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夢に出てくる母は言う。
「ごめんね、アンクル」
夢から覚めると、あれだけ安心できた声音すらも思い出せなくなっている。
覚えているのは、そんな母の謝罪だった。
五年ぶりにやってきた、都市の外れにある共同墓地。
以前よりも名前の刻まれた墓石の数が増えていた。
どうやらアンクルが留学でこの国を離れていた時も、戦争は絶えず起こっていたらしい。
アンクルはずらりと並ぶ墓石の中、少し古びた墓石の前で足を止めた。
母のものだ。
母はアンクルが六歳の時に死んだ。
がけ崩れに巻き込まれたらしい。
しかし正直なところ、アンクルはそれを疑っている。
母は王族の妃にしては珍しい農村の生まれだった。
城でも使用人からの嫌がらせを日常的に受けていた。
国が大きくなるにつれて、母の存在を良く思わない者が現れてもおかしくない。
事実、この墓石の下に母の骨は埋まっていない。
亡骸は回収できなかったという。
「やはりここに居たか」
振り返ると、数人の護衛に囲まれた青年の姿があった。
「ヴィアン兄さん……」
彼はこの国、ケテル王国第二王子にしてアンクルの腹違いの兄の一人、ヴィアンだった。
「五年ぶりの再会だというのに、城にも顔を出さずこんな場所に来て、お前という奴は相変わらずだな。おかげで俺が働かされる始末だ」
「すみません……」
「父上がお呼びだ。不本意だが馬車には乗せてやる。早く来い」
「はい……」
そう言われて乗り込んだ豪華な馬車。
アンクルの正面にはヴィアンともう一人、見知らぬ少女の姿があった。
ヴィアンは女好きでも有名だった。
アンクルはまた別の女性を娶ったのだろうかと思ったが、どうも雰囲気が違う。
腰に剣を下げたその風体は、妻というよりも騎士だ。
「気になるか?」
「あ、いや……」
ヴィアンは口の端を釣り上げて言う。
「コイツは我が国が有する『勇者』の一人、リンだ」
「え!?」
勇者。
それは異なる世界から召喚される、『アルカナ』と呼ばれる超常の力を宿した存在。
国の戦力は兵士の数でもなければ質でもなく、勇者の有無で決まる。
この国のみならず、世界における最高戦力。
それが勇者だった。
「こんな少女が……」
歳はアンクルとそう変わらない、一見するとただの少女。
リンは先ほどから目を伏せて、一言も話さない。
「そう侮るなよ? コイツは見た目に反して化け物だ。その証拠に――」
すると突如、ヴィアンは護身用のナイフを取り出し、リンの肩にそれを突き刺した。
「……っ」
リンの顔が苦痛に歪んだ。
「ヴィアン兄さん!?」
「そう慌てるな。よく見ろ」
するとその横で、リンの傷口が淡く光り出す。
そして徐々に傷口は塞がり、ものの数秒で元の綺麗な肌に戻っていた。
「コイツのアルカナは自然治癒だ。小さな傷なら数秒、致命傷でも数分で完璧に治すことができる。正真正銘の化け物だ」
アンクルは言葉が出なかった。