魔王、現代に降り立つ
時は202X年。
突如として現れた魔王の存在により、世界は滅亡の危機にあった。
だが、それを倒すべく勇者が立ち上がった。
いや、もう少し正確に言えば、『勇者適性診断』なるものを所有の携帯電話、パソコン等で受けた全世界の若者達の中から最も評価が高かった者が選抜され、数日間の研修、教育を受けた上で魔王城へと送り出されたのだ。
……実に、良い時代となったものである。
まあ、とにかく。
そうして選ばれた勇者は魔王討伐を目指し、目標の棲まう『魔王城』へと進み行くのであった。
「魔王様!大変です!
勇者が現れました!!」
魔王城の玉座に異形なる者の声が響き渡った。
「とうとう来たか」
そして、それに応える者が一人。
……魔王だ。
「ど、どうしましょう!
魔王様!どうかご指示を!」
「まあ落ち着け、相手は一人なのだろう?
ならばそう焦る必要は無い」
魔王はどっしりと構えたままそう答えた。
実に余裕のある様子だ。勇者を脅威とは微塵も感じていないのであろう。
「いえ、確かにその、一人ではあるのですが……」
「……?
何だ?話してみよ」
しかしそんな魔王とは裏腹に、部下の魔物は青ざめた顔で話し始める。
「…………〝敵自体〟は一個大隊。
いえ、それ以上はいるかと思われます」
「何……!?」
それを聞いた魔王がすぐに窓辺へと赴き、自らの目で外界の様子を見回した所……
空に無数の『機械の鳥?』のようなものを確認し、驚くこととなった。
「一体何なんだあれは!?」
「情報部隊からの報告によると、あれは恐らく人間共の開発した『ドローン』というものだと思われます!!」
「ド、ドローンだと……!?」
魔王の手は震えていた。
自身の常識など一切通用しない、未知の技術を目の当たりにしてしまったからだ。
だが、まだ負けた訳ではない。
そもそも戦いはまだ始まってすらいないのだ。
恐れずとも、勝機は我が手にある……
そう思ったのか魔王は手の震えを気持ちの強さで抑え、部下にこう指示した。
「……まあ良い。所詮ガラクタだ。
どうせ空を飛び回っているだけの飾りなのだろう?
ならばそんなものは無視すれば良いだけの事だ。
兵を集め、勇者の撃退に集中しろ」
「し、失礼致します!!」
それから数十分後、また先程の魔物が慌てて玉座へと入り込んで来た。
「……何だ?」
魔王は少々うんざりとしながらも、その訳を話すよう促す。
「先程、勇者撃退のため門前で待機していた魔物二百匹が……
ぜ、全滅致しました……」
「な……何だとっ!?」
この報告には流石の魔王でさえも動揺を隠す事が出来なかったようで、魔物達の王は今度は声までもを震わせていた。
「何故だ!?訳を話してみろ!!」
「それが……
どうやらあのドローンには。
火器や爆弾がしっかりと搭載されていたようです……
そのせいで魔物達は、上空からの攻撃になす術もなく……」
「………………」
「勇者は着々とこちらに向かっています。
魔王様、どう致しましょう?」
「こ、こうなれば……仕方がない。
今すぐ城の裏に馬車の用意をしろ!
一度何処かに身を隠し、体制を立て直すぞ!」
今の魔王に、先程までのような余裕はどこを探しても見当たらなかった。
「ま、魔王様!!」
「言ってみろ!今度は何だ!?」
再三に渡り慌てた様子で玉座へとやって来る部下に魔王はとうとう苛立ちを隠し切れなかった。
だが、その苛立ちはすぐに焦燥へと変わる……
「馬車が……馬車がドローンに破壊されてしまいました!」
部下のその一言によって。
「……!?な、何故だ!?
