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玉座に深く腰をかけた父―国王ガダフ。
記憶の中の姿よりも、少しだけやつれたように見えた。
「アンクル。お前から言い出した五年の留学。約束は果たしたぞ」
「……はい」
「次はお前が約束を果たす番だ。この国の王子としての務めを果たせ」
「……」
アンクルは返事を返さない。
ガダフは微かに眉を顰める。
「どうした? まさか、また我儘を言うつもりか?」
「……いえ」
ガダフは期待している、とは言わなかった。
玉座の間を出て、長い廊下ですれ違ったのは、先ほどの勇者の少女、リンだった。
「あ、キミ……」
リンは煩わしそうに振り返った。
「はい」
「あ、いや……さっきはごめん」
「さっき?」
「ヴィアン兄さんがキミの肩にナイフを突き刺したことだよ。いくら治癒するからていっても、痛いのには変わりないだろ?」
「……いえ。もう慣れっこですから」
「慣れっこって……」
勇者は召喚主の命令に逆らうことはできない。
命令に背くと、首に刻まれた刻印が勇者の首を絞めて苦しめる。
これまで沢山の仕打ちを受けてきた。
今日アンクルが見た光景は、その一端だったのかもしれない。
「そもそも、あなたが謝ることじゃないですよね」
「……え?」
そう言って、リンは去っていった。
「……何だよ」
アンクルはもやもやした気持ちで自室に戻った。
しかしそこは雑にものが仕舞われた物置と化していた。
手の込んだ使用人の嫌がらせだ。
せめて寝る場所だけは確保しよう。
「はぁ……」
アンクルは深いため息をついた。