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プロローグ

突如現れた敵対型植物による侵攻により人類は滅びの道を歩んでいた。


ロシアの地中から飛び出してきた全長2kmの巨大な塔に見えるそれは、大木であった。ただの木と違うところは、人を食らう植物を大量に放つこと。


それによりモスクワはわずか1月で陥落。おまけに前哨基地と呼ばれる大型拠点を作りながら、じわじわと範囲を広げて人類の生存圏を脅かしていた。


焦った人類は重火器を搭載した人型戦車、通常Panzer Frame(パンツァーフレーム)を開発することとなった。






2045年4月25日 ー北海道奪還作戦にてー


「ったく、新人38人もの面倒を見なきゃいけねえのか。めんどくせえな...」


16:30頃、コックピット内の操縦席に座る彼はそう吐き散らす。


吸い終えた葉巻をドリンクホルダーに投げ捨て、真正面にあるモニターを見る。


そこには金髪の女性、後輩兼副官のイリーナが映し出される。


「まーた隊長、葉巻吸ってる!葉巻は身体に毒だっていっつも言ってるじゃん!」


ほっぺを膨らませて怒る彼女は訓練兵時代の後輩であり、そしてこの部隊の副官である。

飛んだ大出世だ...。


「うるせ、少しぐらいリラックスさせろってんだ...。これが最後の一本になるかもしれないんだからよ」


最後の一本...。それは持っている数ではない。残りの人生で吸うことの出来る本数のことだ。


彼らは今から死地、敵の前哨基地へと飛び込むのだ。


「5%か...。相変わらずとんでもない数字だな。今回も俺は生きて帰れるのか...」


5%。その数字は前哨基地へ飛び込んでから1時間後の生存率だ。突入から30分後には半数近くが命を落とし、1時間後には殆どが死亡。数人が作戦失敗により撤退するという流れになっている。

一度、たった一度だけ作戦が成功し、誰かが前哨基地を無力化したことがあるらしい。

アランはその作戦には参加していないが、この部隊はずっと前から存在し、低い生存率の戦いを何度も繰り返してきたのだ。


「なーに言ってんの!死ぬ訳ないに決まってるじゃない?我らアンダードッグで唯一4回生き延びた英雄の貴方が相棒なんだし」


「アンダードッグ...。負け犬ねぇ...」


アンダードッグ大隊。それがこの部隊の別称だ。正式名称は国連軍植物拠点強襲大隊。

この部隊でただ1人、2回以上生き延びたアランを他部隊の兵士はこう呼んだ。負け犬と。生き延びたのは臆病で逃げ腰だったからだと。部隊の別称も彼のその立ち回りから付けられたのだ。


