第1章 席替えと
現実って、小説みたいにドラマチックな出会いなんて用意してくれない。偶然が重なって、気づけば誰かと繋がってる——そんなものだ。
高校一年の夏、大休憩のチャイムが鳴ると、教室は一気にカオスに変わった。
「よっしゃ、バスケ行くぞ!」
「コンビニ、早くしないと売り切れるよ!」
同級生たちが我先にと教室を飛び出していく中、僕はいつものように右後ろの席で、小説の世界に没頭していた。ミステリーの緻密なトリックと頭脳戦——それが僕の現実逃避の方法だった。だって、リアルな人間関係なんて、ぶっちゃけ面倒くさいだけだし。
教室に残った数人は、新しい席替えの話題で盛り上がっていた。
「新しい同桌、誰がいいかな〜?」
「マジで、前の同桌と離れるの辛いんだけど!」
僕? 別にどうでもいい。静かに本を読ませてくれる人なら、誰でもいいよ。
チャイムが鳴り、席替えのリストが黒板に貼り出された。教室は一瞬で歓声とため息の混じった騒ぎに包まれる。僕は荷物をまとめて新しい席へ移動。窓の外には、詩的な風景なんてない、ただの郊外の街並み。電柱に止まったスズメが、機械的に首を振って、ふっと飛び立った。
その瞬間——「バンッ!」
隣で大きな音がした。振り返ると、大量の本を抱えた女の子が、めっちゃ気まずそうな顔で立ってる。本が床に散乱してた。
「うわ、ゴメン! 落としちゃった…!」
彼女の声は、ちょっと焦った感じで、でもどこか明るい。
特に何も言わず、僕はしゃがんで本を拾い集めた。「どこに置く?」
「え、あ、そこの机…!」彼女は右手をぎこちなく伸ばして、僕の斜め後ろの机を指した。
本を綺麗に積み上げて、僕はまた窓の外へ視線を戻した。スズメはもういなかった。ちょっと残念。
しばらくして、斜め後ろから小さな声が聞こえてきた。
「ねえ、ちょっと…ここ、俺の席なんだけど。」
男子生徒の声。彼女、完全に固まってた。
「え、うそ、ホント!?」
彼女が慌てて黒板を確認すると、顔を真っ赤にして、「あ、ごめんなさい! 間違えた!」と笑って誤魔化しながら、荷物を抱えて移動してきた——そう、僕の隣の席へ。
彼女は机を整理するふりして、気まずさを隠そうとしてたっぽい。めっちゃバレバレだけど。
担任が教室に入ってきて、ざっと教室を見渡すと、書類を置いて今学期の予定を話し始めた。美術コンクールだとか、科目の時間割だとか。でも、教室には新しい席の緊張感が漂ってた。みんな、隣のやつとどうやって話しかけようか、チラチラ様子を伺ってる。
僕? 僕はただ、教室を遠巻きに観察してた。この空気、まるで青春小説のワンシーンみたいだな、なんて。
その時、右下の視界に、折り畳まれたメモがスッと滑り込んできた。
「え、なにこれ?」
一瞬、誰だよって思ったけど、隣の彼女がわざとらしく黒板をガン見してる。めっちゃ怪しい。
メモを開くと、こんな文字が。
「同桌! なんで私が席間違えたって教えてくれなかったの!? (ᗒᗣᗕ)՞」
…めっちゃデカい泣き顔の絵文字。いや、絵文字って! 思わず心の中でツッコんだ。
彼女の緊張が、文字の端々から伝わってくる。きっと、「変なやつだと思われたかな」ってビクビクしてるんだろうな。
下手に無視するのも悪い気がして、ペンを手に取った。
「ごめん、ちょっとボーッとしてて気づかなかった。m(_ _)m」
我ながら、めっちゃ無難な返事。そっとメモを返したら、彼女は黒板をガン見したまま、こっそりメモを開いてチラッと見た。
彼女の前髪が顔を隠してたけど、口元がちょっとニヤッとしたの、ちゃんと見えたよ。