まさか貴様、馬車を目立つ場所に置いたのではあるまいな……?」
……そうは言いつつも。
目の前の魔物が信頼に足る者である事。
そのようなミスをする者ではない事。
それは魔王自身が最も良く理解していた。
だが、そう言わずにはいられなかったのだ。
まるで手の内を全て読まれてしまっているような、この気持ちの悪い状況の最中にいる魔王は……
「い、いえ!そんな事はありません!
どうも敵のドローンには『カメラ』なるものまでが搭載されているらしく、理屈は分かりませんがそれによって馬車の位置が特定されてしまったようなのです!
しかも……その『カメラ』ですが。
一部の人間がその映像を『SNS』なるものに流出させているようでして、その……
わ、我々の動きは全て人間共に筒抜けだそうで……」
「…………かめらに、えすえぬ、えす……
とうとう、魔王は鸚鵡返しくらいしか出来なくなってしまった。
まあ、また訳の分からない単語が部下の口から飛び出したばかりか、その訳の分からないものによって我が軍の行動全てが相手に見透かされているというのだから、それはむしろ当然と言うべきだろう。
……と、その時。
魔王とその部下はこの部屋に近付いているであろう、何者かの足音を聞いた。
「…………!!何者だ!!」
「恐らく、勇者でしょう……
魔王様、私は、私はどうしたら……」
部下の問いかけに対し、八方塞がりとなってしまった今の魔王は。
何も、言えなかった。
こつこつ、こつこつと響く足音は確実に玉座へと近付き。
そしてとうとうそれが聞こえなくなったかと思うと、扉が音の主によって開かれた。
それは当然ながら、勇者だった。
「ゆ、勇者……!!」
遂にやって来た目の前のそれは。
また、訳の分からないものを持ち出しては私を苦しめるのだろうか。
想像して恐怖し、焦り。
部下と共に震えている事しか出来なかった、魔王の口から飛び出したものとは……
「……ま、待て!取引をしないか?
私と組み、世界征服を果たした暁にはこの世界の半分をくれてやろう!どうだ?悪い話ではないだろう?」
取引という名の命乞いであった。
とは言え、それは全くの出鱈目ではない。
事実、魔王はこの世界の技術に驚き、混乱していただけで確かな実力はあった。
そしてそこに、その技術を理解しているであろう勇者が加われば、魔王軍の世界征服はより確実なものとなるのは間違いない……
そう、魔王がそれに賭けるのは充分理に適うものであったのだ。
しかし、勇者は首を左右に振った。
やはり、『打倒魔王』という確固たる意志を持った者を味方につけるというのは、土台からして無理な話であったのだろうか。
だが、ここで断られる事それ即ち死。
魔王は頭を普段以上に回転させ、勇者が首を縦に振りたくなるような甘言を捻出しようとする……
「あの、魔王様……」
するとその時、魔王に部下が囁いた。
「何だ!今は貴様などと話している場合ではない!」
「勿論分かっております。
ですがどうか、お聞き下さい……
魔王様。
ここは一つ、この時代に合ったものを差し出すというのは如何でしょう?」
「……何?」
部下の言う『この時代に合ったもの』とは一体、どのようなものだったのだろうか……?
数日後、魔王は世界を征服した。
勇者と共に。
そう、魔王の誘いに勇者は乗ったのである。
そして、世界征服を果たしたその魔王はと言うと……
今は部下と共に勇者との取引の後、すぐに契約した携帯電話を凝視している真っ最中であった。
「まさか勇者が『SNSのフォロワー1000万人』で手を打つとはな。時代は変わったものだ」
「ええ……しかし、1000万人とはなかなか厳しいものですね。
まだ半分も集まりません……魔王様の方はどうですか?」
「私はまだこの『けーたい』とやらの扱い方が良く分からん……
……クソッ!
これなら世界征服の方がまだ楽だったぞ!!」
お読みいただきありがとうございます!
別作でもお待ちしております( ´ ▽ ` )マタネ✨