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最初のターゲットを殺す

 僕は村田のあとを歩き、駐車場に着いた。

 村田が白いバンのドアに手を掛けて開いたところで僕は奴の背後から腕を回して首を絞めあげた。村田は声をあげようとしたが僕は奴に回した腕に力を込めてそれを許さなかった。

 一人目の殺人でいきなりミスするわけにはいかない。僕はジーンズのポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。限界まで研ぎ澄まされたドイツ製のナイフだ。ドイツ陸軍の精鋭が持つこの軍用ナイフを僕はこよなく愛している。もちろん殺人の道具として、だ。

 僕は慣れた手つきで片手でナイフの刃を出して村田の目の前にちらつかせた。……かっ、と村田は苦し気に息を吐いた。その息は声にはならなかった。僕は村田が声を出すことができないような首の絞め方をしている。ちょっとしたコツがあるのだ。村田の喉ぼとけに僕の腕が当たり、そして押さえ込む形で首を絞めて、奴の首の動脈を腕を畳むことで絞め上げる。世の中の仕事はすべからく細かなコツによって出来上がっている。そして僕は殺人に関する細かなコツに習熟している。もちろん僕にはまだ習熟していない部分もある。僕はその手つかずの部分を自分自身の殺人の『のりしろ』として(たの)しみに取っておいてある。そののりしろは僕の殺人のプロセスに意外性のある出来事をもたらしてくれて飽きないのだ。

 僕はナイフの鋭い刃で村田の脊椎(せきつい)の神経を慎重に探った。そしてここだ、と確信した場所で力を入れて刃を入れて神経を切断した。僕は肉食獣が獲物の脊椎をひと()みで裂いて体の自由を奪うように容易(たやす)くその作業をすることができた。その瞬間、村田の体から抵抗する力が失われた。村田の体は僕の腕の中から落ちて駐車場のアスファルトに転がった。そのまま動けない。

「……な、なにを」村田は、素晴らしい手際の良さで奴の脊椎の神経を切断した僕を見上げた。

「ワイドショーで報道されている殺人鬼を知っているか?」僕は余裕で村田に声を掛けた。「小田原市で警察から逃げて捕まらない殺人鬼のことだよ。前に小田原で人を殺した時は、ちょうど人を殺したい気分だったんだ。むらむらしていた時期に廃墟(はいきょ)の心霊スポットに遊び半分で入った若者の馬鹿どもがいた。いいターゲットになったよ。俺はたっぷりと時間をかけて殺してやった。殺しの衝動が収まるまで人を次々に殺したんだ。全くいい気分だった」

「……な、何を言っているんだ。お、おまえ」村田は呻いた。

「さあ、ここでクイズだ」僕は言った。「あの小田原の殺人鬼とは誰のことかな? おまえの単純な頭に合わせて簡単なクイズを出したよ。どうだ、俺は親切な人間なんだ。さあ、正解を言おうか。『俺のことだ』。俺が小田原で五人の男女を殺した。警察も俺が殺ったと気づいていない。全く愉快なことだと思わないか。ところで、村田君。聞きたいことがある。君は俺の妻をレイプしただろう。証拠がある。妻はレイプ犯たちの声も刺青(いれずみ)も記憶していたしな。俺はおまえらのことを知りながら、この二か月間は選手として大目に見てやっていたわけだ。だが手を出した相手が悪かったようだな。貴様は俺の妻をレイプした」

「す、す、すまなかった。あんたの嫁さんだとは知らなかったんだ。ゆ、(ゆる)してくれ」村田は怯えながら言った。

「刺青を見せたのはおまえらがヒントとして女たちに与えたものだろう。同じ犯罪者として俺にはそういう匂いがよくわかるんだ。自分が犯罪を行う時には何かしらのヒントを残してスリルを味わいたいものだよな。レイプ犯は俺だよっていう証拠をちらりと残したいよな。そして被害者の人間をコケにしたいよな。気持ちはよくわかるよ。だがおまえらのしたことは決して赦されない。俺の妻をレイプしたことは赦されない。赦しは女たちに()うんだな。地獄でたっぷりとだ」

 僕は村田が声を出せないように口にソックスを丸めて突っ込み、奴らの車の中にあったガムテープで(ふた)をした。村田はうー、うーと声にならない叫びをあげた。それは悲鳴ではなかった。僕は村田の口を塞いだことで村田の悲鳴を聞くことなしにこれから殺人を行わなければならない。それは僕に少しばかり物足りなさを感じさせたが仕方がない。村田は一匹目のターゲットで、まだ後に梶と市井川が残されている。饗宴(きょうえん)はまだ続く。奴らに僕が殺人鬼だと悟られるわけにはいかないのだ。

 村田は脊椎を切られて動けない。僕は村田の腹を()き出しにした。僕は村田の腹を人差し指で突いて感触を確かめてからナイフの切っ先を当てた。そしてナイフを村田の肉に突き刺し、刃をゆっくりと動かして腹を裂いた。僕は村田の腹を十字に大きく開いて素人ながらに即席の手術を開始した。僕は「メス」とそこにいない看護師に指示を出してふざけて見せてから、まるで開腹手術のように村田の内臓を一つずつ取り出し始めた。まず僕は村田の腎臓を二つ切り取った。そして腹の中から外に放り捨てた。村田にとっては掛け替えのない大切な腎臓だろうが僕にはとってはそれほどでもない。それから僕は村田の胃袋の裏に手を入れて膵臓(すいぞう)を切り取った。そして胃袋の上下の入り口を切って外に引きずり出した。さあこれから心臓に繋がる血管を切断して……と思った時には村田は内臓を失ったショックで死んでいた。

「何だ、つまらねえな」僕はぼやいた。

 僕は村田のシャツで手と腕についた大量の血液を拭き取った。血液は完全に(ぬぐ)うことができなくて僕の両腕はピンクに染まったように見えた。まるでピンクが好きな女子高校生の趣味のようにも見えたが生憎(あいにく)、僕は女子高校生ではない。男のプロアスリートだ。それに僕はピンクという色が好きなわけではない。僕は樹木や植物の葉の緑色が好きだ。だが人間の血液は緑色をしていない。残念だが世の中とはこのように僕個人の望み通りにはいかないものなのだ。



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