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王子としての務めを果たせ。
父ガダフはそう言ったが、やることはほとんど無かった。
そもそもアンクルは末っ子の第三王子。
ヴィアンともう一人、腹違いの兄がいる。
後継にはその一番上の兄が選ばれるに違いない。
だからこそ、ガダフが自分に何を望んでいるのかさっぱり分からなかった。
だが案外やるべきことが無いというのは、アンクルだけではないらしい。
城内を歩いて回ると、兵士に覇気が感じられない。
見張りの兵士はあくびをしたり、こくこくと舟を漕いでいる。
練兵場では剣を振るう兵士の姿はなく、テーブルを囲んで博打をしていた。
どれも戦争大国とは到底思えない光景だった。
「どうなってるんだ?」
眉を顰めるアンクル。
それが博打をしていた一人の兵士の目についた。
「おやおや、これは第三王子。もしや、王子もコレに興味がおありで?」
「い、いや……」
彼らの吐く息は酒臭かった。
見れば机の上には酒瓶が並んでいた。
「お前たち、兵士なら見回りとか、剣術の鍛練とか仕事は無いのか?」
すると兵士たちは顔を見合わせ、途端に声を上げて笑い出した。
「王子、逆に聞きますけど、それって意味あります?」
「……え?」
「だってこの国には勇者がいるんですよ? 王子は留学に行っていたから知らないと思いますけど、アレは本物の化け物です。普通の人間が敵うような相手じゃない」
「……」
「しかも、勇者の力に守ってもらおうって、今じゃあ多くの国や貴族がこの国の属国になろうとしているって話ですからねぇ。このままの勢いだと、あの帝国すらも飲み込んじゃうかもしれませんよ」
「まあ、俺たちの仕事と言えば、精々後方で勇者の邪魔にならないように立っているくらいだよな」
清々しいほどに割り切った考えだった。
でも、確かに勇者の力を目の当たりにすれば、そう思うのも必然なのかもしれない。