生存率が著しく低いこの部隊の主な役割は二つ。


高起動型の機体で敵の拠点にあるコアを目指して前進する。もう一つは高火力の機体で、後続の地上部隊が突入するエリアの確保だ。


アランとイリーナは、コアを目指し前進する役割を任された高機動型15機の内の2機である。


「新人の大部分は突入路確保に割かれたってのに、災難なやつだな」


「あなたの後ろが一番安全だからね〜。ついに私も一度目の生還者になるってわけ!」


一度目の生還者。このアンダードッグ大隊全45名中、6人がその偉業を成し遂げた。他の38名は初の突入ってわけだ。彼女も今回が初の突入となる。


何千体、下手したら何万体もの植物兵が待ち構える要塞に飛び込むんだ。その内のほとんどはこの戦いで命を落とすだろう。


操縦桿を震える手で強く握りしめる。ただ1人4回生存したこの男でも、恐怖や不安という人間らしい感情は残っているらしい。


「もうすぐ突入のお時間だな。陽動はどうなってる?」


「んー、作戦開始から1時間経過したけど、あっちはかなりの被害を受けているみたいだね...。」


国連軍と自衛隊、日本の大企業勢力である四菱の私兵隊の連合軍は札幌市を確保。江別市、北広島市を前線として植物兵の大部隊の相手を引き受けてくれている。


アラン達アンダードッグ大隊は現在、その背後である釧路市から移動し、植物兵の前哨基地を目指している。


目的地までの到着はおよそ5分後...。


「はぁ、あいつらが余計なことをしてくれなければこんな危険な場所に来ずに済んだのによ...」


大きなため息をつく。彼のため息の意味を察したイリーナは呆れ顔で話す。


「ほんとだよね〜。全人類が協力しなきゃいけないってときに日本で内戦起こして、貴重な戦力減らすなんてどうにかしてますわ〜」


2週間前、米国の言いなりとなっており、保守的な日本政府に対し危機感を抱いた四菱重工が決起した。


四菱の会長である四菱直哉は、直接その手で首相である遠山秀明を殺害。日本を手中に収めたのだ。


その際に彼は自衛隊の6割を味方に付け、自身の私兵隊と共に政府側の戦力や介入してきた米軍を蹴散らし、東京を制圧。政府機能を掌握した。


だがその際に失った戦力は大きく、防衛線には大きな穴が開いてしまった。


最悪なタイミングと言えるだろう。そんな時に中国を突破してきた植物群は北海道に上陸を果たしてしまったのだ。


現地の防衛部隊や派遣された四菱私兵隊の死闘も虚しく、植物群の大規模攻勢の前には歯が立たなかったようだ。


完全敗北した日本の連中はさっさと撤退。

植物どもは瞬く間に拠点を構築し、いまでは完全に敵地とかしたわけだ。


そんな考え事をしていたら司令部からの通信が入る。


「こちらコマンドポスト。突入準備はできたか!負け犬ども!」


国連軍高官の顔が映る。無精髭でいかつい見慣れた顔だ。


「アンダードッグ01からコマンドポストへ。全45機が現地へ到着。繰り返す。現地へ到着した」


いつのまにか目の前には全長100mはある巨大な木が見えていた。


前哨基地。植物の原種であるマザーの下位互換であり、我々人類の生存圏を脅かす敵どもの拠点だ。

今からこの中に飛び込んでコアを破壊するのが彼らの任務である。


「コマンドポスト了解。突入を開始せよ。繰り返す。突入を開始せよ!そしてさっさと帰ってこい。負け犬としてではなく勝利を手にしてな」


「「了解っ!」」


機体のブースターを最大出力にし、植物兵による種子砲の迎撃を避けながら、部隊員たちは次々と空洞へと飛び込んでいく。


大勢の命、期待を背負って彼らはここにいる。

その想いに報いるためにも、絶対に負けるわけにはいかない。

その誓いを胸に、アラン達は前哨基地内部に突入するのであった。





突入から30分後ー地下空間の深度250m地点にてー


いつもであればこの時点で半数近く脱落するが、今回はメンバー全員が生存している。

損害も軽微であり、新人の機体に多少の傷がついただけだ。


洞窟内で警戒を続けて進みながらも、イリーナは安堵したのかモニター越しに言う。


「アラン隊長。これはもしかしてみんなで帰れるかもじゃん!小隊規模の敵としか遭遇してないし、この程度なら私1人で倒せちゃうよ〜!」


呑気なものだと思った。だが、彼も内心ほっとしていた。

過去の突入経験から、常に最悪のケースを想像するようになっていたからだ。隊員全員が生存しており、気が緩むのも無理はない。


「油断するなよ...。敵はいつ現れてもおかしくはないぞ。ここは奴らの巣なんだからな。武装のリロードもしっかりしておけよ」


「了解でーす」


イリーナ機は銃のリロードを行い始めた。この機体の武装は銃剣切り替え式となっており、遠近両用として使える。

大型の植物兵に対処するためにも、30mm弾を使用しており、まさに今マガジンを交換していた。


アランは警戒を緩めない。いつでも戦闘を開始できるように機体が銃を構えている。


コックピットに警報音が鳴り響き、モニターにあるレーダーにエネミー表示がある。


