90.スイウの念願
〜前回のあらすじ〜
タウと2日過ごしてきたわけだが、その原因となったかもしれない院長先生、スイウにまた呼び出されました、というアミの夢。
またあの部屋に行く。
以前院長に呼び出されたときに行った、あのあり得ないほど豪華な部屋。
未だに何だかわかってはいないが、スキルを渡された、あの部屋。スキルってなんなんだ、ほんとうに。
部屋に着くとすぐ、人払いがされた。
前と変わらない部屋に、にこやかなスイウがいた。
「やあ、スキルはどうだい?」
今日の話題はそれか。そうだろうと思っていたが、回答は考えられなかった。もしかしたら、タウは……そんな気持ちは薄っすらあったが。でもそんな摩訶不思議なことがあるだろうか。だから、濁した。
「よくわかんないです…でも、最近変わったことがあったんです」
そう言いながら、タウに確認をとる。
『タウ、君のこと言っていい?』
『……こいつは誰だ?』
少し考えるような間があった後、そう問われる。
改めて聞かれると、この人をどう説明しよう。
『スキルを持っていた人、らしい。私さ、前この人からスキルってやつをもらって……。ここの院長先生なんだって。偉い人』
『王だな………ならいい』
王様?え、国内の権力者とは言っていたが、王様なの……?ほんとに逆らっちゃいけない人じゃん。
まあ、とりあえず置いておこう。許可は得た。
私の思考に一区切りがついたことを感じ取ったのか、スイウは尋ねてきた。
「どんな?」
「なんか、自分以外の声がして、そいつは魔法も使えるんです。自称魔王なんですけど、実際めちゃくちゃ強いので、そうなのかなって。でも、よく考えたらおかしいですよね、これ」
説明って難しいなぁ。言いながら、最後は少し笑ってしまった。我ながら、ありえない話をしている。この人は王様だ、と言われているというのに。
「……もしかして、昨日と今日起きた、失踪事件は君が関わっていたりする?」
どうやってここまでつなげたのだろうか。魔王様、っていうところかな。
言って、いいのか?タウが何も言わないってことは大丈夫なのだろうか。王様は、孤児を殺したくらいで罰するのだろうか。こんな孤児院のトップなら、罰することはない気がするが。
「そうです。すべて、私の責任です」
スイウは、その言葉を吟味するように、じっくりと時間をかけて考えている。私は、時間が止まったように感じながら、じっと彼の返事を待つ。
「そうか。そうなのか……。ついに…!やっと、僕は…」
喜んでいるのか?感嘆している?よくわからないが、罰することはないのか?じゃあいいか。
「すまない、取り乱した。こちらの話だ。…きっと、それは現実に起きていることだよ。二重人格みたいなものかな?」
二重人格…。そんなこと言うと、実際に患っている方に悪くないか……?でも、1番わかりやすい例えはこれだったのだろう。というかこの国1番の権力者だし、大丈夫でしょう。きっと。うん。
「でも、スキルではないよね…。スキルってさ、攻撃とか防御とか……そういうものだと思うんだけど。ほんと、なんなんだろうな。それは」
院長にわからないならお手上げだ。
「私もわかんないですよ。ほんと」
私は挨拶を交わしてから、部屋を後にする。
廊下に出ると、職員が待っていた。
いや、それでは語弊がある。
明らかに敵対の雰囲気を感じるような、そんな職員どもが6人ほど。
「院長先生とは、何をお話に?」
手から火を出しながら、ひとりの職員が聞く。
脅しだろうか。ここ2日、炎と呼びたくなるレベルの火を見てきた私からすると、何も怖くない。
……ちょっと盛りました。足震えてます。
でも、安心感が少しあるんだ。タウが、いる。
『タウ、どうすればいい?』
『事を荒立てないことが大切だろう。……とりあえず毒だな。アミ、やっていいか?』
敵対してくる職員だ。何も文句はない。
感覚は、鈍っている。
『うん、殺さないように』
『そうだな。〈痺毒〉』
少し辺りが紫に光っただろうか。
その後、職員はバタバタと倒れていく。
かなり音がしたような……。ちょうどここは、あの部屋の前。もしかして院長先生が…。
そう思って後ろを向くと、扉は開いていた。院長先生が、立っていた。
「どうかした?……すごい音がしたと思ったけど、これは…アミ、言い訳は?」
「相手が敵対行動を取ってきました。いつの間にか、倒れていました」
これが、最も良い答えだ。例え、これにより捕まろうとも。私がそう答えると、スイウは事を思い出すように目を閉じた。
「そうだねぇ……僕は最初から見ていたから信じるよ。なんとも美しい魔法で……いや、それはいい。でも、職員を6人もクビにするとしんどいからね。処分なしでいいかい?彼らには急に雷が落ちてきたとでも言っておくよ」
ホッとする気持ちから、その後どうしたかは忘れてしまったが、5年間の日々は覚えている。
訓練と実践、そして思考と反省の日々。
楽しいような、疲れるような。
タウと仲良く?過ごしていたのだったなぁ。
こんなことを話し出すとは、この夢ももう終わりだろうな。ここからは、面白い毎日だというのに。




