6
コクマ軍は一時撤退。
それはケテル軍優勢の証拠だった。
当然命を落とした兵士もいる。
しかしケテル軍の野営はパーティーのように騒がしかった。
アンクルはその空気から逃げるように森を歩く。
敵の兵士が潜んでいてもおかしくはないが、あの空気はどうも性に合わなかった。
しばらく草木をかき分けながら歩いていると、大きな湖に出た。
月明かりが水面に反射して、明るい空間が広がっていた。
そして湖の中心に、リンの姿があった。
水浴びをしている。
彼女の肌には当然傷跡一つなかった。
その首には幾何学模様の刻印が刻まれていた。
それは彼女が勇者である何よりの証拠だった。
「綺麗だ……」
踏みつけた木の枝がパキリと、思いのほか大きな音を立てた。
「あ」
リンは警戒するように顔をこちらに向ける。
アンクルは、今になって赤面して顔を覆った。
「わ、わるい! 別に盗み見るつもりは無くて……」
覆った手の隙間から彼女の様子を伺う。
彼女はそそくさと湖から上がり、服を着始めていた。
「えっと、水浴びしてたんだ」
「はい。他人の血は衛生上よくないので」
「そ、そうだよな……」
アンクルは沈黙に耐え切れず、必死に話題を探す。
「今日、戦場でリンを見た。凄かった」
「ありがとうございます」
彼女の返答はひどく淡白でそっけなかった。
「……怖くないのか?」
「何がですか?」
「戦うことだよ。おれは今回全く戦えなかったから……」
しばらくリンからの返事は無かった。
顔を伺ってみると、そこに浮かんでいたのは人を見限ったような、色の無い顔。
「あなたがそれを言うんですね」
「……え?」
「誰も好きで戦っているわけじゃない。私もこの世界に来るまで剣なんて持ったこともありませんでしたから」
「あ、いや……」
今更ながら、アンクルは自分の発言が軽率だったことに気付いた。
言葉が出なかった。
伸ばした手は空を切る。
その場を去っていくリンを、アンクルは呼び止めることができなかった。