「!?」


奴らが現れた。人類の敵である植物兵だ。だが幸い数は多くない。赤いエネミー表示の数は3。


アランは機体の武装を銃形態から剣形態に切り替える。


「雑魚に使う弾丸は勿体無い。近接武装でしとめるぞ」


イリーナ機が銃を構える間もなく、アラン機は踊る人間のように華麗な動きで3体を切り伏せる。


「うわ、相変わらずえぐ...。ちょっと引くくらいには」


「ふん、油断しすぎだ。もうすぐ最深部だぞ。全員気を引き締めろ」


奥に移動するにつれ、彼の冷や汗が止まらなくなっていく。

経験からくるものなのか、それとも順調に行きすぎて不安なのか。それは彼自身にもわからない。




「コマンドポスト。前哨基地の最深部手前に到着した。これより突入しコアを破壊する。繰り返す、これより最深部に突入しコアを破壊する」


「ーーー」


司令部からの返答はない。

いや、違う。返答がないのではない。そもそもこちらからの通信が届いていないようだ。



「通信がつながらないだと。今までこんなことなかったのに...。きな臭いな」


「隊長、大丈夫?」


不安そうな表情のイリーナが彼に話しかける。


何かが怪しい。

不安が止まらない...。


そう。彼の不安は的中してしまった。それも最悪の形で。

部下の1人がモニターに写し出され、アランに言った。


「隊長っ!まずいです。敵に包囲されています」


モニターをみる。レーダーは過剰なまでに反応しており、赤いエネミー表示は周りを埋め尽くしている。つまり、最低でも2000体はいるといることだ。


空洞から続々と植物兵が姿を現す。

まるで自分達がやってくるとわかっていて、待ち侘びたかのように。


「奴ら来やがった...。撃ちまくれ!」


部下の1人がアサルトライフルをフルオート射撃する。

狙わず撃とうとも、当たるほどに数が多い。


「なぜ我々の後方からも奴らが押し寄せているんだ...。後方には突入路確保班が控えているはず...。まさか、全滅したというのか?」


今回の突入作戦においては45名中30名が突入路確保に回された。通信が取れない上、こちらの後方からも敵が押し寄せてくるのは明らかにおかしいのだ。


激しい戦闘の末、ついに初めての犠牲者が出た。


「うわ!やめろ、来るな!ひ、隊長、助け...、うわぁぁぁ」


背後にいた部下が機体の装甲を剥がされ、植物兵の酸により溶かされていた。彼は初突入者ではなく、一度生還したかなりの実力者であった。


まるで、我々がここにやってくるとわかっていたかのように奴らは待ち構えていたのかと考える。アランの思考はどんどんネガティブな方向へ傾いていく。


「くっ、まさか奴らは我々の戦術を学習しているのか...?」


アサルトライフトライフルを構え、味方のカバーに入る。

しかし数が多すぎて守りきれずに、次々とメンバーが脱落していき断末魔がモニター越しに聞こえる。


「今回も俺は逃げることしかできないのか...。くそっ、総員!ただちに地上へ撤退せよ!繰り返す!ただちにーーっ!?」


周りを気にしすぎていて、彼は気付かなかったのだ。

自身の機体の背後に張り付いた敵の存在を。


装甲を引き剥がされ、伸びてきた蔓に身体を締め付けられる。


「ぐっ、あぁぁぁ...!」


必死に逆らう。だが、人間の力でそれを振り解くことは出来ない。


「あっ...、い、イリーナぁぁぁ...」


必死に周りを見る。愛しいその人を探す。だが、彼が見たものは拒絶したくなるほどの現実であった。


副官のイリーナが植物兵に溶かされて絶命する姿を見て、彼は言葉を失い、その意識は途絶えたのだった。





その頃 ー地上にてー


「だめです、アンダードッグ大隊全隊員からの応答がありません!」


司令部の要員が悲壮な表情で高官へ告げる。


高官はその現実を受け止めきれずに、大声で怒る。


「もう一度だ!もう一度連絡をいれろ!!」


「司令...、おそらく彼らはもう...」


副官が高官を制止し、最悪のケースを告げる。


「くっ、そうか...。くそっ!くそぉぉぉ!!」


高官は机を力いっぱい叩き、要員に対し新たな指示を出す。


「作戦中の全部隊に新たに指示を。突入部隊が全滅したため、地上の敵を空爆で掃討し、その後に前哨基地内部へ突入。敵を制圧しながらコアの破壊を行う!!」






この日、国連軍のエースパイロットが集まっていたアンダードッグ大隊は全滅した。

彼らは勝つことはおろか、負け犬でいることすら許されなかったのだ。


結果的に多くの犠牲を出しながらも、大部隊による突入でコアの破壊には成功。前哨基地は無力化された。


そして国連軍上層部は、少数精鋭による突入からのコア破壊は現実的でないと判断。

アンダードッグ大隊は正式に解体され、人類は他の手段にてコア破壊を模索することとなる。


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