこから溢れるような胸。

絵師が背景を埋めるために書きがちな、よくわからないけど神々しさのある装飾の数々。

目の前の女性は、誰もがイメージする女神そのもの。


白い空間。

足元は見えない(もともと胸が邪魔で見えていない)。

ふわふわ浮いている感覚。


(あ、これ死んだな)


そして案の定、女神様はにこやかに告げる。


『あなたには勇者の素質があります! 異世界で魔王を討伐してくださいね♡』


……いやいやいや。

地味女子の私が勇者? 無茶振りにもほどがある。


反射で脳内にツッコミが出た。

口には出ていない。

こういうところが地味陰キャたる所以なんだと思う。


それを肯定と捉えたのか、女神様は満足そうに頷くと光になって消えていく。


『では、良き勇者ライフを〜♪』



気づいたときには、私は街の外れにぽつんと取り残された。

手元にはチート級の勇者ステータスと、現世から持ってきてしまった胸のボリュームだけ。

……よりにもよって、そこは据え置きなんだ。


こうして、あっという間に職業が“勇者”となってしまった。


(……はいはい、転生直後の導入フェーズですね。)


頭の中で、これまで見てきた無数の異世界テンプレが再生される。


通常なら、ここで

 ・案内役

 ・チュートリアルNPC

 ・優しい兵士

このあたりが出てくる。


私はきょろきょろと周囲を見回した。


(……来るよね? さすがに放置はないよね?)


しばらくすると、遠くから足音が聞こえてきた。


「――あのっ、そこの方」


振り返ると、鎧を着た若い兵士が立っていた。

年は私と同じくらい。真面目そうで、少し気弱そうな雰囲気。

そして、何となく漂うモブっぽい雰囲気。


(あ、来た。絶対この人、チュートリアルNPCポジションだ)


「あなたが……勇者候補の、ルリ様で間違いありませんか?」

「あ、はい。一応……そうみたいです。よくわかりましたね?」


特に勇者感を出したつもりはないけど?

あれ、私、なにかやっちゃいました?


「女神託宣は、外見の特徴も示されていたのです。“夜更けのような黒髪、肩に落ちるまま真っ直ぐで、額を覆う前髪を持つ。飾り気少なく控えめに立つ娘こそ勇者なり”と」

「えっ……飾り気少なく……?」


なんというか……客観的に言われると刺さる。

髪色や髪型を指しているのはわかるけど、“飾り気少なく控えめ”って、それただの地味なモブ女子ってことでは……? 事実だけど!


(女神様……私の容姿、そんなふうに……)


胸の大きさへの言及がなかったのは、たぶん女神様なりの配慮だと思うことにした。

女神様も、私ほどではないにしても立派な大きさではあった。

案外この手の俗っぽい苦労をしたことがあるのかもしれない。


(“カップサイズ、両手に数えられぬほど”なんて真顔で託宣に刻まれてたら、異世界に降りる前にデータ削除ボタン探してた)


“飾り気少なく控えめ”な私が勇者だと知った兵士は、安堵したように息をついた。


「よかった……。女神託宣に基づき、あなたをお迎えに上がりました。私はノエルと申します」


(ノエル。ネームドキャラなんだ……)


「勇者様の初期サポートを担当いたします」

「サポート……?」

「はい。勇者様の冒険に関するあらゆる雑務を担います。安全上、最低限の武具は揃えていただかないと。なので、まずは武器屋にご案内しますね」


そう言って兵士ノエルは道を示した。


「あ、その……勇者って、いきなり装備もらえるわけじゃないんだ……」

「はい。剣を扱う勇者様や、斧を使う勇者様など、皆様得意な得物が異なりますので」


(まあ、それもそうか。“勇者と言えば剣”という先入観はあったけど、私が“伝説の剣”を扱うイメージが持てないし)


武器を何にしようか考えながら、ノエルのあとに続く。

あまり魔物に近づきたくないから、弓がいいかもなんて思いながら。


(よし、想定通り。次は装備、ステータス確認、ギルド登録……)


異世界モノとしては王道の流れだ。

一方で、「テンプレすぎてブクマが増えないのでは?」とも思わなくもない。


が、勇者である私は、そんなことを心配している場合ではない。


(……勇者かぁ……)


私は胸に手を当て、ため息をついた。


チートステータスはある。

魔王討伐も、世界救済も、理屈の上では可能なのだろう。


(私、どう考えてもインドア派なんだよなぁ……)


そんな不安を胸の奥にしまい込みながら、私はノエルの後ろについて歩き出した。

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