70.魔王城前へ
「やっぱこの一線超えると雰囲気あるよね…」
「ふたりとも大丈夫?」
「大丈夫」
「私も」
私たちは少しずつ真ん中へと歩いていく。
『アミ、今だ』
タウの声。
今だ、ということは、合図だ。
周りの人たちに聞こえないよう、タイミングを見計らって…。
「召喚」
きっと、大丈夫だ。
『よし、使えそうだ』
次の瞬間、光の粒が私たちの前に現れた。
それは人の形を作るように集まっていった。
そして、その奥からタウが出てきた。
「皆々様、ごきげんよう」
第一声がこれか。ふざけてんな、あいつ。
「っ……まさか!!」
「ふっふ…察しが良いな、シン」
そしてこう続ける。
「俺だ。タウ、とでも呼んでくれ」
「なぜ…いや、条件は…コンパスとかか?あるいは、ロープを越えてくること…?幻覚か?」
「いや、実体はあるっぽいね。一応鑑定しておくよ」
おぉ。さすがリゼ。
「なんでいるんだ、タウ」
怪訝な表情のシン。
「まあなんだ。お前らの手助けをしてやろうと思っただけだ。……契約しようじゃないか。俺と戦え」
ここまでは私もわかっている。
この先どう出てくるか。
「契約内容によっては断るけど」
リゼは、鑑定をやめている。
…難しすぎたとか?
「仮死状態にするやつだ。シンならわかるだろ?」
「あれね。…まあ、断ったら通してくれなさそうだし。僕はいいよ」
「私もいいよ!あの日の恨みを晴らしてやる…!」
リゼ…何があったの。
「私はいいよ。実践を積みたいし」
「よし、じゃあ契約だ」
「この範囲で戦ってくれ。また、制限時間は3分だ」
その直後、私たちは立ち入り禁止区域の完全な中心部分まで転移させられた。
そして、私たちの周りを高い高い炎が覆う。
「合図はそっちが」
タウ、優しいのか煽りなのかわかんない。
「じゃあシン、お願い」
シンが周りの様子を伺い、タイミングを図っている。
約2秒後。
「はじめ」
最初の一手を取ろうと、または相手を知っているため、一斉に全員が動き出す。
やはり一番にぶつかったのはシンとタウ。
「はっ、やっぱりこうなるか、タウ」
「まあ、限られた時間だからな。できるだけ楽しみたいじゃないか」
「なにその!私たちは関係ないみたいなやつ!」
リゼ…何かと食ってかかってる。
「その通りじゃないか。お前はまだマシだが…他は」
くぅ…わかりきってることを。
そりゃあそうだ。私はタウから少し指導されているくらいの、ただの人だ。
訓練している、といっても10年ほど。
まだまだ、他の人には並べない。シンやリゼなんてさらに。
いつの間にか、私の目の前にタウがいた。
「なぁ、アミ。覆せない実力差ってのは存在するんだ。これからも鍛錬しろよ」
そう言い、すぐに元の位置に戻っていった。何がしたかったんだ。実力差は感じたけど。
「アミ、無事?シン、何が?」
リゼが駆け寄ってくる。
「僕が力を抜いた途端、身体強化して一気に詰めた。それだけっぽい」
離れ業ってことですよね。さすがです。
「でも、ずっと前の記録の魔王なんでしょ?これ」
「多分。高度な映像というか…。そういう類の契約だと思う」
なるほど。そう考えたんだ。違うけど。
「3秒後、行って」
そんなこと考えてる場合じゃない。行かないと。
「いけぇぇぇ!!」
とにかく走る。そして距離を詰める。
シンはきっと後方支援してくれる。
リゼはきっと後で毒を使ってくれる。
私がすることはひとつ。攻撃するんだ。
タウにクナイが当たった。
「まだまだ甘いな」
そう思っていたけれど、タウの刀で止められていた。
「おそらく、前のスキルは使えない。攻めていいよ!」
遠くからシンの声が聞こえる。
…というか今更だけど、タウの刀と私の収納にある刀って一緒だよね。分裂してない?
「考え事か?ふっ、舐められたものだな」
タウに、クナイを燃やされた。
一瞬の出来事だった。
でもそれだけは対応できた。
だから収納魔法を使って刀を取り出し。タウに振った。振ったと思ったのだ。
いつの間にか、タウの刀が私の刀より上になっていた。
そのまま地面に押され、てこの原理でやられた。
「アミ!助かった」
「なっ」
でも、私の後には、リゼがいる。
「くらいな!私の恨みを!!」
やっぱ何か根に持ってるらしいっすね…。
毒をくらった直後、タウは崩れた。
「シン!来い!!」
リゼがシンを呼び出す。
シンは一瞬でやってきた。
そして無言で、火を放った。
並んでる姿を見ると、まさに双子だった。
「よし、これできっと大丈夫…」
シンはフラグを立てた。
「いや、大丈夫じゃないな」
タウがそう言ってから、大量の水が彼の周りから出てくる。
そして、びりびりっとした。
「なにこれ…?」
体が動かない。かろうじて話せるレベルだ。
シンもリゼも同じみたい。
タウだけが立っている。
だめだったのか…。毒の作戦は。
「水魔法で雲を作るんだ。確率で、雷が起こる。まあ、感電させただけだな」
タウの説明は簡潔だった。
「あと約30秒…。まあ、注意事項くらい話しておくか」
タウは一体何を話すというのか。
「知っていると思うが、コンパスの先はここだ。城の中。地下の方にある。そこでまた会えると思うから、頑張りな」
必要だったのかな?この戦闘は。
「あ、ついでに刀貸せ」
タウがそう言ってから、私のそばに落ちていた刀を拾う。自分勝手な…。
いや、タウのだけどね?今は私のだし…。
「創造」
その瞬間、刀が元に戻る。
「すごい…」
「じゃあまた、お会いしましょう。…あ、回復いるな」
「回復」
その直後、私たちのまわりに光が集まる。
そして、元通りに回復した。
「待て…!タウ!」
シンがタウのところまで走る。
「それでは、また」
炎の壁が消える。そして、タウは光となって消えていった。




